私を支配するあの子

葛原そしお

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煉獄篇

第11話「私のノートは黒く塗りつぶされていく」

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 私──咲良花奈──はお母さんとお姉ちゃんが出かけるのを見送り、玄関に鍵をかけると、そのまま部屋に引きこもり、布団にもぐりこんだ。
 日曜日、お母さんもお姉ちゃんもいない。お母さんは仕事で、お姉ちゃんはアルバイト。二人がいないのはさびしいと思うけれど、一人で布団にくるまって、じっとしているのは気楽だった。何も考えずにいられるから。
 昨日もおとといも、十分に寝たはずだけれど、まだ眠いような、頭がぼんやりとして、熱っぽい気だるさがあった。最近はいつも眠い。
 このままずっと眠っていたい。次に目覚めたとき、世界が終わってしまっていたらいいのに。
 ただ本当に眠ってしまうと、それだけ明日が近づいてしまう。明日──月曜日になれば、エリザちゃんが迎えに来る。
 エリザちゃんに、休みの日に呼び出されること、連れ出されることはあまりない。お姉ちゃんがバイトでいない日は、一緒に遊ぶようなことを言っていたけれど、それは最初だけだった。思ったより私といるのが退屈で、ほかに楽しいことを見つけたのかもしれない。そうであってほしかった。ただ平日、学校のある日は、そこで彼女に好き放題され、お姉ちゃんやお母さんが帰ってくるまでの間、家でもされた。。
 私がどれだけ嫌がっても、泣いても、拒んでも、私の心を踏みにじり、私の体をもてあそぶエリザちゃん。
 エリザちゃんが私にすることは痛くて、苦しくて、体だけじゃなく、心まで引き裂かれそうになる。
 彼女が私にすること──キスをしたり、胸や股の間を触ったり舐めたり、そして私にも同じことをさせる。
 どうしてそんなことをするのか、エリザちゃんが何を考えているのかわからない。
 エリザちゃんは私のことを好きだと言う。エリザちゃんの中では私たちは付き合っていて、恋人同士ということになっている。
 好きだから、そんなことをする、させる。理解できない。信じられない。それが愛だなんて、私には理解できないし、信じられない。それなら私のことが嫌いだから、とも考えたけれど、彼女から憎しみや悪意を感じられなかった。それが余計に怖くて、本当に好きだからそんなことをするのかもしれないとさえ思わされた。
 またエリザちゃんは私にしたことに対して、少しも罪悪感を感じていないようだった。そんな彼女のことが、まるで蝶の羽をもぎ、蟻を踏み潰す、子供の無邪気な残虐さのように思えた。
 きっとエリザちゃんは、私を支配して、従わせるのが楽しいのだろう。私も砂村さんや姫山さんみたいに従順にふるまっていれば、これ以上ひどいことはされないはず。私がどこまでも従順にふるまえば、もしかしたら私への興味をなくして、飽きてくれるかもしれない。それに中学校を卒業すれば、エリザちゃんから解放される。
 それよりも早く、一日でも早く、エリザちゃんが死んでしまえばいいのに、とも思った。エリザちゃんが生きているだけで、私の心は暗くなり、嫌な気持ちになる。お腹の中にどす黒い、粘ついた塊があって、そこから毒が滲み出て、私を蝕んでいくようだった。毒は焼けるように冷たくて、指先まで痛みの根を張っていく。
 真っ黒に染め上げられたとき、私はどうなってしまうのだろうか。
 未来が怖くて、私の体は震えた。
 私は明日がこないことを願いながら、布団の中で丸くなった。ただ目をつぶらず、薄暗い部屋の中をぼんやりと見ていた。
 不意にインターフォンが鳴った。それはまるで銃声のように聞こえた。私の心臓は痛いほど激しく脈打った。
 もう一度、鳴った。宅配便だろうか。お母さんもお姉ちゃんも、あまり通販で買い物をすることはないけれど。もしかしたらお母さんかお姉ちゃんが、家の鍵を忘れて取りに帰ってきたのかもしれない。それなら家の電話にしてくれたらいいのに。でもそれも面倒か、と考え直した。
 私は布団を出て、玄関に向かう。
 またインターフォンが鳴った。軽くドアをノックする音も聞こえた。小さく、トントンと。重たい金属のドアを、手を痛めないように、軽く叩いているようだった。
 いくつも不吉な符号が浮かび上がってきて、それに私は下腹部がしめつけられ、おしっこが漏れそうな気分になった。
 ドア越しに声が漏れ聞こえた。
「ハナちゃん、いる?」
 少女の声──エリザちゃんの声だった。私は立ち止まり、息をこらえた。呼吸の音まで聞こえるとは思えないけれど、私の存在を彼女から、この世界から隠そうとした。
「ハナちゃん、遊ぼう」
 エリザちゃんの声は楽しげだった。彼女は心の底から遊びに誘っているだけなのだろう。その遊びが普通のことじゃなくても、彼女にとっては普通のことなのだろう。
 私はこのまま居留守を使えば、と思ったけれど、次に会うとき、それこそ明日にでも、そのことをどう責められるかわからない。
 私は心が死んで暗く静かになっていくのを感じた。私じゃない私になったのを確かめて、玄関を開けた。
 そこにはエリザちゃんと砂村さんがいた。お昼前の日差しの中で、暗い部屋から出たからか、白くまぶしくて、色彩のないモノクロに見えた。
「ハナちゃん、おはよう」
「おはよう……」
 エリザちゃんは琥珀色の瞳を細めて、嬉しそうに笑っていた。
「ダリアちゃんの家で遊んでるんだけど、ハナちゃんも一緒に来ない?」
「うん……」
 拒んだらどうなるのだろうか。どんなひどいことをされるのだろうか。いっそ私のことなんて殺してくれたらいいのに。

