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収穫祭編
3 型抜き
色んなところから、美味しそうな匂い、そして楽しそうな声が聞こえる。
ポシェットの紐を握りながらキョロキョロと辺りを見回す。
すると遠くにザナックさんが見えた。
なんだか人だかりが出来ている。なんだろう。
ザナックさんの前で、みんな机に向かって何かやっているようにみえる。
少し背伸びをして、遠くから覗いてみる。
「おっ!アシェくん!」
ぼくに気付いてくれたザナックさんが、大きく手を振ってくれている。ぱたぱたと走って向かう。
「アシェくんもやってみないか?以前話していたものだぜ」
ザナックさんは立ち上がって、ぼくの手のひらにころんと乗せてくれる。
「あ!型抜きだ!作ってみたいって言ってたものだね」
渡されたのは砂糖菓子で作られた、小さな型抜き。そこには猫の顔が描かれていた。
一緒に渡された木の細棒で突いて、上手にくり抜いていくものだって教えてもらった。
「あぁ。去年は申請忘れてて、出せなかったから今年こそは店を出せたらと思って用意してきたんだ」
収穫祭では騎士団の人達も許可が貰えれば、お店を出してもいいんだって。
ザナックさんの胸元には騎士団の徽章と共に、出店バッジがきらりと光っていた。
本当はぼくもお手伝いしたかったけど、最初は楽しむ側が良いってヴァルドさん達が教えてくれたんだ。
「まさかみんなこんなにハマるとはな。
商売繁盛だぜ」
「くそー!もう一回いいか?」
「わたしも!やっていい?お母さん」
大人も子供も型抜きに夢中だ。
ぼくも以前、ザナックさんにお話を聞いてやってみたいと思っていたんだ。
「はいよ!綺麗に完成出来たら1枚無料だから頑張りな!」
ザナックさんは新しい型抜きを渡していた。
それから小声でぼくに伝える。
「今回の儲けで新しい素材試せそうだぜ」
「ふふ。ぼくも型抜きやってみるね」
空いているところに座って、型抜きをやってみる。端っこからちょっとずつ、刺しているけどすぐに割れてしまいそうだ。
ヴァルドさんともやってみたいな。
ヴァルドさんは結構力が強いから、すぐ割れてしまいそう。そんな想像をしてふふっと笑った。
すると、隣でうーん。と唸る声。
そちらを見てみる。
「ルシアン先生だ!」
「やあ。アシェくん。なかなか最後の仕上げが上手くいかないんだ」
ルシアン先生の机の上には、型抜きの失敗したものが散らばっていた。何回も遊んだのかな。
今はお花の形を作っているみたい。
とっても難しそうだけど、あともう少しで完成といったところだ。
「ルシアンはもうそれで終わりな。村人の分がなくなっちまう」
「これが最後か……」
悔しそうに呟くルシアン先生。
ぼくは心の中で頑張れって応援をした。
「出来た!お母さん見てみて!」
「あら。上手ね!」
女の子が完成させたみたいだ。
星の形かな。ぼくにもできるかな。
「おおっやるなあ!じゃあ景品だ。
もう一枚どれがいい?」
「やった!今度はね……」
「もう。終わらなくなっちゃうわ」
女の子のお母さんは困ったように笑っていた。
「本当だよー……」
ルシアン先生は木の細棒をくるりと回した。
手元には上手に型抜きされた花が置かれていた。
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