身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ

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4章

8 小鳥



今日はお勉強が終わってから、お昼ご飯をヴァルドさん達と一緒に食べてお腹がいっぱいだ。

ヴァルドさんは仕事で討伐の任務や見回りに出ていない日以外は、ぼくと一緒にいつもご飯を食べてくれる。

どんなに忙しくても、書類を終わらせて来てくれる。1人でも大丈夫って言いたいけど、本当は一緒に食べたいから言えなかった。
一緒に食べるご飯が美味しくて、楽しいから。

お昼が終わったら、また自由な時間だ。
最近は騎士団庁舎の中を歩き回っている。
色々発見があって、楽しいんだ。
中庭に視線を向ける。

「あっ」

中庭には小鳥が、誰かが落としたパンを持って行こうとしていた。あんなに近くで小鳥が見れるなんて。なんだか可愛い。

近付いたら逃げちゃうだろうから、しゃがんで遠くからじっと見つめる。
小鳥は器用にパンを咥えて羽ばたいていった。

こんなに可愛い小鳥を見たのに、嫌なことを思い出す。レオン義兄さんが機嫌が悪くて、ぼくのパンを床に投げたこと。

お義母さんはレオン義兄さんがした悪いことには何も言わない。
ぼくは拾って食べた。
お腹が空いてたんだもの。

「……」

でも今はお腹がいっぱい。
ぼくのパンを投げる人なんていない。
寧ろみんな、もっと食べるんだよってパンとかお菓子とか渡してくれる。
ここにいるのは、優しい人ばかりだ。

「あ!」

別の小鳥がぼくの側に飛んできた。
首を傾げながらぼくのことを見ている。

「バレちゃったのかな」

ポケットから、リオットさんが渡してくれたビスケットの袋を取り出す。『栄養満点でオススメっす!』って渡してくれたんだ。
何枚か入っているうちの1枚を取り出す。

半分細かく砕いて、地面に置いたら小鳥は器用に啄んでいた。
サクリ。
残り半分のビスケットを食べてみる。

「美味しい」

お腹いっぱいで、こんなに幸せで、これ以上ぼくは、どうしたら恩返しが出来るのかなってたくさん考えるんだ。

すると小鳥はいくつか啄むとパタパタと飛んでいってしまった。お腹いっぱいになったのかな?

ふと気がつく、この匂い。
――雨の匂いだ。

「わあ」

ぽつぽつと雨が降ってきたかと思うと、雨足が強くなる。雨宿りに騎士団庁舎に戻ろうとしたが、洗濯物が干されたままだ。

走って洗濯物の方へ向かう。
騎士団のみんなの服は洗って、掃除、洗濯係の人が干してくれる。
急な雨だから係の人はまだ気付いていないのかもしれない。
急いで物干し竿に括り付けられた片方紐を外す。もう片方を外しに行こうと身体を翻す。

「わ、ぷ」

「アシェ」

ぽすんと胸元に身体が当たる。
ヴァルドさんだった。傘を持っているから、雨が当たらなかった。

「執務室から見ていた。今日は突然の雨とはな。洗濯物を取り込んでくれたんだな」

「う、うん……」

中庭は執務室の窓から確かに見える。
ヴァルドさんが傘を持ってきてくれるなんて。

ヴァルドさんと一緒にもう片方の紐を外す。
すると、洗濯係の人が走ってきてくれていた。

「すみません」

「突然の雨は予想出来ないだろう。
汚れてないか見ておいてくれ。
あとこのタオル1枚使っていいか?」

「はい」

洗濯係の人は、残りの洗濯物を受け取り、作業部屋へと戻っていった。

風が吹いて、くしゅん。とくしゃみをしてしまう。

「強い雨だ。風邪をひく」

「あ」

ヴァルドさんにタオルを肩からかけられて、そのままぎゅっと抱きしめられる。

「歩きにくいよ?」

「……全く。ココアでも飲むぞ」

「お仕事中じゃ……」

「少し休憩だ。アシェの持っているビスケットと一緒にな」

「うん。ビスケット、美味しいんだ。
一緒に食べよ?」

ビスケット持っているってなんで分かったんだろう。中庭で食べていたの、見ていたのかな?
なんて。

でもヴァルドさんと一緒に食べたいから、いっか。って思ったんだ。
ぼくはヴァルドさんとぼくたちの部屋へと向かった。


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