   *  *  *

 私は二人に連れられて、砂村さんの家に行く。
 エリザちゃんが手をつないでくる。彼女は楽しげだった。エリザちゃんの手は冷たい。今の私よりも冷たい。エリザちゃんには心なんてないから、温度がないのかもしれない。いつか私も彼女と同じように、誰かのことを思いやることも、何かを感じる心もなくなるのだろうか。
 途中のコンビニでエリザちゃんたちと買い物をする。何かを話しかけたり、聞いてきたりしたので、私は適当に返事をした。ただあまり無関心でいると怒られるので、興味のあるふりや、関心があるように装わないといけないので、ひどく疲れる。
 今日も一日、最悪だ。適当に私の体で遊んで満足してくれたらいいのに。
 そんなことを思いながら、砂村さんの部屋に着くと、異様な光景が目に飛び込んできた。
 ベッドに横たわる、下着姿の女の人と、その人の足元に姫山さんがいた。女の人は手足を紐でベッドに拘束されているようだった。姫山さんは私たちに気づいて彼女から離れる。何をしていたのか、手を股の間に入れていたことから、おおよそのことはわかった。
 それよりも彼女は誰──そう思うと同時に、すぐにわかった。私はそれを信じたくなかったけれど、無意識に口からその人を呼んでしまった。彼女にそれを否定してほしかった。
「おねえ、ちゃん……?」
 お姉ちゃんのはずがない。お姉ちゃんがこんなところにいて、こんなことしているはずがない。
 彼女が私たちの方を見た。世界がぐるりと歪んで溶けたような気がした。
 見間違えるはずない。そこにいたのはお姉ちゃんだった。
「ハナちゃんには、言わないって……」
「言ってないよ。一緒に遊ぼうって誘っただけ」
「なんで、どうして……? ひどい、こんなの……」
 お姉ちゃんは私には答えないで、泣きそうな顔で、怯えた目でエリザちゃんを見ていた。
「お姉ちゃん、なんで……?」
 どうしてお姉ちゃんがこんなところにいて、こんなことをしているの。いつから、エリザちゃんはお姉ちゃんにも。どうして私は今まで気づけなかったのだろう。
 頭が痛かった。めまいがした。このまま泣き叫んでうずくまってしまいたかった。悪夢が覚めないのなら、このまま二度と目覚めないで、死んでしまいたかった。
「違うの! ハナちゃん、これは……!」
 不意にエリザちゃんが私の肩に手を置いた。
 私は心臓が止まるかと思った。
 いったいエリザちゃんは今どんな顔をしているのだろうか。いつもと変わらない微笑みを浮かべているのだろうか。私はお姉ちゃんから顔を離せないので、彼女を振り返ることができなかった。
 お姉ちゃんは怯えて泣いていた。縛られた手足に、その涙を拭うことも、逃げることも隠れることもできないようだった。
 私はエリザちゃんのことが許せない。お姉ちゃんにまでこんなことをして。誰かこの悪魔を殺してほしかった。エリザちゃんは生きているだけで、こんなにも痛みと苦しみを撒き散らす。
 けれど私は怖くて、ここまでのことをされても、エリザちゃんに逆らうこともできなかった。
 私はどうなってもいいから、お姉ちゃんのことだけは助けてほしい。
 そう口にしようとしても、目の前のことを理解できなくて、私は息を吸って吐くこともできなくなっていた。
 その私を、エリザちゃんはお姉ちゃんの方へと押す。私は今自分で立っていることも難しかった。エリザちゃんに押されて、足が転ばないように勝手に前に出て、それで歩いていた。
「お姉ちゃんは今、バイト中なの」
「どういう、こと……?」
 エリザちゃんがいつもの訳のわからないことを言った。
「これがお姉ちゃんのしているアルバイトだよ」
「え……?」
「お姉ちゃんはね、ハナちゃんやママのために、体を売ってお金を稼いでいるの」
「そんな……」
 お金のために、エリザちゃんとこんなことをしているのだろうか。私なんかがいるせいで。
「ハナちゃんもお姉ちゃんのお手伝いをしてあげて」
 私はエリザちゃんに、ベッドに拘束されたお姉ちゃんの足元に立たされた。
 お姉ちゃんは黒いレースの下着を着ていた。どうしてそんなものを着ているのか、胸と股の間に隙間が開いていて、大事な部分が剥き出しになっていた。
 お姉ちゃんは必死に隠そうとしていたけれど、手足の関節を曲げるのが精一杯で、隠すことができないでいた。私はお姉ちゃんから、目をそらした方がいいのだろうか。どうしたらいいのかわからず、ぼんやりとその異様な姿を見ていた。
 お姉ちゃんは泣いていた。怒っていた。怯えていた。手足の拘束を解いて、一緒に逃げよう──なんて思えたらよかったのに。私はこの世界のどこにも逃げ場なんてないように思えて、どうすることもできなかった。
 ひどい夢だ。きっとインターフォンの音を聞いたときから、私は悪夢を見ているに違いない。
 私は目の前の光景が信じられなくて、信じたくなくて、透明な膜に隔てられたような、ガラス越しに世界を見ているような、自分ではどうすることもできないすでに起こってしまったことを動画で見せられているような気分になった。
 エリザちゃんが私の肩に手を置いたまま、耳元で言う。
「ハナちゃん、お姉ちゃんのこと、気持ちよくしてあげて」
「え……?」
「お姉ちゃんのあそこ、濡れているでしょ? 自分で慰めることもできなくて、かわいそう。ハナちゃんが慰めてあげて」
 お姉ちゃんのあそこは、私やエリザちゃんの未成熟なのとは違って、シャープがかった輪郭をしていて、大人の形だった。それがぱっくりと割れて、痛々しく赤く充血した内臓をのぞかせ、その穴の奥から漏れ出した体液に濡れていた。
「できない……そんなこと……」
「ハナちゃんがしないのなら、私がするけど? ただその場合、お姉ちゃんにひどいこと、痛いことをするかもね」
「だ、ダメ!」
 自分の声なのに、耳が割れるかと思った。それにエリザちゃんも少し驚いた顔をしていた。私はここでようやく彼女の顔を見た。
「そう。なら、ハナちゃんが、口でしてあげて」
「わかった……」
 すぐにエリザちゃんはいつものように微笑んだ。相変わらず、少しも悪びれた様子もなかった。
 私はお姉ちゃんに向き直る。
「お姉ちゃん、ごめんなさい……ごめんなさい……」
 私のせいでこんなことに巻き込んでしまって。早く終わらせて、エリザちゃんに、もう二度とお姉ちゃんにこんなことをしないようお願いしよう。その代わりに、いったいどんなことを求められるかわからないけれど。
「ハナちゃん、どうして……?」
 お姉ちゃんの体が震えていた。股を閉じることもできなくて、かわいそうだった。
 私がお姉ちゃんを守る。もうこれ以上、エリザちゃんに、お姉ちゃんにひどいことはさせない。
 私はベッドに乗り、お姉ちゃんの足の間にうずくまって、あそこに顔を近づける。
「ダメ! ハナちゃん、そんなことしちゃダメ!」
 お姉ちゃんが叫んでいた。
 私はお姉ちゃんのあそこに口づけをした。
 涙が、私の頬をこぼれた。
 悲しいけれど、私はお姉ちゃんのことが、心の底から愛おしいと思った。
 初めて、キスをして、心の中に温かいものを感じた。

