あやかし執事は旅に出る〜お嬢様また勝手にいなくなりやがった〜

空月 若葉

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8話 私の執事

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 正樹様の真剣な表情を見てお嬢様は嬉しそうに笑った。席を立ち正樹様の方に回り込み、なぜ急に立ち上がったのかとクエスチョンマークを浮かべるその頭を撫でる。
「わっ」
正樹様は少し驚いたように小さく声を漏らした。
「偉いっ。ちゃんと自分で考えて決めることができたね」
お嬢様はそれが嬉しかったのだろう。人の感情から生まれた妖であるお嬢様は一人一人の考えとか勇気とか決断とか、全ての感情を大切になされる。それがお嬢様のいいところなのだ。
「あ、お父さん、忙しくって話す時間がないんだっけ」
お嬢様は思い出したようにパッと撫でる手を止めた。正樹様が少し寂しそうな顔でお嬢様を見ている。きっと寂しいのだろう。正樹様のお父様が忙しかったということは正樹様に構う時間もあまりなかったということなのだろうから。きっと自分の父が疲れた顔をしているのに合わせて寂しさもだんだん積もっていって余計に辛かったのだろう。かわいそうに。私達妖からすれば小学生なんて赤ん坊も同然だ。だからか、庇護欲が湧くというか、大切に見守ってやりたくなるというか。
 お嬢様も正樹様の表情に気が付いたのか、もう一度正樹様の頭を優しく撫でる。
「大丈夫。お父さんきっと分かってくれるよ。そうしたら、きっと正樹くんと一緒に過ごす時間も増えるんじゃないかな」
お嬢様には全てお見通しだったらしい。そりゃそうだろう。お嬢様は考えていることはわからなくてもその時感じている感情くらいは簡単に読み取れてしまうのだから。正樹様が寂しがっていることくらいすぐに分かっただろう。
 お嬢様の正樹様の頭を撫でる手つきはいつも通りに優しくて。なんだかこちらまで癒されそうだ。お嬢様は私の頭もよく撫でてくださるが、私はその度にいつもふわふわと浮いているような気分になる。ガサガサとかき回されるようではなく、ふんわりと形作るように撫でるお嬢様の手つきは心にじんわりと染み渡ってくるのだ。
「あ、そうだ。家事で時間がなくなるのなら、話す時間を作るためにもとりあえずできる家事をしてみるのはどうかしら」
お嬢様は明暗ね、というように顔をぱあっと明るくして私を見た。私をみるということは……。
「協力するわよ、私の執事が」
まあ、でしょうね……。
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