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28.覚醒と混濁
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「アキ殿、起きられよ」
身体を揺さぶられて、俺はゆっくり目を開けた。
目の前に長髪の美中年の顔がーー
虹彩が緑……
誰だ?
「よほど疲れているのだな」
「……ここは」
「応接間だ、覚えてないか?」
ここはどこ、貴方は誰の半覚醒状態から、一気に状況を把握する。頬がソファの肘掛け部分にくっついていてーー
「!?」
飛び上がるような勢いで上半身を起こした。疲れている、どころかやけに身体が軽い。気遣わしげな顔をしていた王様が俺の様子を見て顔を改める。
「思い出したか」
「すすすみません、俺どうして」
額に手を当てて、記憶を手繰った。
超ド級のVIPの前で、寝こけたって?どれくらいの間?起きたとき横になっていたということは、相当ガッツリ眠ってしまったのだろうか。
いつどうして眠ってしまったのか、思い出そうとしても思い出せない。
どういうことだ?
眠くなったなんて記憶はない。普通に話せていたはずだ。
あんなに緊張していたのになんで。
記憶が途切れる前までの行動を順繰りにたどる。部屋に入った時には眠気なんてなかったはず。変わった部屋だなと思って。ここを管理している人の趣味なんだって話をきいて。エルとガルの話をして。
何か、口にして。
あぁ、飲み食いはしたのか?
したような気もするし、してないような気もする。
それから?
そこから先がよくわからない。何か話を聞いているうちに眠ってしまったのだとして、どうして完全に眠りこける前に起こしてくれなかったのだろう。いや、王様の行動はともかく、こんな失礼な話があるだろうか。
「申し訳ありません、自分でもどうして眠ったのか……」
「そう深刻に考えることはない。疲れているところにつまらん話をしてしまった私が悪い。気にするな」
いや、そういう問題ではーー
焦れば焦るほど、ソファに座ってからの記憶が遠のく感じがする。こんなのおかしい。おかしいのに、おかしいという違和感が長く続かない。
「あまり自分に負荷をかけるな。私がいいと言っているのだから、いいんだ」
青褪めて俯く俺に、王様は静かに言い聞かせる。声色が不自然に優しい気がして顔を上げると、王様と目が合った。
なんだろう、王様に見つめられると目の奥がジンジンする。瞼の裏に何かを刻まれているような、痛くて熱くて、だけど何故だか嫌じゃない。いままで感じたこともない感覚だ。目の奥が熱くて、なんだか思考がうまくまとまらない。何が何だか分からなーー
いや落ち着け。
何か失態を犯したとき、すぐに失点を取り返そうとしてはいけない。反省と検証の前に一度気持ちを落ち着けなければ、さらに失態を重ねることになる。下手に動くな、相手を怒らせたわけじゃないんだ。大丈夫だ。
「どうした?」
「いえ」
俺は思わず視線を逸らしたが、もう一度王様に見つめられたいという不思議な感情が湧いて、ゆっくりと王様のほうへ視線を戻す。
「もっと近くにおいで」
行かなきゃ、と思った時には身体は既に立ち上がっていて、引き寄せられるように近づいていく。王様から視線を外すことができない。
湯あたりしてのぼせたかのような、恋にでも落ちてしまったかのような錯覚に陥った。ぼぅっと夢心地になって、心臓が痛いほど早鐘を打つ。
これ以上は近づけない。俺はテーブルを半分回ったところで足を止めた。
「アキ殿?」
呼吸も変に乱れているし、瞳の奥がーー痛いんじゃない、これは頭が重いんだ。頭の芯が重い。朦朧とする。
何でだろう。
一歩近づくごとに眩暈が強くなって、膝の力が抜ける。怖いのに、苦しいのに、どうしても近づきたい。脳の命令と身体の反応が食い違っていてとてもつらい。
俺は、ほんとうは、どうしたいんだ?
「覚醒が甘いみたいだな。異物感が強いのか、それとも効きすぎているのか……」
ききすぎてる?何を言っているんだ?
とうとう俺は立っていられなくなって、その場にしゃがみ込んだ。柔らかい絨毯に膝をつく。思考を整理するためにも今はこれ以上外からの情報を入れたくなかった。固く目を閉じて耳を塞ぐ。ようやく落ち着いて呼吸ができた。俺はおかしい。これは夢の続きか?