   *  *  *

 お姉ちゃんの足は閉じようとして、閉じられなくて、切なげに震えていた。
 私はお姉ちゃんの足の間にうずくまって、赤く潤んだ肉の割れ目に口づけをする。綺麗な紅色の花に口を沈めて、秘密にされていた蜜を吸うような気分だった。
「あっ──」
 お姉ちゃんから甘く掠れた声が漏れた。それに私はどきりとした。
 悪いことをしている、取り返しのつかないことをしている。そうわかっていたけれど、私がしなければエリザちゃんがお姉ちゃんに、どんなひどいことをするかわからない。
 私がお姉ちゃんを守る──そう決意し、私はお姉ちゃんの、割れ目の内側に舌を這わせる。
「あんっ……やっ……ハナちゃん……」
 私の舌がお姉ちゃんの花弁に沿って舐めるたび、お姉ちゃんの体が切なく震えた。
「ハナちゃん、やだ……もう、やめて……こんなこと──」
 お姉ちゃんの声は涙でうわずっていた。そこにはどこか甘い響きがあって、それに私は、後ろ暗い気持ちだけでなく、胸の中になんだか温かいものが込み上げてくるのを感じた。
 今まで一度も、この行為を好きだと、気持ちいいと思ったことはないけれど、お姉ちゃんのためだったらどんなことでもできる気がした。
 これは本当は好きな人とする行為だと、何度もエリザちゃんに言い聞かされてきたから知っている。
 私はお姉ちゃんが好き。お姉ちゃんが大好きだから、胸の中が温かくなり、なぜか切ない気持ちにもなるのだろう。
 お姉ちゃん。私が生まれたときから、いつもそばにいてくれた。お母さんがいなくて寂しくて泣いたとき、抱きしめてくれた。私はお姉ちゃんのことが好き。
 私のせいでこんなことになって、お姉ちゃん、本当にごめんなさい。だけどこれからは、私が絶対にお姉ちゃんを守るから。私がお姉ちゃんの苦しみも痛みも全部背負うから。
「ハナちゃん、本当に、ダメ……! こんなこと、おかしいよ……! エリザちゃん、もう、やめさせて……!」
「ハナちゃん、嫌だったらやめていいよ。代わりに私がするから」
「ダメ」
 私は振り返りもしなかった。今はお姉ちゃんに集中したい。
「ダメだって。お姉ちゃん」
 エリザちゃんが呆れたように言った。
 私は無視してお姉ちゃんの割れ目を何度も舐める。舌の付け根が疲れて痛い。いつまでそうしていればいいのかわからない。けれど、何時間でもずっと舐め続けると決めていた。
 私の舌が、ぴちゃぴちゃと水気のある音を立てる。
 私の唾液だけじゃなく、お姉ちゃんの体液も溢れてきて、私の顔とお姉ちゃんの割れ目は、びちゃびちゃに濡れていた。
 私の舌で、エリザちゃんは気持ちいいと言ったり、喜んだりはしていたけれど、本心というよりも、私を従わせることを楽しんで、従うのに満足しているような感じだった。
 お姉ちゃんは私のしていることに、感じてくれているのだろうか。私がお姉ちゃんの割れ目の花弁や傘を被った突起を舐めると、お姉ちゃんは体を震わせて甘い声を漏らす。
「ダメ……ハナちゃん……あっ……ダメ、もう……ああっ──」
 声を震わせて、切なげにお姉ちゃんは泣いていた。
 不意にお姉ちゃんが腰を浮かせて、突き出してきた。もっと深く、そう言っている気がして、私は頑張って顔を押しつけた。私の顔の半分がお姉ちゃんの中に沈む。お姉ちゃんの温度が、匂いが、愛おしかった。
 私の下腹部に、体の奥に、しめつけられるような、甘い痛みと熱があった。下着の中で、私のあれがこすれて痛いようなむず痒いような、切ない気持ちになった。それをいじって慰めようか迷っていると、
「ああああっ──」
 一際高い声をあげて、お姉ちゃんは体を震わせると、大きく背中をそらして、私の顔に腰を強く押しつけてきた。
 そしてお姉ちゃんはおしっこを漏らした。
「んんっ……!」
 口の中に、生温かい液体が勢いよく放水されて、さすがに私は驚いて口を離した。その代わり顔いっぱいにそれを受けた。目に入りそうで、思わず目をつぶってしまった。
 それをエリザちゃんが笑っていた。
「よかったね、お姉ちゃん。ハナちゃんにイかせてもらえて」
 イった、ということは、お姉ちゃんは気持ちいいと思ってくれた、感じてくれたということだろうか。私の舌でお姉ちゃんが喜んでくれた、そう思うと嬉しかった。
 目を開くと、お姉ちゃんの顔は涙で濡れていて、鼻が詰まって、むせたように泣いていた。息が苦しそうで、大きく胸を上下させて、引きつったように体を震わせていた。
「お姉ちゃん、平気……?」
 苦しそうにも見えるけれど、お姉ちゃんの肌はしっとりと汗ばんで、かすかに赤みが差して火照っているようだった。
 もう一度、私はお姉ちゃんの股の間に顔を沈める──
「ハナちゃん、ストップ」
 私がお姉ちゃんの股の間に顔を沈めようとすると、それをエリザちゃんが止めた。私は慌ててエリザちゃんを振り返る。次はエリザちゃんがするつもりなのだろうか。
 エリザちゃんは楽しそうに微笑んでいた。
「イったばかりだよ。ハナちゃんって、意外と鬼だよね」
 それはエリザちゃんにだけは言われたくなかった。
「ね、お姉ちゃん。次はお姉ちゃんがハナちゃんにしてあげて」
「え──」
 今度はお姉ちゃんに、私がされる。そう思うと、変な気持ちになった。
 お姉ちゃんは涙に濡れた顔をくしゃくしゃにした。
「何を、させるつもりなの……?」
「お姉ちゃんはそのままじっとしてて。ハナちゃん、裸になって」
