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1話 いなくなったお嬢様
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シャキシャキといい音を立てながらレタスを包丁で切る。包丁がまな板に当たってこと、こと、となる音も私はなんだか好きだ。このリズム感がいいというかなんというか。小さな幸せに浸りながら私は自分の手でレタスをさらに並べた。力、人ならざるものの持つあの力を使った方が早いのだろうが、私は自分の手でする方が愛情をうまく込められそうで好きなんだ。
人ならざる力、そう、私は妖だ。人ではない。いや、元々は人であったのだが何百年か、おそらく900年ほど前に人ではなくなったのだ。私は900年ほど前、とある妖にあい、その妖は病で死にかけていた私に血をくれださった。そして私はその妖を主人とし、自らも妖となった……。時には側仕えとして、時には従者として、時には執事として。
今でもあの日のことは鮮明に思い出せる。人間であれば時が経てば忘れてしまうその記憶も、妖であれば簡単に保てる。まあ、人間はそんなに長い間生きてはいられないだろうが。
「よし」
私はサラダやら卵焼きやらをテーブルの上に並べ終えると、顔を洗って庭に出たお嬢様に元へ向かった。
お嬢様と言うのは先ほど言っていた私の主人、私を妖にしてくださった方のことだ。お嬢様は本当に素晴らしい妖だ。妖力を使って今までたくさんの偉業を成し遂げてこられたし、いつも周りの人に気を遣っておられる優しいお方だ。それもお嬢様が人の感情から生まれた妖なのだからだろうが、やっぱりお嬢様は世界一だ。
感情から生まれた妖というのは要するに、人間の様々な感情が集まって生まれた感情の集合体、というところだろうか。明るい感情、暗い感情、好きという気持ち、嫌いという気持ち。人はとにかくたくさんのことを思いながら日々を生きている。その感情が集まって、ある日お嬢様と言う妖が生まれた。
どうして急に生まれたのかはお嬢様にもわからないらしい。けれどおっしゃっていたのは、世界が耐えきれなくなったのだろうと言っていた。多すぎる生き物の気持ちに世界という器が耐えられなくなって私という別の器を作ったのだろうと言っていた。それで世界は楽になったのだろうか。それに関してもやっぱりわからない。わからないことづくしだが、それでいいのかもしれない。そうだと世界が答えれば私は世界を許せないだろう。お嬢様に押し付けた世界を許せないだろう。
ああ、またグルグルと考えてしまった。早くお嬢様に朝食をとっていただかないと。食事は大切なのだから。
「お嬢様ー。朝食ができましたよ」
庭にひょこりと顔を出してお嬢様の姿を探す。……いない。
「お嬢様ー」
返事もないし、気配もしない。
「またか……」
人ならざる力、そう、私は妖だ。人ではない。いや、元々は人であったのだが何百年か、おそらく900年ほど前に人ではなくなったのだ。私は900年ほど前、とある妖にあい、その妖は病で死にかけていた私に血をくれださった。そして私はその妖を主人とし、自らも妖となった……。時には側仕えとして、時には従者として、時には執事として。
今でもあの日のことは鮮明に思い出せる。人間であれば時が経てば忘れてしまうその記憶も、妖であれば簡単に保てる。まあ、人間はそんなに長い間生きてはいられないだろうが。
「よし」
私はサラダやら卵焼きやらをテーブルの上に並べ終えると、顔を洗って庭に出たお嬢様に元へ向かった。
お嬢様と言うのは先ほど言っていた私の主人、私を妖にしてくださった方のことだ。お嬢様は本当に素晴らしい妖だ。妖力を使って今までたくさんの偉業を成し遂げてこられたし、いつも周りの人に気を遣っておられる優しいお方だ。それもお嬢様が人の感情から生まれた妖なのだからだろうが、やっぱりお嬢様は世界一だ。
感情から生まれた妖というのは要するに、人間の様々な感情が集まって生まれた感情の集合体、というところだろうか。明るい感情、暗い感情、好きという気持ち、嫌いという気持ち。人はとにかくたくさんのことを思いながら日々を生きている。その感情が集まって、ある日お嬢様と言う妖が生まれた。
どうして急に生まれたのかはお嬢様にもわからないらしい。けれどおっしゃっていたのは、世界が耐えきれなくなったのだろうと言っていた。多すぎる生き物の気持ちに世界という器が耐えられなくなって私という別の器を作ったのだろうと言っていた。それで世界は楽になったのだろうか。それに関してもやっぱりわからない。わからないことづくしだが、それでいいのかもしれない。そうだと世界が答えれば私は世界を許せないだろう。お嬢様に押し付けた世界を許せないだろう。
ああ、またグルグルと考えてしまった。早くお嬢様に朝食をとっていただかないと。食事は大切なのだから。
「お嬢様ー。朝食ができましたよ」
庭にひょこりと顔を出してお嬢様の姿を探す。……いない。
「お嬢様ー」
返事もないし、気配もしない。
「またか……」
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