いつの間に近づいてきたのか王様が耳を塞ぐ俺の両手に手を重ねた。身を引いて振り払おうとすると手首を掴まれた。俺の手を半ば力づくで外して、代わりに自分の手を俺の耳に被せる。俺はすぐに王様の手首を掴み返したが、びくともしなかった。最初に感じたのは恐怖で、それでも王様の手から伝わる体温にどこか安堵を感じている自分もいて、その矛盾した感情に俺はどうして良いか分からず固まってしまった。
「……大丈夫。落ち着きたいんだろう?そのまま、何も考えるな」
ひんやりした魔力が流れ込んできた。フィーがかけてくれた回復魔法に似た感触だった。恐怖が薄れるのとともに熱っぽさがなくなって、鼓動も幾分落ち着いてくる。
「焦ってはいけない。ぜんぶ忘れていいと言っただろう?」
忘れるって何を?
「今度は私が鍵をかけてあげよう。もう意識できないように……さぁゆっくり息をして……」
言われるまま静かに息を繰り返す。王様に触れられていると何故だかとても安心できた。流れ込んでくる心地よい何かとともに王様の声がすんなり耳に入ってきて、混乱と不安が洗い流されていく。
「何がそんなにおかしい?会話を思い出せないことがそんなにおかしいことか?」
何が怖いのか考える。記憶に連続性がないことが怖い。何かあった気がするのにそれが分からないことが怖い。
「思い出す必要もないくらい、くだらない話をした。其方が少しうとうとしていたから、眠っていいと言ったんだ」
音声としては聞き取れているのに言葉の意味がすぐには理解できなくて、ただただ鸚鵡返しに呟く。
「王様がいいと言ったから俺は眠った?」
「そうだ。私が少し目を閉じるように言った」
なんだよかった、と安堵した瞬間、王様の手が離れていった。そして俺を抱えるようにして耳元でささやく。
「私の国の話をして、其方の話を少し聞いた。そのときにはもうウトウトしていたのだから、多少前後を思い出せなくてもおかしくはないだろう?」
おかしくない。
そうか。思い出せないことはおかしくないのか。これでいいんだと思ったら少し気が楽になって、思考がクリアになってきた。ようやく楽に呼吸ができる。
見当識が徐々にはっきりして、いつの間にか王様にしがみついていたことに気が付いた。両手で上着をきつく握りしめている。慌てて手を離した。
俺、何してんだろう。
無礼だし非礼だし何よりーー
近づくなって言われたじゃないか。それなのに。
王様が座り込んでいた俺を立たせて、肩を抱えるようにしながらソファに座らせた。
「どうだ?すっきりしたか?」
「はい……」
「無理に思い出そうとするな。其方に粗相はなかったし、私は満足している。楽しい昼餐だった。そうだろう?」
「楽しかった……?」
「あぁ。寄り道した甲斐があった」
王様が一瞬、彼に似つかわしくないほど自然な笑顔を浮かべた。そんな顔もできるのか、と驚く。と、同時にふとこの顔を曇らせたくない、彼の機嫌を損ねたくないという考えが頭をもたげた。これ以上引きずるな。
王様がいいというのなら、それでいいんだ。
もしかしたら何かあったのかもしれない。でも今は何があったのか考えようとすると頭が混乱してすごくつらくなる。何も考えられなくなるくらいなら、今は深く考えない方がいいのかもしれない。ちゃんと落ち着いてからまた考えればいい。昼餐が無事に終わったのならそれでいい。
今は無性に、馴染みのある場所に帰りたい。
帰らせてもらえるならそれでいい。
フィーとアルマールに帰って、それで。
安心できる場所で深く眠ったら、この妙に落ち着かない不安な気持ちも無くなるはずだから。
天井を向いて一つ深呼吸して、俺は王様に向き直った。
