身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ

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収穫祭編

1 収穫祭






「はふ……湯気が、あ、熱い……っ!」

「アシェ。気を付けて食えよ」

ふーふーと、あつあつの蒸し芋を冷ましてから一口。ふわふわで甘くて美味しい。
思わず頬を抑える。
ヴァルドさんはくすりと笑っていた。

ざわざわと賑わうここ、カルナ村では今日から2日間、収穫祭が行われていた。
村中に飾り付けが施されて、採れた野菜が山積み。その野菜は村人たちの手で、いろんな料理に変えられていく。
大人から子供までみんな、収穫祭を楽しんでいるみたいだった。

「この蒸し芋とっても美味しいね!」

「ん。ほどよい甘さだな」

ヴァルドさんはぼくと半分こした蒸し芋を一緒に食べていた。村の人が蒸したてだって、渡してくれたんだ。

第三騎士団は毎年、安全確認としてカルナ村の収穫祭に参加しているみたい。
でも本当は――

「今年も無事にカルナ村収穫祭が開催されて良かったっすね!今日はお祭りっすよアシェくん!」

リオットさんはにこにこでこちらにやって来た。片手には野菜やお肉が挟まれたバケット。もう片方の手にはりんご酒を持っていた。

「もう呑んでいるのか」

「頂いたのでつい……!ヴァルドさんもどうです?」

「オレは肉を食いたい」

今日の収穫祭はカルナ村の村長さんが日頃の感謝の印として、第三騎士団を招待しているものだった。
だからちょっとだけ無礼講、なんだって。

「アシェくんも呑む?りんご酒」

「ぼく、お酒飲めないよ」

首を振る。お酒は一度も呑んだことがない。
美味しいのかな。甘くていい匂いがするけれど。

「酒を呑むと腹が膨れて、他に何も食えなくなるぞ。アシェ、少し村を見て回ろう」

「あ、うん!リオットさん、またね」

「はいはーい。ごゆっくり」

リオットさんはぐいっとりんご酒を呑み、手を振ってくれた。なんだかとっても楽しそうだ。
ぼくもこんな賑やかなお祭りに参加出来るなんて、初めてのことだ。

収穫祭で採れた野菜をみんなに振る舞って、来年もまたたくさん実りますようにってお願いをするんだって。

収穫祭をしているおかげなのか、毎年たくさんの野菜がカルナ村では採れるらしい。

「アシェ。芋の次は何が食べたい。
りんご飴なんかもあるようだな」

「りんご飴……!」

りんごと飴だなんて、美味しそうな響きだ。
目を向けると、棒に小さなりんごが3つ刺さって、飴でコーティングされているようだった。

「食べてみるか。1つもらえるか?」

「はいよ!小粒りんご飴だよ。たくさん食べてくれよ」

「あ、ありがとうございます」

店主さんに手渡される。小粒りんご飴は飴がとろりとかかっていて、太陽の光でキラキラと光っていた。

「いただきます」

一口かじってみる。飴の甘さと中に入った小粒りんごが甘くてとっても美味しい。何個でも食べられてしまいそうだった。

「ヴァルドさん。これもすごく美味しい!
はい。どうぞ」

残りの小粒りんご飴をヴァルドさんに差し出す。でもヴァルドさんはお肉が食べたいって言ってたことを思い出す。
手を引っ込めようか。悩んでいたら、ヴァルドさんは小粒りんご飴を受け取ってくれた。

「ありがとう。アシェは何でも美味そうに食うな。見ていてこちらも食べたくなる」

ヴァルドさんは小粒りんご飴をゆっくりと口に運んでいた。

「美味いな。それに、食べやすい」

「騎士団長様にそう言ってもらえると嬉しいよ!どんどん見ていってくれよ!」

店主さんは忙しそうに、他の人にも小粒りんご飴を渡していた。

残りのりんご飴をかじり、こくりと飲み込む。美味しくてあっという間に食べ終わってしまった。

「すごく美味しかった。お肉もどこかにあるのかな?」

「探してみるか」

「えへへ。すごく楽しいね」

「あぁ」

ヴァルドさんはこちらを見てにこりと笑った。
村は楽しそうな雰囲気で賑わっている。
第三騎士団の人たちもみんな、収穫祭を楽しんでいるようだった。

そんなぼくたちを見ている小さな影が遠くで揺れていることに、この時はまだ気が付いていなかったけど――

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