身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ

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4章

7 メイドさん

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ヴァルドさんの分のアップルパイを受け取り、ノーマン館長とルシアン先生とお別れした。

ヴァルドさんにコーヒーを用意したくて、部屋でコーヒーを淹れてから、アップルパイをトレイに乗せて執務室へと向かう。
廊下にはぼくの足音がぱたぱたと響いていた。

ふふ。なんだかメイドさんみたいだ。
カッコいいかな。そう思ったのも束の間。

ぼくの両手にはアップルパイとコーヒーの置かれたトレイ。
バランスが不安定で、扉をノックすることが出来ない。これじゃメイドさん失格だ。

「どうしよう……」

床に置きたくないし、大きい声で呼んで通信中だったら大変だ。トレイを持ったまま、どうしようかとうろうろしていると、突然執務室のドアが開いた。

「あ……」

「アシェ」

ヴァルドさんだ。
困ったように笑いながら手招きをしてくれた。
執務室のドアが閉められる。

「ど、どうして分かったの?」

「ドアの外の気配を感じて、アシェだろうかと思ってな。願望も入っていたがな」

「願望……?あ、ヴァルドさん。
料理長がアップルパイを作ってくれたんだ。
焼き立てなんだよ。コーヒーも用意しました」

「用意してくれたのか。ありがとう。
ちょうど区切りがいいところだ。
休憩する」

ヴァルドさんはペンを置いて、椅子から立ち上がった。ぐいっと身体を伸ばしている。

「こちらに置いておきます。
……メイドさん、みたい?」

来賓用の2人掛けソファーの前にあるテーブルにトレイを置く。ぺこりとお辞儀をしてメイドさんの真似事をしてみる。

「そのメイドさんは、ご主人より先におやつを食べたようだな?」

「わっ」

2人掛けソファーに腰を下ろしたヴァルドさんに、腕を引かれて胸元に引き寄せられる。

「頬に食べかすがついてる。
立派なメイドさんにはまだ遠いな」

「あ、うう……」

ヴァルドさんはにこりと笑って頬に手を触れていた。カッコよくなりたかったのに、失敗しちゃった。ぼわりと顔が熱くなる。

「……持って来てくれてありがとうな。
アシェも何か飲むといい」

「ぼ、ぼくはヴァルドさんにアップルパイを渡しに来ただけの、メイドさんなので……」

「そうか。次は一緒に食べような」

「はい……」

ヴァルドさんに見つめられて、なんだか恥ずかしい。ぼくはただ小さく返事をすることしかできなかった。

__


「アップルパイ、美味い。限定メニューなのはなんだか勿体無いな」

ヴァルドさんはすごく美味しかったのか、ぱくりと一気にアップルパイを食べてしまった。

「また食べたいね」

ヴァルドさんはコーヒーを口に含んでこちらをちらりと見る。

「アシェ、コーヒー淹れられるようになったんだな」

ヴァルドさんは嬉しそうにぼくに声をかけた。

「ルシアン先生がたくさん飲むから、淹れ方教えてもらったんだ」

「……ほう」

ヴァルドさんは動きをぴたりと止めて、ソファーで足を組む。どうしたんだろう。
ぼくは隣りに座るヴァルドさんを見上げる。

「随分仲良しになったんだな。ルシアンと」

「え?ルシアン先生眠気覚ましにコーヒー飲むんだって。ヴァルドさんもいっぱい飲むから、作れるようになったら、ヴァルドさんが喜ぶかなぁって……」

「そうか。……コーヒー美味いよ。
また淹れてくれるか」

ヴァルドさんは少し悩むような顔をしていたけど、すぐに微笑んでくれた。

「うん!また持ってくるね」

良かった。上手に淹れられて。
コーヒーの匂いがふわりと漂う。

ぼくはまだ苦くてコーヒーが飲めないけど、いつかヴァルドさんと一緒に飲めるようになりたいなって思った。

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