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4章
12 看病
「アシェくん、大丈夫かい?」
部屋のノック音が聞こえたので扉を開ける。
ルシアンだ。
「あぁ。薬も飲ませた。今は寝ている」
「治癒魔法でもまあ治せるけど、幼いうちは身体の抵抗力をつけておいた方がいいからね。
少し診るよ」
「頼む」
ルシアンはベッドに眠るアシェの様子を確認し、夜の分の薬をオレに渡した。
「夜の分の薬を届けにわざわざ来てくれるなんて、すまないな」
「渡し忘れてたから。念の為見に来ただけさ」
面倒くさがりのルシアンがまた来てくれるだなんてな。仕事熱心で何よりだ。
こう言う時は頼りになる男だ。
「元気になったら、僕の医務室の掃除を手伝ってもらいたい。そろそろ、やばい」
「……自分でやれ」
前言撤回。
日頃から片付けろと言っていたんだがな。
オレは小さくため息をつくのだった。
___
「アシェくん。大丈夫っすか!?」
扉を開くと、入って来たのは騒がしい男、リオットだ。
「今日はお昼一緒に食べられる日だったのに、アシェくんがいないと思ったら風邪だなんて。
料理長から色々受け取ってきたっすよ」
「ん、リオットさん……?」
リオットの声でアシェが起きてしまったじゃないか。ペンを置き、アシェの方へと向かった。
「風邪にはフルーツがいいらしいっすよ!
あの村でもらったりんごはもうなくなっちゃったけど、このりんごも美味しいっすよ」
「あ、ありがとう。嬉しい」
アシェはゆっくり上半身を起こして、りんごを受け取る。
「眠ってるアシェを起こすな!全く。
料理長に礼を言っておいてくれ。
そしてそのまま立ち去ってくれ」
「ひ、酷いっす!」
酷いのはどちらだ。
寝ているアシェを起こしておいて。
「午後から見回りだろう。
さっさと準備をしたらどうだ」
「わ、分かってますよ。失礼しました」
リオットは焦りながらもアシェに手を振り、部屋を後にした。アシェはりんごを手に取り微笑んでいる。
「りんご、もらっちゃった。えへへ……」
「皮を剥いてやる。まだ寝てろ」
「……うん」
アシェの持っているりんごを受け取る。
少し手が触れる。もう一度触ると、手に熱が籠っていた。アシェにきゅっと手を握られる。
「ヴァルドさんの手、ひんやりしてて気持ち良いな」
「アシェの手が熱いんだ。これを食ったら薬を飲もう。すぐ良くなる」
「うん……」
名残惜しいが手を離す。
弱っているアシェより、元気に笑っているアシェが見たい。そう思った。
「……ごめんなさい。ヴァルドさん」
「何がだ」
「お仕事邪魔して、ごめんなさい。
役に立たなくて……」
アシェはぽつりぽつりと呟いた。
誰もそんなことは思っていない。
しかし今までの境遇から、そう考えざるを得ないんだろうな。
「……次の休み、オレに付き合ってもらう。
マグカップを買いに行こう。
だから、早く治すんだぞ」
「……はい」
アシェはベッドの上からぼんやりと、こちらを見つめていた。
___
目が覚める。真っ暗だ。
今何時?だんだんと頭が覚醒してくる。
時計は――3時。いつの3時?あれ?
外も真っ暗。太陽はないから朝の3時?
ベッドから身体を起き上がらせようとしたら、今度は物理的に身体が動かない。
ぼくはヴァルドさんにぎゅっと抱えられていた。抱き枕にするみたいに。
「あっ、ヴァルドさん……!?」
「ん……?すまんな。また勝手に掃除するなどと言われたら堪らないからな」
そんなこと……言った気がする。
頭が混乱して、そうしないとって思ったんだ。
「熱は下がったのか?」
頭に額を押し当てられる。
とっても距離が近いよう。
なんでだか、また熱が上がってしまいそう。
「薬が効いたようだな。良かった」
「うん……。こんなにすぐ良くなるの、初めて」
「ルシアンの薬はよく効くからな。まだ寝ていろ」
「ん……」
薬もだけどきっと、ヴァルドさんがいてくれるからだ。ヴァルドさん、ずっとずっとだいすき。
――なんてね。熱が出て、変になっちゃったのかな。
「ありがとう、ヴァルドさん……一緒にいてくれて」
「いいんだ」
ぼくは目を瞑る。
額に何か、当たったような気がした。
もうきっと、いつもみたいに元気になれそう。
また起きるのが楽しみだなんて、ヴァルドさんのおかげだ。ヴァルドさんにもっと気持ちを伝えたかったけど、眠くなってそのまま意識が遠くへといってしまった。
そして今度は6時に目が覚めて、また抱き枕みたいにぎゅってされていることに、ぼくは再び驚くことになるのだった。
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