傷物令嬢って私のことですか?

ルーキッドアン

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ガルシュ辺境伯家唯一の息女 ブライオニー・ガルシュ
サイモン念願の娘であった。
西風強いこの地にも氷と雪の季節は訪れる。きんと張り詰めた冬の日にブライオニーは父と兄に歓声をもって迎えられた。
家族や親しき者からは「ビニー」との愛称で呼ばれている。

昨年18歳となったブライオニーはランディから言わせると無自覚な美少女であるし、ネイサンから言わせると比類なきお転婆であった。

亡き母と同じく背が高く、手脚が長くスレンダーな身体つき。蜂蜜色の金髪ランディと紅茶色のネイサンの丁度間の様な赤みを帯びた金髪は、髪留めがスルルと落ちてしまうほどの美しきストレート。
背中まで伸ばした髪を無造作に纏めるか、そのままかの二択は編み込みや結い上げを得意とする侍女たちから「勿体ない」と言われ続けている。

濃淡が違っても翠色の瞳であるガルシュ家に於いて、ブライオニーの瞳は温かみを感じるアンバー。
母方の祖母がこの琥珀色であったので、セシリアは大いに喜んだそうだ。
ブライオニー自身もこの色を気に入っている。

5歳を迎える直前に母が鬼籍に入り、同時に隣国との戦が有り、父母不在の時期は兄たちがブライオニーに寄り添った。
ランディは辺境伯領の自然や牧羊、牧馬を教え、ネイサンは遊びの中で弓や剣を手ほどきした。

「ブライオニーの周りに女手が無いから」とサイモンの後添を...と言う声はひっきりなしに有ったが、サイモンは再婚には否と言い続けた。
「ブライオニーには母親が必要ですわ」「ブライオニー様を立派な淑女にお育ていたしますわ」と言う女性ほど、ブライオニーを縛り付けるとサイモンは危惧していたのであった。

再婚をする気配の無いサイモンに、セシリアの実家、オースティン伯爵家は有り難い様な申し訳ない様な気持ちであった。
砦を留守に出来ないサイモンであるから、代わりに王都近郊に暮らす祖父母が会いに来て、折につけドレスや靴やジュエリーが贈られた。
しかし「お祖父様、ビニーはお洋服よりも本が欲しいの」と言われれば「そうか、そうか、そうであったか」と王都で人気の小説や図鑑一式を贈るようになった。

ランディの様に学問に秀でていて、ネイサンの様に武術の筋が良い。
人にも馬にも犬猫にも好かれる人柄。
領地の者たちはブライオニーの成長を我が子を慈しむように見守った。ブライオニーの幸せとは何であろうと心を砕いた。

いよいよ15歳になり王都の学園へ入学させ、社交界デビューを...と親戚一同からは当然の様に迫られた。
しかしブライオニー本人はガルシュを離れる気は無く、家庭教師で充分だと学園入学は固辞し、デビュタントも「デ」の字が出るだけでさーっと逃げるような状況であった。

ランディと共に馬の交配や綿花の増産に知恵を絞ったり、ネイサンと共に剣術、弓術の精進に励む事、春になり北の辺境伯領から帰ってきた騎士団長の息子であるギルバートと共にあることがブライオニーの幸せであった。

そんな訳で、同年代の女の子たちがお洒落にはしゃぐ頃もブライオニーは特に興味がなかった。
辺境とは言え中心街にはドレスを扱う商会もあれば、真贋の目利きある宝石商もある。
王都の流行りを追って年頃の女の子は着飾った。
しかしブライオニーは乗馬服かワンピースで過ごし、爪先ひとつ飾らない、ジュエリーも身に着けない。
今もって欲しがるものは馬具や書籍であった。

サイモンはそんなブライオニーに対して安心して良いのか心配するべきなのか分からなかったがブライオニーに接する教師や侍女らに任せて見守ることに徹していた。
愛するセシリアの忘れ形見であるブライオニーの「ブライオニーが思う幸せ」が最優先である。
ただそれだけであった。

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