「何度もすみませんでした。もう大丈夫です」
「それならいいが。いずれにしろ、早く身体を休めた方がいい。出立はいつ頃の予定かな?」
「えっと……エルたちが戻り次第、だったと思います」
「それはまたずいぶん早い」
「欠片を早く持って帰らなければならないので……」
「それもそうか。ティラスから戻り次第ということは、宵の第二時ころ……日の入り後になってしまうな」
王様が目を伏せる。
睫毛長いんだな、と詮ないことを考えているうちに王様は身を起こしていた。
「……ちょうど迎えが来たようだ」
「え?」
王様は扉に向かって声をかける。
「入れ」
「失礼いたします」
俺をここに案内してくれた従者さんと、その後ろにフィーがいた。
「フィー?」
フィーが俺の顔を見てホッとした表情を浮かべる。
「アキ様……」
「どうしたの?」
「いえ、予定より長かったので少し心配になって」
「ちょうど話も終わったところだった」
王様は俺から離れ、奥のソファに深く腰掛けた。
「すぐに出立と聞いたが、アキ殿はずいぶんとお疲れのご様子。今晩はこちらに泊まった方がいいのではないか?」
「それはーー」
発言の意図を聞き返そうとしたっぽいフィーを俺が食い気味に遮る。
「俺は大丈夫。早く帰りたいし……」
縋るような気持ちが通じたのか、フィーは一瞬俺に視線を走らせた後でハッキリ言った。
「予定通りに帰ります」
「そうか」
王様もそれ以上しつこくは勧めなかった。
「お二人を控えの間にお連れしろ。粗相のないようにな」
俺は立ち上がって怖々口を開いた。
「あの……今日は貴重なお時間をいただいておきながら、申し訳ありませんでした」
「もういいと言っただろう。そうでなくとも、其方の寝顔で帳消しにするだろうな」
王様が喉の奥でくつくつ笑う。
フィーがどういうことだといった視線で見てきた。
そんな責めるような目で見ないで!俺が一番ショック受けてるから!
改めて退室の挨拶をして頭を下げると、王様が短く呟く。
「また会おう」
また?
顔を上げていぶかるような視線を向けると、王様が目を細める。
そのほんの僅かな表情の変化に、心臓が小さく跳ねた。
会いたいような、会いたくないようなーー
落ち着かない気持ちを抱えながら、俺はフィーとともに部屋を後にした。
身体を揺さぶられて、俺はゆっくり目を開けた。
目の前に長髪の美中年の顔がーー
虹彩が緑……
誰だ?
「よほど疲れているのだな」
「……ここは」
「応接間だ、覚えてないか?」
ここはどこ、貴方は誰の半覚醒状態から、一気に状況を把握する。頬がソファの肘掛け部分にくっついていてーー
「!?」
飛び上がるような勢いで上半身を起こした。疲れている、どころかやけに身体が軽い。気遣わしげな顔をしていた王様が俺の様子を見て顔を改める。
「思い出したか」
「すすすみません、俺どうして」
額に手を当てて、記憶を手繰った。
超ド級のVIPの前で、寝こけたって?どれくらいの間?起きたとき横になっていたということは、相当ガッツリ眠ってしまったのだろうか。
いつどうして眠ってしまったのか、思い出そうとしても思い出せない。
どういうことだ?
眠くなったなんて記憶はない。普通に話せていたはずだ。
あんなに緊張していたのになんで。
記憶が途切れる前までの行動を順繰りにたどる。部屋に入った時には眠気なんてなかったはず。変わった部屋だなと思って。ここを管理している人の趣味なんだって話をきいて。エルとガルの話をして。
何か、口にして。
あぁ、飲み食いはしたのか?
したような気もするし、してないような気もする。
それから?
