私に幸せになって欲しい?なら婚約破棄よ

空月 若葉

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番外編

前編

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 この胸が高鳴るような感覚はいつぶりだろうか。高校生だった前世の私、鈴菜。あの時は人並みくらいには私も恋をしていた。初恋はクラスメイトの人気者のあの子。告白をしたり、付き合ったりなんかはしなかったけれど、幸せだった。そんな生活は突然終わってしまったわけだけれど、後悔はしていない。気持ちを伝えられずとも、そばにいられたから。
 それにしても、私、やっぱりこの人に恋をしているのかしら。自分を助けてくれた相手をただただ希望の光を見るように見つめる。私の元婚約者とは比べものにならないくらい顔のいい彼。助けてくれたからには、きっと性格もいいのだろうけれど……。
「私、面食いなのかしら……」
「……何か言ったか」
どうやら無意識のうちに声に出てしまっていたらしい。意味のわからない女だと思われてしまっただろうか。
「な、なんでもありません」
咄嗟にそう返したはいいものの、会話は続かずにあたりの静けさが私に刺さる。彼と、見つめあってる。不思議に思って見ているだけなのだろうが、私からすればそんなことでもささやかな幸せだった。結ばれなくてもいい。そう、思おうとしていたから。

 私は貴族だ。この国のそれなりに身分のある家のお嬢様。そんなお嬢様に、恋愛など許されるわけがない。私が王子様と婚約破棄をできたのは予め取り決められていた救済措置があったからだ。婚約する、しないなど、本来私たちが決められることではない。
 前世では人気者の彼には恋人がいたから私は自分から身を引いた。その恋人といる時の彼があまりにも幸せそうだったから。けれど、今回は選択することすら許されない。どうせまた、両親が、王様がお決めになった相手とまた婚約させられるんだ。
 それでも後悔はしないと決めたから、私は婚約を破棄させてもらった。けれど、今更弱気になってきたかも。もう二度と恋なんてしないと思っていたのにな。
 せめて自分が恋をした相手の名前くらい知っておきたい。そう思った私は少しだけ勇気を出して声をかけてみようと口を開いた。
「あの、貴方は……」
彼は私が俯いて考え込んでいる間もずっと私のことを見ていたようで、私から視線を離さないまま答えてくれた。
「リアムだ。この国の第一王子……一応、こいつの兄だ」
……え。お、王子様。
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