 私はエリザちゃんに素直に従う。エリザちゃんには逆らうだけ無駄で、逆らえば、もっとひどいことになるのがわかっているから。
 下着を脱ぐと、シミができていた。
「しっかり濡れてるね」
 エリザちゃんが楽しそうに言った。それに私は恥ずかしくなった。いつの間にか私も少し漏らしてしまったようだった。
 お姉ちゃんのを舐めているとき、私の下半身も、股の間にあるあれがむず痒くなるのを感じた。そのせいかもしれない。
「それじゃお姉ちゃんの顔にまたがって」
「え……?」
 どうまたがったらいいのだろうか。お姉ちゃんの両腕は拘束され、横に広げられている。
 私はお姉ちゃんの頭の方から回り込んで、お姉ちゃんの体を見下ろす形で、顔の横に膝をついて、ゆっくりと腰を下ろした。
「ハナちゃん……」
 お姉ちゃんが弱々しく私の名前を呼んだ。ほかにも何か言おうとしたのかもしれないけれど、私のあそこがお姉ちゃんの唇に触れて塞いだからわからなかった。
「んっ……」
 思わず声が漏れてしまった。
 お姉ちゃんの弾力のある唇。お姉ちゃんの唇が、今私のあそこに触れていると思うと、少し触れただけなのに、私もおしっこが漏れそうになった。それにお姉ちゃんの息が私のお尻の穴に触れてくすぐったかった。私は今、お姉ちゃんにお尻の穴まで見られている。
 あそこがむずむずと痒く、切なく、熱くなってくる。
「お姉ちゃん……」
 エリザちゃんが怖いから、逆らえないからとはいえ、私はお姉ちゃんにこんなことをしてしまっている。ただ私がエリザちゃんに素直に従っているのは、お姉ちゃんに対して、少し怒っているからかもしれない。
 お姉ちゃんがお金のために、エリザちゃんとこんなことをしていたこと。何も相談してくれなかったこと。私に黙っていたこと。
 そのことが悲しくて悔しくて、その気持ちをどうしたらいいのかわからなくて、それで私はこんなことをしてしまっているのかもしれない。そんな気がした。
「ほら、お姉ちゃん。ハナちゃんのを舐めてあげて。早くしないと、私がハナちゃんとしちゃうよ」
 お姉ちゃんの舌が、私の割れ目に触れた。温かくて、濡れた感触が私の内側をなぞる。
「あっ、ん……お姉ちゃん……」
 体がお姉ちゃんの舌に反応した。熱いものが私の下半身に滲んでくる。
 エリザちゃんに何度もされたことがあるけれど、全然違う感じがした。
 私は腰が抜けそうになって、お姉ちゃんの頭を潰してしまわないよう、必死に堪える。
 その私を支えてくれたのはエリザちゃんだった。エリザちゃんは私と向かい合うように、お姉ちゃんの体をまたいで膝をつき、私の両肩を支える。
 エリザちゃんは嬉しそうに、楽しそうに微笑んでいた。
「ハナちゃん、気持ちいいの? お姉ちゃんにしてもらえて」
「うん……」
 素直に答えたのは、エリザちゃんが今までしてきたこと、今もしていることに対する抗議の気持ちもあった。
 お姉ちゃんと違って、エリザちゃんにされたことは気持ちよくない。
 そのつもりだったけれど、エリザちゃんは少しも気づいている様子はなかった。
 エリザちゃんは私の肩に置いた手を首の後ろに回して、顔を近づけてくると、キスをしてきた。
「ハナちゃん……」
 エリザちゃんがその琥珀色の瞳を細めて、生温い息を漏らしながら、私の名前を呼んだ。
 私は最悪な気持ちになった。お姉ちゃんを感じたいのに、お姉ちゃんで感じているのに、エリザちゃんの唇が、舌が、私の中に入り込んでくる。
「んっ……ん……」
 私はエリザちゃんを押しのけようと、彼女の薄い胸に、その肋に手をかけたけれど、本当に押しのけることは怖くてできなかった。
 エリザちゃんの舌なんて感じたくないけれど、お姉ちゃんに割れ目の中や輪郭をなぞられて、むず痒いような痺れが背中を駆け上がって、大嫌いなエリザちゃんの舌が私の口の中を這いずり回って、頭の中がぐちゃぐちゃにかき回されている気分だった。
 私は目をつぶり、キスしている相手はお姉ちゃんだと思うようにした。
 お姉ちゃん、好き。お姉ちゃん──
 お姉ちゃんに上も下も舌で責められている、そんな矛盾した妄想を、必死に自分に言い聞かせた。
 そのせいかわからないけれど。お姉ちゃんの舌が突くように、私の突起を舐めると、針に刺されて、そこに電気でも流されたような、痛みとも違う何かが私の中を駆け上がって、頭の中に星が散った。
「あ、お姉ちゃん……! お姉ちゃん……!」
 私は膝で立っていることができず、エリザちゃんに体重を預ける。その私の体を、エリザちゃんの細い体は力強く支えてくれた。
「ああああっ──」
 私の体がびくびくと震える。お腹の下に溜まっていた熱いものが、一気に溢れ出した。
 その下で、苦しそうにお姉ちゃんがうめいている声が聞こえたけれど、私にはどうすることもできなかった。
 お姉ちゃん、ごめんなさい……ごめんなさい──
 頭の中で何度も謝った。それと同じ数だけ、お姉ちゃんが好きだと想った。
 私は体の震えが治まらず、息も乱れていて、自分で立ち上がることも、体を支えることもできず、お姉ちゃんを窒息させてしまうのが怖くて、エリザちゃんの体にすがりついていた。その私の背中にエリザちゃんが手を回して、私を抱きしめて耳元で囁く。
「これで私たち、本当に姉妹だね」
 彼女が何を言っているのか、もうよくわからなかった。
 姉妹なら、私が知らなかっただけで、本当はこんなことをするのだろうか。そんなわけがないのに、そう思うことで、少しは気持ちが楽になれたかもしれない。

