身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ

文字の大きさ
82 / 91
収穫祭編

3 型抜き




色んなところから、美味しそうな匂い、そして楽しそうな声が聞こえる。

ポシェットの紐を握りながらキョロキョロと辺りを見回す。
すると遠くにザナックさんが見えた。
なんだか人だかりが出来ている。なんだろう。

ザナックさんの前で、みんな机に向かって何かやっているようにみえる。
少し背伸びをして、遠くから覗いてみる。

「おっ!アシェくん!」

ぼくに気付いてくれたザナックさんが、大きく手を振ってくれている。ぱたぱたと走って向かう。

「アシェくんもやってみないか?以前話していたものだぜ」

ザナックさんは立ち上がって、ぼくの手のひらにころんと乗せてくれる。

「あ!型抜きだ!作ってみたいって言ってたものだね」

渡されたのは砂糖菓子で作られた、小さな型抜き。そこには猫の顔が描かれていた。
一緒に渡された木の細棒で突いて、上手にくり抜いていくものだって教えてもらった。

「あぁ。去年は申請忘れてて、出せなかったから今年こそは店を出せたらと思って用意してきたんだ」

収穫祭では騎士団の人達も許可が貰えれば、お店を出してもいいんだって。
ザナックさんの胸元には騎士団の徽章と共に、出店バッジがきらりと光っていた。

本当はぼくもお手伝いしたかったけど、最初は楽しむ側が良いってヴァルドさん達が教えてくれたんだ。

「まさかみんなこんなにハマるとはな。
商売繁盛だぜ」

「くそー!もう一回いいか?」

「わたしも!やっていい?お母さん」

大人も子供も型抜きに夢中だ。
ぼくも以前、ザナックさんにお話を聞いてやってみたいと思っていたんだ。

「はいよ!綺麗に完成出来たら1枚無料だから頑張りな!」

ザナックさんは新しい型抜きを渡していた。
それから小声でぼくに伝える。

「今回の儲けで新しい素材試せそうだぜ」

「ふふ。ぼくも型抜きやってみるね」

空いているところに座って、型抜きをやってみる。端っこからちょっとずつ、刺しているけどすぐに割れてしまいそうだ。
ヴァルドさんともやってみたいな。
ヴァルドさんは結構力が強いから、すぐ割れてしまいそう。そんな想像をしてふふっと笑った。

すると、隣でうーん。と唸る声。
そちらを見てみる。

「ルシアン先生だ!」

「やあ。アシェくん。なかなか最後の仕上げが上手くいかないんだ」

ルシアン先生の机の上には、型抜きの失敗したものが散らばっていた。何回も遊んだのかな。
今はお花の形を作っているみたい。
とっても難しそうだけど、あともう少しで完成といったところだ。

「ルシアンはもうそれで終わりな。村人の分がなくなっちまう」

「これが最後か……」

悔しそうに呟くルシアン先生。
ぼくは心の中で頑張れって応援をした。

「出来た!お母さん見てみて!」

「あら。上手ね!」

女の子が完成させたみたいだ。
星の形かな。ぼくにもできるかな。

「おおっやるなあ!じゃあ景品だ。
もう一枚どれがいい?」

「やった!今度はね……」

「もう。終わらなくなっちゃうわ」

女の子のお母さんは困ったように笑っていた。

「本当だよー……」

ルシアン先生は木の細棒をくるりと回した。
手元には上手に型抜きされた花が置かれていた。

感想 35

あなたにおすすめの小説

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

炊き出しをしていただけなのに、大公閣下に溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 希望したのは、医療班だった。  それなのに、配属されたのはなぜか“炊事班”。  「役立たずの掃き溜め」と呼ばれるその場所で、僕は黙々と鍋をかき混ぜる。  誰にも褒められなくても、誰かが「おいしい」と笑ってくれるなら、それだけでいいと思っていた。  ……けれど、婚約者に裏切られていた。  軍から逃げ出した先で、炊き出しをすることに。  そんな僕を追いかけてきたのは、王国軍の最高司令官――  “雲の上の存在”カイゼル・ルクスフォルト大公閣下だった。 「君の料理が、兵の士気を支えていた」 「君を愛している」  まさか、ただの炊事兵だった僕に、こんな言葉を向けてくるなんて……!?  さらに、裏切ったはずの元婚約者まで現れて――!?

『偽物の番』だと捨てられた不憫な第三王子、隣国の冷徹皇帝に拾われて真実の愛を教え込まれる

レイ
BL
「出来損ない」と捨てられた場所は、私の居場所ではありませんでした。 ラングリス王国の第三王子・フィオーレは、王族の証である『聖種の紋様』が現れなかったことで「偽物の番」と罵られ、雪降る国境へと追放される。 死を覚悟した彼の前に現れたのは、隣国アイゼン帝国の「冷徹皇帝」ヴォルフラムだった。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 表紙は、Pexelsさまより、Lorena Martínezさまによる写真をお借りしました。ありがとうございます!