身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ

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収穫祭編

5 小袋




「どうぞ。りんご酒と選りすぐりの食材をご用意しました」

村長とその息子に店の奥へと案内される。
わざわざ個室を用意したのか。
さっさと退散してアシェと村を回りたいものだ。

席につくや否や話し始めたのは村長の息子の話だ。まだ若いので伸び代もある。言うなれば、第三騎士団に入れてほしいとのことだ。

全くアシェとの楽しい収穫祭のはずが、どうしてこんな話を聞かなければならないのだ。

「……第三騎士団に入団したいのなら、試験を受けて正式に入団してほしい。皆そうしてここにいる。試験の結果、合格基準に達していたら、勿論受け入れる」

「……入団期間は半年ほどで構わないのです」

ジャラリと音を立てて小袋が机に置かれる。
金を積むのですぐに入れてほしいということか。要するに第三騎士団に入団したという実績がほしいようだ。

第三騎士団はそれなりに名の通った騎士団だ。
その名を利用して、貴族に取り入るつもりなのだろう。

こういう無礼な声かけをする者が、時折現れる。

「受け取らない。
生半可な気持ちで第三騎士団に来るな。
正式に試験を受けに来たら見てやる。
……ただ他の者より厳しくなるかもしれんがな」

「もう一つお話があります。あのアシェという魔力のない子供。魔力のない子供を置いておくくらいならうちの息子の方が……」

「……ふざけるなよ」

思わず声を荒げる。
村長がアシェのことを気にしていたことを思い出す。

「い、いえ。第三騎士団に“魔力なし”がいるのが知られたら、貴方様の沽券にかかわるかと……。あの子供はうちの村で指導致します。
うちの村でも学童はございますので、貴方様のメリットにもなるかと……」

“魔力なし”。
そんなどうでもいいことで区別する人間は未だに存在する。
そのせいでアシェはあのような家で酷い扱いを受けて、閉じ込められていた――

思わず右手を机に振り落とす。
ビリビリと机が振動し食器が音を立てる。
村長の息子は怯えたようにこちらを見上げた。

「彼はオレの責任で面倒を見ると決めた。
魔力のありなしはどうでもいいことだ。
それに彼は騎士ではない。
彼が騎士団に入りたいと望むのなら、皆と同じく騎士団の試験を受けてもらう。それは誰だろうと――村長の息子だろうと変わらないことだ」

息子を軽く睨むと、顔を俯け震えている。
こんな程度で怯えていたら、騎士団なんて務まらないだろう。

「話は終わりだ」

「ま、待って下さい……!ぼ、僕は本気で騎士団に入りたいと……討伐の話を聞きたいと思っていて……」

村長の息子がようやく話し出す。
ふと自身の紋章の魔石が光っていることに気がつく。いいタイミングだな。
魔石に触れて合図を送る。

合図を待っていた男が個室に飛び込んでくる。

「ヴァルドさん。お疲れ様っす!
りんご酒を好きなだけ呑んでいいと聞き、馳せ参じました!優秀な部下リオットっす!」

ビシリと敬礼をしながらも、酔った様子のリオットがやってきた。もうすでに何杯もりんご酒を呑んだのであろう。
まあ彼は騎士団の中でも1.2位を争うくらいの酒豪だ。おそらく演技だろう。

「討伐の話は彼に聞け。
彼の相手をすることも、騎士団のためになるだろう。入団したら彼が指揮官になるのだからな」

「ええ……っ!」

「りんご酒が足りないっすよ!
早く用意してくださいっす!」

リオットは早速村長の息子に絡みに行ったようだ。ここはもう任せろと言ったところだ。

「ヴァルド騎士団長様……」

「話は終わりだと言ったはずだ。
……今後とも収穫祭を楽しみたいだろう?」

それだけ言い残すとガクリと村長は肩を落とした。第三騎士団にもし入りたいのなら正面から試験を受けろ。それだけの話だ。

オレはリオットに後を任せて店を後にした。
彼なら上手くやるだろう。

――未だに魔力の有無で偏見の目で見られることも多い。主に考え方の古い人間だけだ。

しかし第三騎士団では、実力と努力で評価される。
だから、魔力がなくとも、アシェのように努力する者を軽んじる者はいない。

そんなことでアシェの成長の芽を摘まれるのはごめんだ。

____


村長との話を終わらせ、アシェを探しに収穫祭の会場へと向かう。
とりあえずザナックが店を出している場所にでも行って、アシェを見かけてないか聞いてみるか。
――しかしオレはそこで、思いがけないものを見ることになる。



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