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29.記憶の金庫~第3話:扉の向こうにいた私~
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――地上に逃れたのは奇跡に近かった。
朽ちた旧施設跡地の空気は重く、冷たい夜風すらどこかよそよそしい。廃墟の影に身を潜め、ファントムは自身の記憶装置とユニット《S3-0724》の接続状態を確認していた。
「……セシリアの中核記憶、まだ安定していない。断片的なイメージばかりよ。強い感情に紐づいた記憶ほど、再構築に時間がかかるの」
「それでも……奴らに奪われた時間が戻るなら、やる価値はある」
アルトはルナの涙をポケットから取り出し、微かに青く揺れる光を見つめた。あのVaultで感じた異様な空気――それは、データの集積というより、まるで“沈黙する魂”たちの墓標のようだった。
「記憶ってのは……本当にただのデータなのか?」
ファントムは答えなかった。代わりに、彼女の懐中時計をそっと開いた。
「私たちが見てきたのは、ただの情報じゃない。誰かの人生の“証明”よ」
遠く、夜明けが近づいていた。
―翌日/とある隠れ家アジト
クラウスが持ち帰った追加データを元に、アルトたちはVaultの全体構造を分析していた。
「こいつはヤバいな。まだ“主記憶室”にはたどり着けてない」
「主記憶室?」
「俺たちが突入したのは第二保管階層だ。記録によれば、“実験体用記憶群”と、“意図的改竄データ”の保管エリア。だが最上階層、ここに《原記憶群》ってのがある」
ファントムが目を見開いた。
「まさか……オリジナルの人格データ、全部そこに?」
クラウスは静かに頷いた。
「そして、そこを管理しているのが中枢《ネメシス》の長――コードネーム《アーカイブ》。
元々カーディナルの情報部門の頭脳だった人物だ。肉体は既に死んでるという噂もあるが、データ上ではなお生きている」
「つまり、生きた記憶そのものか……」
アルトはルナの涙を見下ろしながら、低く呟いた。
「俺たちの盗みが、ついに“人間”に届くってわけだな」
―数時間後/別アジト・セシリアの様子
セシリアはまだ記憶を断片的にしか取り戻していなかった。
「……火の中に誰かがいた。私、逃げなきゃって思って……でも、その人の名前、思い出せない……」
ファントムは彼女の手をそっと握った。
「焦らなくていい。少しずつ、取り戻せばいいの。あなたは、もう“商品”じゃない」
セシリアの瞳に一筋の涙が流れる。だが、それは弱さではなく、かすかな光を孕んだ希望のようだった。
―ラストシーン/教会跡
アルトとファントムは、次の侵入計画を前に最後の確認をしていた。
「このまま“原記憶群”を奪うのは、リスクが高すぎる」
「でも、やらなければ何も変わらない。……私も、自分自身を取り戻すために、そこへ行かなきゃならない」
アルトは短く息を吐いた。
「わかった。次のターゲットは――記憶の金庫、その最深部。“魂の墓標”に、盗賊として名を刻みに行こう」
夜明けの光が、ふたりの影を淡く浮かび上がらせていた。
(第3話・完/次章「断絶の輪郭」へ続く)
朽ちた旧施設跡地の空気は重く、冷たい夜風すらどこかよそよそしい。廃墟の影に身を潜め、ファントムは自身の記憶装置とユニット《S3-0724》の接続状態を確認していた。
「……セシリアの中核記憶、まだ安定していない。断片的なイメージばかりよ。強い感情に紐づいた記憶ほど、再構築に時間がかかるの」
「それでも……奴らに奪われた時間が戻るなら、やる価値はある」
アルトはルナの涙をポケットから取り出し、微かに青く揺れる光を見つめた。あのVaultで感じた異様な空気――それは、データの集積というより、まるで“沈黙する魂”たちの墓標のようだった。
「記憶ってのは……本当にただのデータなのか?」
ファントムは答えなかった。代わりに、彼女の懐中時計をそっと開いた。
「私たちが見てきたのは、ただの情報じゃない。誰かの人生の“証明”よ」
遠く、夜明けが近づいていた。
―翌日/とある隠れ家アジト
クラウスが持ち帰った追加データを元に、アルトたちはVaultの全体構造を分析していた。
「こいつはヤバいな。まだ“主記憶室”にはたどり着けてない」
「主記憶室?」
「俺たちが突入したのは第二保管階層だ。記録によれば、“実験体用記憶群”と、“意図的改竄データ”の保管エリア。だが最上階層、ここに《原記憶群》ってのがある」
ファントムが目を見開いた。
「まさか……オリジナルの人格データ、全部そこに?」
クラウスは静かに頷いた。
「そして、そこを管理しているのが中枢《ネメシス》の長――コードネーム《アーカイブ》。
元々カーディナルの情報部門の頭脳だった人物だ。肉体は既に死んでるという噂もあるが、データ上ではなお生きている」
「つまり、生きた記憶そのものか……」
アルトはルナの涙を見下ろしながら、低く呟いた。
「俺たちの盗みが、ついに“人間”に届くってわけだな」
―数時間後/別アジト・セシリアの様子
セシリアはまだ記憶を断片的にしか取り戻していなかった。
「……火の中に誰かがいた。私、逃げなきゃって思って……でも、その人の名前、思い出せない……」
ファントムは彼女の手をそっと握った。
「焦らなくていい。少しずつ、取り戻せばいいの。あなたは、もう“商品”じゃない」
セシリアの瞳に一筋の涙が流れる。だが、それは弱さではなく、かすかな光を孕んだ希望のようだった。
―ラストシーン/教会跡
アルトとファントムは、次の侵入計画を前に最後の確認をしていた。
「このまま“原記憶群”を奪うのは、リスクが高すぎる」
「でも、やらなければ何も変わらない。……私も、自分自身を取り戻すために、そこへ行かなきゃならない」
アルトは短く息を吐いた。
「わかった。次のターゲットは――記憶の金庫、その最深部。“魂の墓標”に、盗賊として名を刻みに行こう」
夜明けの光が、ふたりの影を淡く浮かび上がらせていた。
(第3話・完/次章「断絶の輪郭」へ続く)
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