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短編
月苺(1/3)
「では、行ってくる」
「行ってきます」
「お気を付けて~」
リオットに手を振られ、業務終了後にアシェを連れて馬車に乗り込む。
日は落ちかけているが、これから向かう場所は夜向かうことに意味がある。
ポシェットを肩にかけて、アシェは不思議そうにオレを見つめた。
「どうして、夜からお出掛けなの?」
「今日は年に数回しか実らない“月苺”が実る日なんだ。さらに夜、月明かりの下で食べないと、渋くて食べられないらしい。食べてみたいと思ってな」
本来招待された者か一部の貴族しか食せない貴重な月苺。しかし以前、魔物討伐の感謝の印にと、招待状をもらったのだ。
月苺は知る人ぞ知る、珍しいものらしい。
1名同行可能と書かれていたので、アシェなら喜ぶだろうと思い、一緒に行くことにした。
「月、苺……!苺、甘くて好きなんだぁ」
アシェは目を輝かせた。
アシェが苺好きなのは知っている。
デザートでよく選んで食べているからな。
「ご機嫌だな。楽しみか?」
「うん!」
話しているうちに、外は暗くなっていて、月明かりと馬車の灯りだけが辺りを照らしていた。
____
月苺が実る丘は、馬車から降りて歩いた先にある。少し歩くと、アシェはオレの後を楽しそうについてきていた。
「もうすぐ見えるはずだ」
「見える?わ、あ……!」
丘の上には一面光り輝く、苺畑。
まさに月苺の名にふさわしく、月明かりの下で苺は光を灯していた。
他にも月苺目当ての人々が、苺畑に集まっている。しかしよく見ると、男女問わず2人組が多いようだ。
「招待状を拝見させて頂きます」
入場口付近にいる月苺の管理人に、持参した招待状を渡して入場する。
獲れる数も限られている。
貴重な物なので、1人3粒までだ。
「3つもいいの?」
「そうみたいだな」
月苺の甘酸っぱい香りが辺りに漂う。
ほんのり光り輝く月苺を一粒摘み取る。
月明かりに透ける月苺が、宝石みたいにきらめいていた。
「アシェ」
「ヴァルドさん。あ……」
アシェが両手で摘み取った月苺を差し出していた。
「ありがとう」
アシェから月苺を受け取り、自分が選んだ苺をアシェの掌にそっと置く。
「ありがとう。すごく綺麗。いただきます」
アシェは一口で月苺をぱくりと頬張る。
「美味いな。アシェが選んでくれたからだろうか」
甘さが口いっぱいに広がり、光が漏れて、吸い込まれるように消えていった。
「美味しい……!すごく、甘いね!」
アシェは嬉しそうに頬を染めていた。
よく見ると他の2人組も、お互い摘み取った苺を交換しているな。仲がいいことだ。
__
月苺をお互い食べ終え、空いていたベンチに腰を下ろした。月明かりと月苺の明かりが辺りを照らし、夜風が心地よいな。
そういえば入場口から出た際に、何かアシェが受け取っていたな。アシェが月苺の栞カードを開く。
「……縁結び?」
「なんだ?」
アシェが受け取った月苺の栞カードを見せられ、読んでみる。
『ご来場いただき、ありがとうございました。
本日は“縁結びの月苺”の夜。
お互いに選んだ月苺を交換し、口にすることで、2人の縁がより固く結ばれるといわれています。
あなた方に、素敵なご縁がありますように』
「……!」
無意識に交換していたが、まさか縁結びの効果があったなんて。
「ぼくたち、縁、結ばれちゃったのかな?」
アシェはふふっと嬉しそうに笑った。
夜風が吹き、身体が冷えるだろう。
アシェの肩を持ち、そうかもな。と小さく呟いた。
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