傷物令嬢って私のことですか?

ルーキッドアン

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大声で言った訳でも悲嘆に叫んだ訳でもない。淡々と言い切った。
ナターシャは思わぬ反撃にたじろいだ。

今まで責めなじってきた相手は、黙って泣くか激しく弁明するか、その場から居なくなるかであった。

「ですので、せっかくのを無にして申し訳ないですが、そちらはナターシャ様がお飲みになってください。」

ブライオニーは軽く会釈をして、ナターシャに背を向けた。
ホルターネックのドレスは誰が見てもブライオニーに似合っていて洗練されていて、素肌を晒す背中は潔く美しい。
先程ナターシャ自身が“同い歳”と言ったが、ブライオニーのドレスに比べると薄ピンクにリボンとフリルがあしらわれている自分のドレスがほとほと幼稚に思えてならない。

今まで常に高位貴族の令嬢として、社交界の華として闊歩していたナターシャであるから、今日のこの扱いは予想外であり屈辱的であった。

『ちょっと、お待ちなさい!』

面倒くさそうに三人は止まった。
何かな?とランディが首を傾げる。

『貴方、私が候爵家の令嬢と分かっているの?』

「ええ。爵位は存じ上げていますが、それが何か?」

『分かっていてこの無礼が許されると思っているの?』

周囲の者たちは固唾を呑んで刮目している。
ギルバートもブライオニーがどう答えるのか心配なのか、腰に添えた手に力が入った。

ブライオニーは佇まいを整え、慌てる訳でも媚びる訳でも無く淡々と言葉を発した。

「爵位とは...領土と領土を正しく治める責務に対して...更に領土の発展と安寧に対する報奨として与えられるものであって、個の名誉でも、ましてや特権でもございません。
しかも当主であるならばいざ知らず、ただその家に生まれただけの私たち子女が何を誇って序列などと言えるのですか?」

清廉な返答であった。
辺境伯という高位貴族の子女でありながら、爵位を鼻にもかけず、傲慢な令嬢に意見したブライオニーを、周りの者は心の中で讃えた。

「無礼と仰るなら、甘んじて受け入れます。では。」

再び背を向けるブライオニー。

『ちょっと...待ちなさい!』
いつも余裕の笑みをたたえる社交界の華が大荒れである。
ヒステリックな声は広間上段に居る父フォーク候爵の耳にも届いた。
無論、マリアンヌにも、サイモンにも。

ブライオニーの足が一瞬止まるも、ギルバートが「構わないでいい」と(言ったように見えて)背中を軽く押す。
今日がデビューの!下位の!田舎の女に意見されるだなんて!無視されるなんて!

『待てって言ってるのよ!』

(今かな)ランディが離れた場所にいるターニャに片手を上げて合図を送るとターニャは楽団に指示を出す。

『この傷物令嬢が!』 

楽団の演奏が止まった空間にナターシャの甲高い声が響いた。



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