傷物令嬢って私のことですか?

ルーキッドアン

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ブライオニーは泣いていなかった。
「もし、私がギルバートから一本取れたら一緒に北へ行ってくれない?」

「は?」

ブライオニーはふっ切ったように続けた。

「私ひとりじゃ駄目なら、一緒に行って。
ギルバート2回行ってるでしょ。あと一回くらい良いでしょ。」

「だから、北の辺境は簡単じゃ無いんだ!」
「じゃ、今ここで私のこと徹底的に負かして。
ギルバートが本気で私の相手して、私の鼻っ柱折ったらいいじゃんね。
そうしたら諦めもつくわ」

「本気で?」

「うん。」

いつもギルバートやネイサンが手加減してくれているのはわかっている。
私が相手になるような力量ならガルシュ軍として心配すぎる。
きっと自分で思うより私の本気とギルバートの本気との間は越えられない溝が有るのだろう。
それでもブライオニーは今の自分の強さを知りたかった。
女騎士の中でそこそこ腕が立つだなんてギルバートに言われたくなかった。
リンベルクに行くことより切実にギルバートから奇跡の一本を取りたかった。

「わかった」

ギルバートが短く答えて模擬剣を取った。

「だが俺は利き手は使わない」

既に手加減なのか!と思ったが「利き手なら5秒で終わる」とギルバートが言ったので甘んじてハンデを受けることにした。

「では、いきます」と言ったそばからブライオニーは果敢に挑んだ。
重さのない剣術なのは分かっていたが、それにしたって私の剣は木の葉が舞うように軽いらしい。ギルバートは左手で簡単に受け流す。時間をかけたらスタミナで負けるのは定石。
兄に褒められた緩急で胸元に入りたい。
胸元に…胸元に...と意識がギルバートの胸元に向かうとボタンを外したシャツの隙間から隆々とした胸板が見えた。
控えめに言って美しく、的確な表現はセクシーであった。
力の抜けたブライオニーの腕はギルバートが組みにいっただけで予想以上に振り下がった。
「あっ」と思った時には剣先が地面を削って体勢が崩れ、同時に弾いたギルバートの剣が耳を掠めた。

耳が熱い。

「ビニー!!」

ギルバートが剣を放り投げて駆け寄って来る。
ブライオニーは右の耳辺りから生暖かいものが伝うのを感じていた。
ちょうど耳の付け根辺りにギルバートの模擬剣が当たったのだが、それはブライオニーが集中力を欠いたことに起因した不可抗力な事故であった。
更に言うならギルバートの瞬時の判断が無ければブライオニーの顔にまで剣先が届いていたかもしれなかった。

「ビニー!!」

ギルバートの声。なんと悲壮な響きかとブライオニーは思った。

「ごめんなさいギルバート」

思ったより落ち着いた声が出た。
ギルバートが手ぬぐいを出してブライオニーの耳に当てる。
その間も「ビニー!ビニー!」と叫んでいる。

「ギルバート、切れたのは外耳よ聞こえるわ。それに痛くない」

ブライオニーはギルバートの腕から逃れて立ち上がった。

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