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本編

3話 さようなら

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 ゲームのキャラクターとして見ていたから、彼を愛したことはなかった。ときめいたことも、キスをしたいと思ったことも、抱きしめて欲しいと思ったこともない。彼が抱きしめてくれることはあったけれど恥ずかしくなったり、ドキドキしたりと何かを感じることはなかった。けれどどこかで期待していた。こんなに優しい彼ならば、もしかしたら浮気などしないだろうと。そんなことを考えていた昔の私は馬鹿だった。結局彼はゲームのヒロインである私の従姉妹を好きになり、浮気をし、デートに使用したオーダーメイドであるペアルックの平民の服という証拠まで残してしまった。それに、メイドや執事、馬車を操縦した御者といい証言してくれた人はいくらでもいる。裁判になって証言をして欲しいと言えば私に同情してくれる彼らはきっと証言をしてくれることだろう。もはや彼に言い逃れはできないのだ。
「残念ですわ、本当に」
そう言ってはあ、とため息をつくと同時に頬に痛みが走った。思わず反射で目を閉じる。次に目を開けた時には私は椅子から落ちてしまっていて、地面に手をついていた。周りに控えていたメイドたちが急いで駆け寄ってくる。
「お嬢様。お嬢様。大丈夫ですか」
そう言って私を庇うように私を囲む。中には度胸があるのか王子様を睨んでいるものもいた。
「はっ。だからなんだ。お前に何ができるというのだ。どうやって訴えるというのだ」
……彼の頭の中はどうやらお花畑だったらしい。頭の中がネジでできているのだとしたら、ちゃんとネジがついていないのではないかと思うくらいだ。だって、罪を認めておいてその上で私には何もできないと言っているのだから。私はそんなに無知で脆弱に見えるのかしら。
「お前はただ黙って俺に捨てられていればいいのだ。むしろこっちが慰謝料を取ってやる」
慰謝料という言葉の意味をちゃんと理解しているのかしら、この王子。どうしてあなたはこんなに考えが浅いのですか。本当に掴めない人ね。
「では、暴力も加えて慰謝料、請求させていただきますわね」
私は立ち上がると心配そうについてくるメイドたちを引き連れて部屋を出た。部屋には怒り狂った王子1人が残され、どんどんと暴れるような物音が聞こえてくる。ああ、ほっぺた、痛いなあ。
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