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収穫祭編
4 火弾
「ようやく成功か。ルシアン」
「ふふん。なかなか楽しかったよ」
「お前のせいで在庫が減っちまったけどな」
ザナックさんに景品の新しい型抜きをもらうルシアン先生。すごくハマっているみたい。
「そういえばアシェくん。ヴァルドくんは?」
「ヴァルドさんは村長さんとお話ししに行ってるよ。後で回ろうって言ってくれたんだ」
ルシアン先生は景品でもらった新しい型抜きをもう始めている。ぼくも続きを刺そうとした時。ぱきり。と音がなって猫の耳の部分が割れてしまった。
おや。とルシアン先生とザナックさんが覗き込む。
「失敗だな。アシェくん」
「うん……。でもまたやってみたい。今度はヴァルドさんも一緒に!」
「そうだな。在庫無くならないうちにヴァルドさんと来てくれよ」
「うん!」
ぼくは席を離れると、すぐに別の人で埋まってしまった。本当に大繁盛だ。
収穫祭の食べ物とは違うから新鮮で、みんなやってみたいのかもしれない。
「ありがとうザナックさん。また来るね」
「おう!」
ザナックさんとルシアン先生に手を振り、別の場所に行くことにする。ぼくはヴァルドさんにお肉が焼いてあるところを探さないといけないんだ。
____
「ヴァルドさん、村長に捕まっちまったかー。村長、討伐の話聞きたがっていたからなぁ。きっとアシェくんと回りたかっただろうに」
いつもクールなヴァルドさんが、アシェくんと回れなくて落ち込んでいる様子を思い浮かべる。
「もう一回チャレンジさせてくれ!」
「おうよ!」
新しい型抜きを村人に渡す。
こんなに繁盛するとは予想外だ。
ルシアンもなぜだかハマっているようだし。
「ヴァルドくんがちょっと可哀想だね」
ルシアンの言う通りだ。
まあアシェくんがヴァルドさんと一緒にいるのが1番楽しそうだもんな。
ヴァルドさん自身もアシェくんに癒しをもらっているのだろう。
アシェくんが楽しそうに俺の作った物で遊ぶ姿を見てると、つい頬が緩んでしまう。
そんな姿はずっと見ていたいものではある。
彼が義母や義兄にどんな目に遭っていたかを知ったら、そんな気持ちになってしまうのも仕方のないことだろう。
____
型抜き楽しかったな。
ルシアン先生が夢中になってやっていたのが、なんだか面白かった。
村の中をぽてぽてと歩きながら見て回る。
たくさんご飯を食べる人、お話をする人、楽しそうな人ばかり。ぼくも見ていて楽しくなってきちゃうな。
そんな時だった。突然腕をぐいと掴まれた。
「わ」
引っ張られて、勢いよく茂みの中に入り込んでしまった。葉っぱが頬にチクチクと当たる。
足元にはゆらりと小さな影が揺れていた。
「お前、第三騎士団のやつか?」
「え……?」
腕を掴んできたのは、ぼくよりも背の高い男の子だ。村の子なのかな。
「ぼく、第三騎士団の人たちのところでお世話になってるんだ。君は誰?」
「ふうん。お前あの型抜きを売ってる奴に、もうやめろって言ってこい!」
突然何なのだろう。
ザナックさんに店を閉めろってこと?
村長の許可は得てるって言っていたし、あんなに繁盛しているのにどうして?
「嫌だよ。ザナックさん、楽しそうだよ。
悪いことしてないよ?」
「……やめさせないなら……っ!」
男の子はバッと手を前に突き出した。
手のひらが赤く淡い光を発していた。
魔法だ。ぼくはこの魔法をよくみたことがある。
「だめだよ!」
男の子の腕をがっしりと掴んで魔法を止めようとした。でも掴むのが遅かった。
彼の腕から火弾が放たれる。
これはレオン義兄さんが何度も見せてきた、炎の魔法だ。
火弾は勢いよくザナックさんのお店へと向かっていった。このままじゃ型抜きを楽しんでいる人たちやお店にも当たってしまう。
ぼくにはその火弾を止めることも、消すこともできなかった。
しかしその火弾はお店に当たる寸前で、透明な壁のようなものにぶつかる。
そのままバチリと弾けて、消滅していった。
「な……っ!」
「危ないことするね」
「ナイスタイミングだったぞルシアン」
ルシアン先生が張ってくれた結界だ。
おかげでお店や村人達にも被害はないみたい。
型抜きに集中して気付いてない人もいるくらいだ。良かった。ほっと胸をなで下ろす。
「そんで……」
のそり、とザナックさんが立ち上がる。
ルシアン先生もこちらに向かってくる。
「ひ……っ」
男の子は怯えて逃げようとしていたけど、腕をがっしり掴んで離さない。
悪いことしたら、ごめんなさいしないとダメなんだよ。そうじゃないと――
「話を聞かせてもらおうじゃねえか」
「アシェくん。押さえていてくれてありがとうね」
ザナックさんとルシアン先生がぼくたちの前にまるで壁みたいに立ちはだかる。背の高い男の子は身を縮めていて、ぼくよりもなんだか小さく見えるようだった。
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