身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ

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2章 第三騎士団

4 痛くない

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「アシェ。今日は健康診断の日だ。
忘れるなよ」

「はい」

アシェはもぐもぐとハンバーグを頬張りながら頷いた。

以前ルシアンにアシェの定期検診をするように言ってある。
騎士団員達も月1で行っているが、アシェは週1で行っている。
責任を持つと言ったんだ。
このくらい普通のことだろう。

「今日は午前が武器訓練だったな。
皆上達している。先に進めていてくれ」

「分かったっす!」

リオットは敬礼で返す。
その後朝食を食べ終えて、アシェが美味そうに食べるのを横目で眺めていた。

____


「――数値の方は徐々にだけど回復しているよ。食事の効果と睡眠もよく取れているからね。治癒魔法のおかげで細かい擦り傷や、背中の打撲もすっかり良くなってるようだね」

ルシアンが手元の書類を確認しながら言う。

「ありがとうございます。ルシアン先生。
もうね、全然どこも痛くないんだ」

アシェは自身の身体を見回す。
ルシアンの治癒魔法は傷は治せるが、心や栄養不足までは対処しきれない。
こればかりは徐々にやっていくしかないが、アシェは以前よりも元気そうだ。

「それは良かったよ。
にしても、ルシアン先生……いい響きだね」

「勝手に呼ばせたんだろう」

「君たち誰も呼ばないからね。
少しは敬ってほしいよ」

「それから今日、専門の美容師が騎士団庁舎にくる。アシェの髪を切り揃えてもらおう」

アシェの髪は毎日梳いているが、かなり伸びている。切り揃えるくらいが、アシェには似合うだろう。

「……痛く、ない?自分で切ったら、ハサミで耳のところから血が出ちゃって、ちょっと怖い」

「向こうはプロだ。怪我なんてさせない。少し切り揃えた方が見た目も良くなるし、軽くなる。どうだ?」

「わ、分かった」

アシェはこくりと頷いた。

「偉いな。きっと格好良くなるだろう」

「ほんと?」

頭を撫でてやると、アシェが首を傾げた。

「幼心を弄んで……」

ルシアンは苦笑する。

「本心だが」

少し髪を整えただけでも、可愛らしくみえるんだ。事実だろう。

「ルシアン先生は、切らないの?」

「僕は長いのに慣れてるからね」

ルシアンはいつも長い髪を適当に結んでいる。

「面倒なだけだろう」

「まあ、そうだね」

ルシアンはひらひらと手を振った。
魔法実験がしたいらしい。
アシェを連れて医務室を出るか。

「行くぞ。アシェ」

「ルシアン先生。ありがとう」

「いいえー」

アシェは小さくお辞儀をすると、医務室の扉を開けた。

「ルシアン。先日は助かった」

「いいや。こちらこそいい機会をもらえたよ」

例の魔法が使えたことに対してだろう。
えげつない魔法だが、アシェのために使えたのなら良しとする。
ただ、使用にはいくつかの条件が必要らしく、滅多に使えるものではないと、ルシアンは少し落ち込んでいた。

「……気が早いけど、アシェくんは騎士にするつもりなのかい?」

「本当に気が早いな。アシェが望む方に進ませる。しかしアシェは――」

「気付いてたんだ。
アシェくんの今後が楽しみだなぁ」

「まだ先の話だ」

医務室を出て扉を閉めると、外でアシェが待っていた。

「美容師さんに切ってもらうの、ぼく初めて。
ドキドキする」

髪を整えることなんて、あの環境では、やってもらえなかったのだろう。
10歳の子供に何も与えてやらないなんて。
こんな、優しい子に。

「……行こう」

アシェの背中を押して、医務室の外へと向かった。

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