   *  *  *

 もう夕方だったけれど、夏至を過ぎて、まだこの時間でも空は明るかった。
 私たちは手をつないで帰った。
 お姉ちゃんの手は、私より少しだけ大きくて、指が長い。綺麗な手で、その手で頭をなでられたり、抱きしめられたり、触れてもらえることが嬉しかった。
 けれど今は、その冷たい乾いた手を、もしも離してしまったら、このままどこかにお姉ちゃんが消えてしまうような、もしも離されたら、もう姉妹ではいられないような気がして怖かった。
「お姉ちゃん……ごめんなさい……」
「なんで、ハナちゃんが謝るの……?」
「私のせいで……お姉ちゃんまで……」
 お姉ちゃんは立ち止まって、少し身をかがめて、私のことを抱きしめてくれた。
「ハナちゃんのせいじゃないよ……私が……私が悪いの……」
 私は涙があふれてきて、うまく息ができなかった。お姉ちゃんも泣いていた。
「ごめんね……ハナちゃんごめんね……」
 違う。私がエリザちゃんと出会ってしまったから。私なんかが生まれてきてしまったから。お姉ちゃんは何も悪くないのに。
 私たちはあのあと、一日中ずっと、三人で互いのあそこを舐めたり、指を入れたり、いろんなことをした。目の前でエリザちゃんがお姉ちゃんにキスをしたときは、胸が締めつけられるように痛かった。
 そしてエリザちゃんは、私たちが姉妹でしているところを撮影していた。
「姉妹でこんなことしてるの、ママが知ったら悲しむだろうな。もしもネットに出回ったら、たとえ引っ越しても逃げられないね」
 そう笑っていた。
 もうこの世界のどこにも逃げ場なんてなかった。
 どうすればよかったのだろう。
 どうすればお姉ちゃんを助けることができたのだろう。
 私が拘束を解いて一緒に逃げれば──そんなことはできないとすぐ諦めてしまった。
 エリザちゃんの言いなりにならないで、私が拒めば──そうしたらエリザちゃんがお姉ちゃんに何をするのかわからない。
 エリザちゃんは二重にも三重にも私を追い詰めてくる。
 どうして私なんだろう。どうしてエリザちゃんは、私に、お姉ちゃんにこんなことをするのだろう。
 エリザちゃんは恋人とか、姉妹とか、口にするけれど、私の知っている意味とは違うような、まったく別の言葉のように思えた。
 エリザちゃんがこれで満足したとは思えない。また三人で、それかお姉ちゃんと二人で、あんなことをするつもりなのはわかっている。
 けれどお姉ちゃんのことは、私が守る。
 エリザちゃんに、加藤さんを殺せと言われたら、加藤さんを殺す。自殺しろと言われたら、自殺する。
 絶対に私がお姉ちゃんを守る。
 私はお姉ちゃんの手を強く握り返した。

