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本編
4話 幸せ
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私はにっこりと笑って2人を見る。待っているのだ。予定通りに彼が私に言い放つその言葉を。
「そんなに罰が欲しいのであればくれてやる」
悔しいのだろうか。そんな顔をしている。何が悔しいの。全ては貴方と私の望み通りに動くというのに。
「国外追放、だ」
待っていた。その言葉、とっても嬉しい。
「はい」
私は満面の笑みでそれに応えた。彼は国王様の許可を取って私を追放するわけではない。王様にバレる前にさっさと逃げないと。王様の許可を取らずに侯爵家の娘を国外追放にした罪は重いだろうが、もう何の関係もない彼の処罰など知ったことではない。
私はくるりと後ろを向いて足速にその場をさった。最後に一言、言葉を残して。
「さようなら、皆様。今までお世話になりました。ああ、それと、ヒカリ様。全てがあのゲームのようにうまくいくとは限りませんよ」
会場を出て、校舎を出て、門を潜って。たったの一度も振り返らずに。その先に愛しい彼はいた。私のためだけに御者になってくれる、私の愛するただ1人の人。馬車を用意してくれた彼は御者に扮していたとしてもやっぱり素敵だ。
私を待っていたのは中等まで一緒に学園に通っていた商人の彼。たった今恋人を作ることを許された私の彼。私は彼の隣に腰掛ける。
「冷えるので中におられては」
私を気遣うその声に、私は幸せあふれる声で答えた。
「あら、それでは貴方の顔を見ながらお話できないわ」
私達は今、互いに愛を囁くこと、許された。
誰かに揺さぶられて目を覚ます。ゆっくり目を開けると、そこには愛しい私の旦那様がいた。
「ねえ、聞いて。ルーカス王子、王位継承権を剥奪されたらしいよ。ヒカリ様との婚約も認められかったって」
それは当然の話だ。研究者達や大商人の息子であった旦那様と協力し、疫病の治療薬を作った私。その私を貶めた聖女様とそれを助けた王子様。どちらが大切かなんて分かりきったことだ。あの国には確か王子は2人いるから、弟の方にかけることにしたのだろう。
「馬鹿な話だよね。治療薬開発のために毎日奮闘していた君に、ヒカリ様をいじめる時間なんてあるわけないのに」
それに気づいていた人はあの会場の中に何人いただろうか。きっと、気づかなかった人を数える方が早いだろう。
「それにしても、まだ信じられないや。この世界がゲームの中の世界だなんて」
ヒカリ様、聖女様が私と同じ日本人だったのは間違い無いだろう。そしてゲームのプレイヤーだったということも。違和感はあった。見知った名前に見知った容姿。私がプレイしていたゲームの世界に転生したと気づくまでに大した時間は掛からなかった。ヒカリ様もゲームの世界だと気づいたからこそ、あんな言葉が口癖になってしまっていたのだろう。
「そういえば、ヒカリ様よくおっしゃっていたね。この世界の主人公は私だって」
愛しい人は私の頭をゆっくりと撫でながら私を愛おしそうに見ている。
「ねえ、ソフィは幸せになれたの。僕といて、幸せかな」
私は今、外国で彼と隠れて暮らしている。あの国の王様が私を必死になって探しているからだ。もちろん、彼は仕事があるからずっと一緒にいられるわけではないけれど、それでもやっぱり、私は。
「幸せよ、ノア」
「そんなに罰が欲しいのであればくれてやる」
悔しいのだろうか。そんな顔をしている。何が悔しいの。全ては貴方と私の望み通りに動くというのに。
「国外追放、だ」
待っていた。その言葉、とっても嬉しい。
「はい」
私は満面の笑みでそれに応えた。彼は国王様の許可を取って私を追放するわけではない。王様にバレる前にさっさと逃げないと。王様の許可を取らずに侯爵家の娘を国外追放にした罪は重いだろうが、もう何の関係もない彼の処罰など知ったことではない。
私はくるりと後ろを向いて足速にその場をさった。最後に一言、言葉を残して。
「さようなら、皆様。今までお世話になりました。ああ、それと、ヒカリ様。全てがあのゲームのようにうまくいくとは限りませんよ」
会場を出て、校舎を出て、門を潜って。たったの一度も振り返らずに。その先に愛しい彼はいた。私のためだけに御者になってくれる、私の愛するただ1人の人。馬車を用意してくれた彼は御者に扮していたとしてもやっぱり素敵だ。
私を待っていたのは中等まで一緒に学園に通っていた商人の彼。たった今恋人を作ることを許された私の彼。私は彼の隣に腰掛ける。
「冷えるので中におられては」
私を気遣うその声に、私は幸せあふれる声で答えた。
「あら、それでは貴方の顔を見ながらお話できないわ」
私達は今、互いに愛を囁くこと、許された。
誰かに揺さぶられて目を覚ます。ゆっくり目を開けると、そこには愛しい私の旦那様がいた。
「ねえ、聞いて。ルーカス王子、王位継承権を剥奪されたらしいよ。ヒカリ様との婚約も認められかったって」
それは当然の話だ。研究者達や大商人の息子であった旦那様と協力し、疫病の治療薬を作った私。その私を貶めた聖女様とそれを助けた王子様。どちらが大切かなんて分かりきったことだ。あの国には確か王子は2人いるから、弟の方にかけることにしたのだろう。
「馬鹿な話だよね。治療薬開発のために毎日奮闘していた君に、ヒカリ様をいじめる時間なんてあるわけないのに」
それに気づいていた人はあの会場の中に何人いただろうか。きっと、気づかなかった人を数える方が早いだろう。
「それにしても、まだ信じられないや。この世界がゲームの中の世界だなんて」
ヒカリ様、聖女様が私と同じ日本人だったのは間違い無いだろう。そしてゲームのプレイヤーだったということも。違和感はあった。見知った名前に見知った容姿。私がプレイしていたゲームの世界に転生したと気づくまでに大した時間は掛からなかった。ヒカリ様もゲームの世界だと気づいたからこそ、あんな言葉が口癖になってしまっていたのだろう。
「そういえば、ヒカリ様よくおっしゃっていたね。この世界の主人公は私だって」
愛しい人は私の頭をゆっくりと撫でながら私を愛おしそうに見ている。
「ねえ、ソフィは幸せになれたの。僕といて、幸せかな」
私は今、外国で彼と隠れて暮らしている。あの国の王様が私を必死になって探しているからだ。もちろん、彼は仕事があるからずっと一緒にいられるわけではないけれど、それでもやっぱり、私は。
「幸せよ、ノア」
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