影の盗賊(シャドウ・シーフ)

マイライト

文字の大きさ
48 / 73

47.作られた均衡― 第3話答えを欲する物

しおりを挟む
黒い影は、複数の輪郭を持つかのように揺らめきながら現れた。
 人の形をしているはずなのに、そこには顔も手足も見えず、ただ「喪失」と「飢え」を象った存在がうごめいている。

「……あれが、“答えを欲する者”か。」
 アルトは低く呟いた。

 影は声を持たない。だが心臓の鼓動のような重低音が神殿全体に響き、空気を押し潰していく。
 その圧に、ルナの涙の輝きもわずかに濁った。

「やはり……《問い》を盗んだお前に引き寄せられたのね。」
 ファントムは歯を食いしばりながら、短剣を構えた。
「“答え”を無理やり奪おうとしている……それが奴らの本質。」

 影の群れが動き出した。空間そのものを削るように、音もなく迫ってくる。

 アルトはオブシディアンを握りしめ、ルナの涙の前に立った。
「だったら……俺たちが選んでやる。」

 結晶が反応し、青と紫の光が絡み合う。
 その光はアルトとファントムを包み込み、二人の心臓の鼓動を一つに重ねた。

 ——その瞬間、神殿に幻影が広がった。

 かつて「契約」を交わした時代の情景。
 滅びゆく星を前に、手を取り合う者たち。
 その声が二人に重なって届く。

『未来は、選ばれるのではない。選び取るものだ。』

 光が爆ぜる。
 影たちはその輝きを嫌うように呻き、後退した。だが、すぐに形を増幅させ、さらに巨大な“渦”となって押し寄せる。

「アルト!」
 ファントムの声が震える。

 だがアルトは一歩も引かなかった。
「未来を盗む怪盗がいてもいいだろ。」

 オブシディアンとルナの涙が重なり、青黒い輝きが天井を突き破った。
 光は虚空を貫き、神殿の外にまで届いていく。

 影の渦が悲鳴のような音を発し、次々と砕け散っていく。
 その中心に、ただ一つ残った影があった。

 それは──仮面を持つ人影。
 ヴェイルだった。

「やはり、ここに至るか……怪盗アルト。」
 彼はゆっくりと仮面を外し、素顔を晒した。
 その顔には、アルトとよく似た輪郭が刻まれていた。

 セシリアが息を呑む。
「まさか……!」

「そうだ。俺は“もう一人のアルト”。
 問いを盗んだお前に対し、“答え”を得るために生まれた存在だ。」

 黒い影の核は、ヴェイルその人であった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

卒業パーティーのその後は

あんど もあ
ファンタジー
乙女ゲームの世界で、ヒロインのサンディに転生してくる人たちをいじめて幸せなエンディングへと導いてきた悪役令嬢のアルテミス。  だが、今回転生してきたサンディには匙を投げた。わがままで身勝手で享楽的、そんな人に私にいじめられる資格は無い。   そんなアルテミスだが、卒業パーティで断罪シーンがやってきて…。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

勘当された少年と不思議な少女

レイシール
ファンタジー
15歳を迎えた日、ランティスは父親から勘当を言い渡された。 理由は外れスキルを持ってるから… 眼の色が違うだけで気味が悪いと周りから避けられてる少女。 そんな2人が出会って…

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

今更……助けてくれと……言われても……

#Daki-Makura
ファンタジー
出奔した息子から手紙が届いた…… 今更……助けてくれと……言われても……

処理中です...