   *  *  *

 月曜日──
 いつものようにエリザちゃんが、何事もなかったように、楽しげに、私のことを迎えにくる。お姉ちゃんは目をそらして、一言も口をきかなかった。
 私はいつものようにエリザちゃんと手をつないで登校する。
 教室に着くと、加藤さんが両手を地面につけて、土下座する手前のような姿勢で私を待っていた。その後ろに砂村さんと姫山さんが、無表情でそれを見ていた。
 私が教室に入ると、加藤さんは怯えた顔で私を見て、すぐにうつむく。そのまま四つん這いで私の前に進んできた。
 あの元気で明るくて、友達のいない私にも、気さくに話しかけてくれた、彼女の面影はもうない。怯えた表情に、暗い顔。引き締まっていた体や顔つきは、今では丸みを帯びて、太ってきている。本当に豚に近づいているようだった。彼女を見るたびに、本当に私の知っている彼女なのか、疑問に思ってしまった。
 加藤さんだったものが、朝の挨拶をする。私の上履きの先に、土下座するようにうずくまって、鼻をこすりつけた。
 いつもの朝だった。
 私はそれを、もう嫌悪感や抵抗感を抱くこともなく、ただ見下ろした。頭がぼんやりとして、私とは関係のない、何かの映像を見せられているような気分だった。
 それを見てエリザちゃんが笑った。
「このブタ、よく調教できてるね」
 私はエリザちゃんに、砂村さんに言われるがままに、加藤さん──ナスブタを調教した。
 私は加藤さんに裸で豚の鳴き真似をさせたり、教室でみんなが見ている前でおしっこもさせた。顔にうんちだって何度もした。片付けは私たち以外のほかの子が、何も言わなくても勝手にやってくれた。
 私は加藤さんに対してすることに、私の心は冷たく凍りついて、楽しいとも嫌だとも、もう何も感じなかった。私の感情は真っ黒に塗りつぶされていた。
 ただ加藤さんに対して、もう学校に来なければいいのに、といつも思った。
 そう思うけれど、エリザちゃんのことだから、加藤さんのことを何重にも追い詰めているのだろう。どんなことをしているのか、したのかは、怖くて知りたくも、聞きたくもない。
 どうしてエリザちゃんは加藤さんにここまでするのか。
 元気で明るかった加藤さん。今は見る影もない。いつもうつむいていて、四つん這いで歩いている。二本の足で歩いていいのは教室移動や授業中だけ。私は彼女のことをなるべく見ないようにしているので、二本足で歩いている姿はずっと見ていない気がした。
 誰も加藤さんを助けようとしない。私も。
 こんなことになったのは私が原因なのに、私はどこかで、理不尽に加藤さんのことを憎んでいた。彼女を助けようとしなければ、私までこんなことをしないでよかったはず、と。そう思うのは、どうすることもできないことに、そう思わなければいられないからかもしれない。
「今週も出荷体重を目指して頑張ろうね」
 エリザちゃんが楽しそうに笑っていた。
 出荷体重──その体重になったら、ブタから解放するとエリザちゃんが約束してくれた。それでも出荷という表現がなんだか怖くて、私はその約束が本当かどうかも確かめることができなかった。加藤さんはそれを信じて一生懸命頑張っている。
 ただ私はエリザちゃんが約束を守ってくれるかどうかよりも、出荷体重の110キロなんて、私より少し背が高いぐらいの加藤さんに、本当にそんなことができるのか疑問だった。
 ただこの一ヶ月近くで、加藤さんの体型はすっかり変わってしまった。バスケ部で、しなやかな体つきをしていた加藤さん。今は胸よりもお腹が出ていて、顔も太り始めていた。これが始まってから彼女の体重は17キロも増えた。
 そして出荷体重とは別に、毎週の目標もあった。
 一週間で体重を10キロ増やす。できなかったら人豚。私も加藤さんの顔にうんちをするのは嫌なので、なんとか彼女の体重を増やそうとした。加藤さんに吐く寸前まで給食を食べさせた。吐けば、砂村さんや姫山さんがそれを食べさせる。けれど毎週金曜の放課後の計測で、目標に達することは一度もできていない。
 17キロも増えたけれど、一週間のうちに10キロ増やさないといけないので、ずっとその繰り返しだった。計測の日には加藤さんにいっぱい水を飲ませて、トイレを我慢させても、10キロに届かない。
 仮にもし一週間で10キロを達成しても、また翌週には同じことをしなければならないから、ほとんど意味がない気がした。ただ私が加藤さんにうんちをしないで済むだけだろう。
 彼女の外見も変わってくると、私の感覚もどんどん麻痺していって、私の知っている加藤さんと今の加藤さんは別人で、私たちの間に交流なんて何もなかったような気がしてきた。それがエリザちゃんの目的だと、砂村さんに聞いて知ったけれど、だからといってどうする気もなかった。
 どうしてエリザちゃんは加藤さんにそこまでするのか──砂村さんと二人きりのときに聞いてみた。姫山さんは、エリザちゃんとの関係がよくわからないので、彼女もいないときを見計らった。
 砂村さんの話では、エリザちゃんが私に加藤さんをいじめさせるのは、私の加藤さんへの気持ちをなくすため、とのことだった。
 私が加藤さんのことを思いやる言動が、些細なことでも気に食わないらしい。
 それでここまでするのか、させるのかと思ったけれど、エリザちゃんのことを理解できるわけがなかった。

