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本編

2話 婚約破棄ですわ

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 ニコニコと笑顔を作って話題を逸らそうと試みる。面倒だからあまり根掘り葉掘り聞かないで欲しいのだが。それにしても、どうしてこの男は私の屋敷にいるのだろうか。ヒロインのことが好きなら私との婚約を破棄してヒロインと婚約して、堂々としていればいいものを。私のところに来てご機嫌取りなどする必要はないのに。まあ、私にとっては準備も整っているし、好都合なのだけれど。
「何か悩みがあるなら話してごらん。僕はいつでも君の幸せを願っているよ」
いつでも、ねえ。ヒロインを慕っているあなたがねえ。
「そうですか。そんなに私の幸せを願っているのなら……」
それなら言ってあげる。あなたも待ち望んでいるであろう言葉を、あなたに送ってあげる。
「婚約破棄、しましょうか」
顔に笑みを浮かべて私は言い放った。驚きすぎて声も出ない彼に優しく微笑みかける。早く頷きなさいよ。今なら許してあげるかもしれないわよ。あなたのう、わ、き。
「私、知っていますのよ。あなたと私の従姉妹の関係を」
エイダン様は相変わらず何も言わなかったが、私の言葉に反応したのか肩をビクッと動かした。あなたは好き放題していましたものね。何度も平民に扮してデートをして、公園でキスをしたのを私は知っているのよ。あなたたちは誰にも知られていないつもりだったのでしょうけれど、平民に変装するための服は誰が選んだと思っているの。町まで連れて行ってくれたのは誰だと思っているの。従者たちよねえ。そんなことをしていれば従者たちに信頼されないのも当然ね。いろいろ話してくれたわよ。罪悪感があったみたいで、一つ質問したら十も返答が返ってきましたわ。
「ねえ、ご存知。私達の婚約に関する書類の内容を」
まあ、どこの貴族の婚約でも取り決められるような内容でしょうけれど、あなたが知らないと言うのであれば一応お教えしておきましょう。
「片方が浮気をしたらもう片方は慰謝料を請求でき、婚約破棄ができる、と書かれておりますの」
慰謝料の上限は残念ながら決められていたけれど。きっと本来は王子様であるあなたのために決められた事項なのでしょうけれど、結局私が利用することになってしまいましたわね。
「慰謝料、請求させていただきますわそれと」
嫌ね。何か返事をなさったら。どうして私1人で話さなければいけないのかしら。人形遊びでもしている気分だわ。
「婚約破棄ですわ」
笑っているつもりだけれど、きっと私の目は目の前にいる彼を睨んでいることだろう。
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