そこから先がよくわからない。何か話を聞いているうちに眠ってしまったのだとして、どうして完全に眠りこける前に起こしてくれなかったのだろう。いや、王様の行動はともかく、こんな失礼な話があるだろうか。
「申し訳ありません、自分でもどうして眠ったのか……」
「そう深刻に考えることはない。疲れているところにつまらん話をしてしまった私が悪い。気にするな」
いや、そういう問題ではーー
焦れば焦るほど、ソファに座ってからの記憶が遠のく感じがする。こんなのおかしい。おかしいのに、おかしいという違和感が長く続かない。
「あまり自分に負荷をかけるな。私がいいと言っているのだから、いいんだ」
青褪めて俯く俺に、王様は静かに言い聞かせる。声色が不自然に優しい気がして顔を上げると、王様と目が合った。
なんだろう、王様に見つめられると目の奥がジンジンする。瞼の裏に何かを刻まれているような、痛くて熱くて、だけど何故だか嫌じゃない。いままで感じたこともない感覚だ。目の奥が熱くて、なんだか思考がうまくまとまらない。何が何だか分からなーー
いや落ち着け。
何か失態を犯したとき、すぐに失点を取り返そうとしてはいけない。反省と検証の前に一度気持ちを落ち着けなければ、さらに失態を重ねることになる。下手に動くな、相手を怒らせたわけじゃないんだ。大丈夫だ。
「どうした?」
「いえ」
俺は思わず視線を逸らしたが、もう一度王様に見つめられたいという不思議な感情が湧いて、ゆっくりと王様のほうへ視線を戻す。
「もっと近くにおいで」
行かなきゃ、と思った時には身体は既に立ち上がっていて、引き寄せられるように近づいていく。王様から視線を外すことができない。
湯あたりしてのぼせたかのような、恋にでも落ちてしまったかのような錯覚に陥った。ぼぅっと夢心地になって、心臓が痛いほど早鐘を打つ。
これ以上は近づけない。俺はテーブルを半分回ったところで足を止めた。
「アキ殿?」
呼吸も変に乱れているし、瞳の奥がーー痛いんじゃない、これは頭が重いんだ。頭の芯が重い。朦朧とする。
何でだろう。
一歩近づくごとに眩暈が強くなって、膝の力が抜ける。怖いのに、苦しいのに、どうしても近づきたい。脳の命令と身体の反応が食い違っていてとてもつらい。
俺は、ほんとうは、どうしたいんだ?
「覚醒が甘いみたいだな。異物感が強いのか、それとも効きすぎているのか……」
ききすぎてる?何を言っているんだ?
とうとう俺は立っていられなくなって、その場にしゃがみ込んだ。柔らかい絨毯に膝をつく。思考を整理するためにも今はこれ以上外からの情報を入れたくなかった。固く目を閉じて耳を塞ぐ。ようやく落ち着いて呼吸ができた。俺はおかしい。これは夢の続きか?
いつの間に近づいてきたのか王様が耳を塞ぐ俺の両手に手を重ねた。身を引いて振り払おうとすると手首を掴まれた。俺の手を半ば力づくで外して、代わりに自分の手を俺の耳に被せる。俺はすぐに王様の手首を掴み返したが、びくともしなかった。最初に感じたのは恐怖で、それでも王様の手から伝わる体温にどこか安堵を感じている自分もいて、その矛盾した感情に俺はどうして良いか分からず固まってしまった。
「……大丈夫。落ち着きたいんだろう?そのまま、何も考えるな」
ひんやりした魔力が流れ込んできた。フィーがかけてくれた回復魔法に似た感触だった。恐怖が薄れるのとともに熱っぽさがなくなって、鼓動も幾分落ち着いてくる。
「焦ってはいけない。ぜんぶ忘れていいと言っただろう?」
忘れるって何を?
「今度は私が鍵をかけてあげよう。もう意識できないように……さぁゆっくり息をして……」
言われるまま静かに息を繰り返す。王様に触れられていると何故だかとても安心できた。流れ込んでくる心地よい何かとともに王様の声がすんなり耳に入ってきて、混乱と不安が洗い流されていく。
「何がそんなにおかしい?会話を思い出せないことがそんなにおかしいことか?」
何が怖いのか考える。記憶に連続性がないことが怖い。何かあった気がするのにそれが分からないことが怖い。
「思い出す必要もないくらい、くだらない話をした。其方が少しうとうとしていたから、眠っていいと言ったんだ」
音声としては聞き取れているのに言葉の意味がすぐには理解できなくて、ただただ鸚鵡返しに呟く。
「王様がいいと言ったから俺は眠った?」
「そうだ。私が少し目を閉じるように言った」
なんだよかった、と安堵した瞬間、王様の手が離れていった。そして俺を抱えるようにして耳元でささやく。
「私の国の話をして、其方の話を少し聞いた。そのときにはもうウトウトしていたのだから、多少前後を思い出せなくてもおかしくはないだろう?」