   *  *  *

 お昼休み──
 いつものようにエリザちゃんが私の体をまさぐる。
 授業の合間の休み時間は、加藤さんをいじめるために使われ、お昼休みは私をいたぶるために使われた。
 今日は家庭科の授業で使う調理実習室だった。
「外は暑いから、涼しいところでしよう」
 そうエリザちゃんは笑って言った。この前は理科室だった。
 実習室や理科室、音楽室は、授業のない時は施錠されているのに、なぜかエリザちゃんは各教室の鍵を持っていた。どうやって手に入れたのか、怖くて理由を知りたくなかった。
 私のクラスの担任は砂村さんに逆らえないように、足の爪を剥いだり、裸の写真を撮って脅してあるらしいけれど。ほかの先生にも何かしてあるのかもしれない。
 私は調理台の、冷たくて硬い銀色の天板の上に寝そべる。天井の照明が眩しくて目が痛いので、横を向いた。
 調理台の上というのは、いつもと違った緊張感があった。このまま殺されてバラバラに解体されて、エリザちゃんに食べられてしまうような気がした。そんなことあるはずない──とも思えないのが、エリザちゃんだった。
 エリザちゃんは私の股を開くと、そこに顔を沈めて舐める。
 実習室の中は、外の音は聞こえてこない。静かだった。空調の音と、エリザちゃんが私の割れ目を舐める水の音だけがした。
 やっぱりエリザちゃんに舐められるのは気持ち悪かった。おしっこを漏らして濡れたショーツを、脱がずに履いたままでいるような気分だった。お姉ちゃんのときは全然違ったのに。
 私はこの行為に、嫌悪感や吐き気を感じても、心を真っ黒に塗りつぶして、私をなくす。そうすれば時間だけが過ぎていく。これはノートの余白をただ黒く塗っていくような、それだけの行為でしかない。
 少しして、私もエリザちゃんに同じことをする。エリザちゃんは調理台の上に乗ると、じっと私を見て微笑む。私は下着を脱がせて、露わになったその割れ目に口づけをした。
 お姉ちゃんとは違って、私と同じようにまだ子供のそこは、熟す前に摘み取って、腐らせた果実のようだった。
 私は心をなくして、エリザちゃんの割れ目を舐める。
「あ、ハナちゃん……んっ……あっ……」
 エリザちゃんはわざとらしく声をあげる。エリザちゃんの仕草は、なんだか演技っぽいと思った。このことに限らず、ただ人間の真似をして、人間のふりをしているような感じがした。
 エリザちゃんが私に求める役割は恋人。
 私がなかなか言うことをきかなかったり、彼女が私に求める役割から外れたことをすると、エリザちゃんは不機嫌になる。
 エリザちゃんに好きと言われて好きと返事をしないと、無表情で、無言で私を見る。そのまま答えなかったらどうなるかは怖くて確かめていない。
 エリザちゃんにもらったヘアピンを忘れた日は一日中不機嫌だった。そうなるとお昼休みや放課後にするとき、わざと痛いことや怖いことをしてくる。
 エリザちゃんは恋人役にしても、友達役にしても、何かを交換条件にしたり、脅迫をして、恐怖でその役割を私たちに演じさせているだけ。
 そう思うと、エリザちゃんがなぜこんなことをするのか、なんとなくだけれど、彼女が人間になりたくてしてるような気がした。
「もういいよ、キスしよ。ハナちゃん、来て」
 エリザちゃんが体を起こして、調理台に座り、両手を広げて私を招く。あのいつもの微笑みを浮かべていた。その表情も、嘘くさい偽物で、相手を騙すための罠に違いなかった。
 私はエリザちゃんにキスをする。何も感じない。きっとエリザちゃんも何も感じていないのだろう。そのままエリザちゃんは、私のブラウスのボタンを外して、下着越しに胸に触れてくる。
 エリザちゃんはひととおりすれば、満足する。それからは時間まで二人で手をつないで肩を寄せ合ったり、抱き合ったりするだけ。
 ひととおりをおえると、エリザちゃんは私を抱きしめて、耳を舐めてきた。
「ハナちゃん、またお姉ちゃんと三人でしようね」
 それに私は、いきなり心臓を握られたような気がして、息ができなくなった。
 お姉ちゃん──エリザちゃんは、お姉ちゃんにまでひどいことをした。絶対に許せない。
「どうして……? どうして、お姉ちゃんまで……」
 肺に残った最後の空気で、なんとか聞いてみた。
「家族になるためだよ」
 それがエリザちゃんがお姉ちゃんに求める役割なのだろうか。
 私はお腹に痛いほど力を入れて、細く息を吸う。
「どうしてお姉ちゃんにまで、あんなことするの……?」
 それにエリザちゃんは、聞き分けのない子供に優しく教えるように、琥珀色の瞳を細めて微笑む。
「あれはお姉ちゃんが自分で始めたことだよ。ハナちゃんは、お姉ちゃんが誰だか知らないおばさんに、あんなことをされてもいいの?」
「え?」
「お姉ちゃんがしてたことはそういうことだよ。体を売ってお金にしていたの。それなら、まだ知ってる私や、ハナちゃん自身が相手の方がマシだと思わない?」
 お姉ちゃんに、どうしてエリザちゃんの言いなりになっているのか、理由を直接聞くことはできなかった。逆にお姉ちゃんから「いつからエリザちゃんと、どうして彼女とあんなことしているの?」、そう聞かれて私は答えることができなかったから。私が答えないのに、お姉ちゃんが話してくれるとは思えなかった。
 本当のことを話してお姉ちゃんを悲しませたくない。それに、もう二度とエリザちゃんが、お姉ちゃんに手を出さない約束さえしてくれたら、私はどうなってもいいから。私のことは、お姉ちゃんは知らなくていい。
 エリザちゃんに何かをお願いするとき、恐ろしい代償を求められることはわかっている。それでも私は、どうしてもエリザちゃんにお願いしなければいけない。
「お願いします……もうお姉ちゃんに、ひどいことしないでください……」
 エリザちゃんは変わらず微笑んでいた。
「それじゃハナちゃんは、私のために、何をしてくれる?」
「えっと……お金、払います……私が、代わりに、体売るんで……」
「却下」
「それじゃ、えっと……加藤さんに、うんちします……」
 それにエリザちゃんは、呆れたようにため息を漏らす演技をした。
「それはもう何度も見てるし。そうじゃないんだよなぁ。ハナちゃんは、女心がわかってないよ」
「じゃあ、どうしたら……?」
「ハナちゃんがお姉ちゃんのために、どんなことでもする気持ちがあるのはわかったよ。だからね、私のために、なんでもするハナちゃんが見てみたいな」
 エリザちゃんがうっとりと微笑んだ。微かに瞳が潤んでいるように見えた。あの爬虫類の目だ。冷血で、残虐な、それでいて無邪気な目。獲物を丸呑みにする前の蛇の、喜びのような色。
 いったいエリザちゃんは、どんなことを私にさせるのか──
「ピアス、開けて」
「え?」
「私のために」
 そういうのは校則で禁止されている気がしたけれど、そんなことでお姉ちゃんを助けられるのなら、私は構わなかった。
「わかった……」
「わぁ、嬉しい! それじゃ放課後ね! それまでに準備しておくから」
 エリザちゃんは嬉しそうに手を叩いた。
 私は少し意外な気持ちになった。
 もっと無茶なことをさせられると思っていた。たとえば加藤さんを殺せとか言われると思っていたので、少し気が楽になった。
 痛いかもしれないけれど、お姉ちゃんのためなら、そのぐらいのことなら耐えられる。

