傷物令嬢って私のことですか?

ルーキッドアン

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「諜報を甘く見るな」
貴族一同、諜報部の凄腕については知っている。畏れてもいる。
であるならば王妃が言った事に確かな裏付けが有るのだと一様に信じた。

「この場での会話も行いも全て王家の影が見ています。
今日もまた悪意を持ってブライオニー嬢を貶めようとしたことも分かっているのよ」

『......』

「ブライオニー嬢が何をしました?私がお前の兄を紹介するという愚かな事を思いついただけ。私が王都に呼び寄せたの。
お前がニコラスを慕っているのは良い。
けれども何故、悪意が湧くの?悪意の矛先がブライオニー嬢に向かうの」

マリアンヌは自身の姪であるナターシャに厳しく詰め寄った。

『も、申し訳...ございません』
もう泣くことしか出来ないナターシャであった。

国王から言伝を預かった宰相が「追って処分する故、退場を」と告げた。
フォーク候爵は、私たちの教育が行き届かず申し訳ございませんと繰り返し謝罪し、四人は会場から出て行った。
何処か不貞腐れたような三人に対してフォーク候爵の憔悴ぶりは気の毒にすら映った。

マリアンヌが二人を叱責した内容で、結果ガルシュ家とブライオニーへの悪意ある噂は払拭されて、宿は果たされた。
しかし自身の甥と姪に対する怒りと、自己嫌悪。身内の羞恥、パーティーを止めてしまった故の王太子夫妻への贖罪、何より敬愛していたセシリア様の息女ブライオニーに対する申し訳無さ...
全てが綯い交ぜとなってマリアンヌは動くことが出来なかった。


ギルバートが添える手から離れて、ブライオニーが前に進み完璧な淑女の礼を取る。

「畏れながら...申し上げます」
何度聞いても馴染みの良い美しい声である。

「私この様な慶ばしい日に、遅ればせながらデビューさせて頂きました。
王妃様より有り難くもご招待賜り本当に光栄でございます。
社交界を何も知らない私に多くの方がご尽力くださいましてこの場に立っております。」

爽やかな笑顔と口調に、張り詰めていた空気が和んでゆく。

「王妃様、先日も申し上げましたが、私は何も...心にも傷一つ負っておりません。
傷は何処にも無いのです。」

ですから、どうぞお気遣い無く、お祝いの宴を続けてくださいとブライオニーは言った。

気がつけばブライオニーの隣にはサイモンがいて、愛おしそうに娘の髪をクシャリと撫でた。
お父様、くしゃくしゃにしないでくださいとブライオニーが笑う。

「マリアンヌ様、ガルシュとブライオニーに掛けられた泥を濯いでくださり感謝申し上げる」

サイモンがマリアンヌに礼をし、ランディとギルバート、ブライオニーも続いた。

宰相から促され、国王ルパートが「さぁパーティーを続けよう!」と楽団に仕切り直しを指示すれば、音楽とダンスは再開された。


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