おかしくない。
そうか。思い出せないことはおかしくないのか。これでいいんだと思ったら少し気が楽になって、思考がクリアになってきた。ようやく楽に呼吸ができる。
見当識が徐々にはっきりして、いつの間にか王様にしがみついていたことに気が付いた。両手で上着をきつく握りしめている。慌てて手を離した。
俺、何してんだろう。
無礼だし非礼だし何よりーー
近づくなって言われたじゃないか。それなのに。
王様が座り込んでいた俺を立たせて、肩を抱えるようにしながらソファに座らせた。
「どうだ?すっきりしたか?」
「はい……」
「無理に思い出そうとするな。其方に粗相はなかったし、私は満足している。楽しい昼餐だった。そうだろう?」
「楽しかった……?」
「あぁ。寄り道した甲斐があった」
王様が一瞬、彼に似つかわしくないほど自然な笑顔を浮かべた。そんな顔もできるのか、と驚く。と、同時にふとこの顔を曇らせたくない、彼の機嫌を損ねたくないという考えが頭をもたげた。これ以上引きずるな。
王様がいいというのなら、それでいいんだ。
もしかしたら何かあったのかもしれない。でも今は何があったのか考えようとすると頭が混乱してすごくつらくなる。何も考えられなくなるくらいなら、今は深く考えない方がいいのかもしれない。ちゃんと落ち着いてからまた考えればいい。昼餐が無事に終わったのならそれでいい。
今は無性に、馴染みのある場所に帰りたい。
帰らせてもらえるならそれでいい。
フィーとアルマールに帰って、それで。
安心できる場所で深く眠ったら、この妙に落ち着かない不安な気持ちも無くなるはずだから。
天井を向いて一つ深呼吸して、俺は王様に向き直った。
「何度もすみませんでした。もう大丈夫です」
「それならいいが。いずれにしろ、早く身体を休めた方がいい。出立はいつ頃の予定かな?」
「えっと……エルたちが戻り次第、だったと思います」
「それはまたずいぶん早い」
「欠片を早く持って帰らなければならないので……」
「それもそうか。ティラスから戻り次第ということは、宵の第二時ころ……日の入り後になってしまうな」
王様が目を伏せる。
睫毛長いんだな、と詮ないことを考えているうちに王様は身を起こしていた。
「……ちょうど迎えが来たようだ」
「え?」
王様は扉に向かって声をかける。
「入れ」
「失礼いたします」
俺をここに案内してくれた従者さんと、その後ろにフィーがいた。
「フィー?」
フィーが俺の顔を見てホッとした表情を浮かべる。
「アキ様……」
「どうしたの?」
「いえ、予定より長かったので少し心配になって」
「ちょうど話も終わったところだった」
王様は俺から離れ、奥のソファに深く腰掛けた。
「すぐに出立と聞いたが、アキ殿はずいぶんとお疲れのご様子。今晩はこちらに泊まった方がいいのではないか?」
「それはーー」
発言の意図を聞き返そうとしたっぽいフィーを俺が食い気味に遮る。
「俺は大丈夫。早く帰りたいし……」
縋るような気持ちが通じたのか、フィーは一瞬俺に視線を走らせた後でハッキリ言った。
「予定通りに帰ります」
「そうか」
王様もそれ以上しつこくは勧めなかった。
「お二人を控えの間にお連れしろ。粗相のないようにな」
俺は立ち上がって怖々口を開いた。
「あの……今日は貴重なお時間をいただいておきながら、申し訳ありませんでした」
「もういいと言っただろう。そうでなくとも、其方の寝顔で帳消しにするだろうな」
王様が喉の奥でくつくつ笑う。
フィーがどういうことだといった視線で見てきた。
そんな責めるような目で見ないで!俺が一番ショック受けてるから!
改めて退室の挨拶をして頭を下げると、王様が短く呟く。
「また会おう」
また?
顔を上げていぶかるような視線を向けると、王様が目を細める。
そのほんの僅かな表情の変化に、心臓が小さく跳ねた。
会いたいような、会いたくないようなーー
落ち着かない気持ちを抱えながら、俺はフィーとともに部屋を後にした。
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また密かに更新再開をお待ちしてます!
ちなみに、アキ推しです。うふふ。
フィーが思った以上にムッツリで良い(≧∇≦)b
本編でこの先どんなふうにアキを落として行くのか楽しみです♫
こっちで返信できるんですね!ちょっと機能がわかってなくてすみません。感想ありがとうございます。エロだけ突っ走ってるんでかなり変なことになってますが、よろしくお付き合いくださいませ……