   *  *  *

 放課後──
 いつものようにエリザちゃんは私の家に来た。
 部屋の中で私はベッドの下段に座る。その私の前にエリザちゃんが立っていた。
「はい、これ」
 エリザちゃんが目の前に手を差し出す。彼女の手のひらの上には、安全ピンが二つあった。鈍く銀色に光るそれに、私は痛そうだなと思った。
 私はそれを受け取る。渡されたということは、自分で開けなければならないらしい。怖いけれど、お姉ちゃんを守るためなら頑張れる。
 私は指でピンを押して、留め金から針を出した。まずは右耳から──
「それじゃハナちゃん、服脱いで」
「あ、うん……」
 そんなに血が出るのだろうか。余計に怖くなってきた。
 私は素直に従った。
「下着も脱いで」
 もうエリザちゃんに裸を見せるのは慣れてしまった。いまさら何も感じない。
 私は言われたとおりにする。
「それじゃ、乳首に刺して」
「え?」
 私は耳を疑った。エリザちゃんの顔を見ると、いつものように微笑んでいて、からかっているのか本気なのか、そこから読み取れなかった。
 エリザちゃんが私の胸の先を指さした。
「乳首にピアスを開けるんだよ。安全ピンだけどね。今度ダリアちゃんに、ちゃんとしたものを用意してもらうから、予約みたいなものかな──さぁ、開けて」
「え、え……?」
「私のために開けてくれんでしょ?」
「ピアスって、耳じゃないの……?」
「校則違反で怒られちゃうよ。ハナちゃん、不良だなぁ」
 エリザちゃんが呆れたように言った。
「え、でも、どこに……」
 私の胸の先の、低く盛り上がった突起──乳首のどこに刺せばいいのだろうか。
「ハナちゃんの乳首、小さくて可愛いからね。根元の方に刺して。あんまり浅いと、乳首がちぎれちゃうかも」
 エリザちゃんは怖いことを、冗談のように笑いながら言った。
 乳首にこれを刺す──どうしてそんなことをするのか、意味が分からなかった。
「なんで、そんなこと……?」
「私のために頑張ってくれるハナちゃんが見たいから」
 エリザちゃんはただ私が痛がったり、苦しんでいる姿が見たいだけなのかもしれない。
 それに私が頑張るのはエリザちゃんのためではなく、お姉ちゃんのためだ。
 お姉ちゃんのためなら、私はなんでもする覚悟でいた。それこそ加藤さんを殺すことも、自分が死ぬことも。それなのに、これを乳首に刺すのは、想像するだけで怖かった。
 心臓がドクドクいっている。それに合わせて、目の前が揺れて見えた。
 何かほかのこと、なんでもするから──そんなことを言ったら、エリザちゃんはもっと恐ろしいことを要求してくるかもしれない。
「それにね、もうすぐ夏でしょ? 夏休みになったら、ハナちゃん可愛いから、誰か悪い人に目をつけられて、騙されて、痛い目に遭うかもしれないから。でもちゃんとハナちゃんの体に、私のものだって証があれば、安心できるから。だからハナちゃん、お願い、ね」
 エリザちゃんが何を言っているのかよくわからないけれど、私がエリザちゃんの所有物であることを証明したい、ということだろうか。
 私がエリザちゃんの所有物になれば、もうエリザちゃんはお姉ちゃんにひどいことをしないのなら──
 私は覚悟を決めた。左手で左の乳首を押さえて、右手にもった安全ピンを近づける。指が震えて、うまく刺せる気がしなかった。指先が震えた拍子に、針が乳首の先をかすった。それだけで痛くて泣きそうになった。
 息が苦しい、胸が痛い。こんなことは冗談だって、エリザちゃんが言ってくれるのを心の中で祈っていたけれど、エリザちゃんは何も言わない。
 もう一度、針先を乳首の根元に当てた。触れただけで痛くて、私は手を引いてしまった。
 無理──こんなことできるわけない。
 私はエリザちゃんを見た。彼女に救いを求めてしまった。彼女が何か別のことに変えてくれることを祈って。
「お姉ちゃんが帰ってくる前に、二つとも開けたら、お姉ちゃんは解放してあげる」
「う、うぅ……」
 エリザちゃんは楽しんでる様子も、苛立っている様子もなかった。私ができてもできなくても構わないような感じだった。
 私はもう一度、針の先を乳首に近づけ、刺した。
「痛いっ……!」
 ギリギリと、針の先が私の肉を切り裂いていく感じがした。
「いっ……!」
 私の乳首の半分も進まないうちに、焼けるような鋭い痛みに、私は思わず針を引き抜いてしまった。
 じんじんと胸の先が痛かった。小さく、赤い血の玉が乳首の横にできた。
 こんなに痛いのに、貫通させるなんて無理。
「無理……無理だよ……できないよ、こんなこと……」
 私の目から涙がこぼれて、うなだれた私の手首に落ちた。
「血が垂れているよ」
 血の玉が私の胸から滑り落ちた。それをエリザちゃんが舐めとる。そのまま血の筋に沿って顔をあげ、私の胸の先に口づけをした。
「うっ……」
 エリザちゃんはまるで赤ちゃんのように、私の乳首を、血を吸う。
 私にこんなことをさせて、私がこんなに痛くて苦しいのに、エリザちゃんは楽しそうだった。私を苦しめて楽しんでいる、というわけではなく、そもそも彼女には悪意なんてなくて、ただの遊びのように思っている感じがした。
「ハナちゃんの血、甘くて美味しい」
 エリザちゃんが琥珀色の瞳を細めて、私の胸元で微笑む。
 私はいっそこの針を、そのままエリザちゃんの目に突き刺したかった。
 私はエリザちゃんの唾液で濡れた、血の滲んだ乳首を見る。痛くて、もう私には無理だった。もう一度刺すだけでなく、貫通させないといけない。それも二つの乳首に対して。
「エリザちゃん、お願いします……ほかのこと……なんでもするから……」
 私はエリザちゃんを見た。エリザちゃんはいつもどおり微笑んでいた。
「お姉ちゃんが帰ってくるまで、まだ時間あるよ。ハナちゃん、頑張って」
 私はどうしようもなくなって、泣くことしかできなかった。
 お姉ちゃんのためならなんだってできると思っていたけれど、私はこんなこともできなくて、情けなくて、恥ずかしかった。
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