ジルド・エヴァンズの嫁探し

やきめし

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※番外編『城田啓介再び?!』

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 「え、うそ」
 
 顔を洗い、いつもと違う感覚があって鏡を見た俺。最初は夢を見ているんだと思った。
 
 「え、え…?いや、は?」
 
 顔が
 
 「俺じゃん」
 
 “城田啓介しろたけいすけ”だった。
 
 
 

──────·····
 


 
 日が昇る前に薬師服を着込んで家を飛び出る。

 混乱しながらもジルドさんへ
 『王都の仕事で少しアーネシアを離れます』と伝言を残して。
 
 「はぁ、はぁ…」
 
 久々に山を駆けた。トキを知る人の多い場所からなるべく離れようと必死になっていたが、体力がない。足が止まる。トキの身体だとこの距離で息を切らすことはまずなかった。
 
 「どうして…なんで……」
 
 川に顔を映して見ても城田啓介のまま。ここへ来るまで何度確認したって変わりゃしなかった。
 
 「どうしたら…」
 
 荷物を抱えて座り込む。悪い夢だと思いたいのに、ちっとも覚めそうにない。これがちょっと前なら気にしなかった。肉体こそ変化しているが知識はある。薬師をするのに困らないどころか普通の男に戻って良かったとすら思っただろう。
 
 「ジルドさん…ジルドさん、どうしよう」
 
 俺には彼がいる。
 
 いや”トキ”には。
 
 見た目が人種ごと変化して、普通の男になって、美人でもなんでもない平たい顔になってしまった。
 
 「ははっ、これじゃ無理だ」
 
 城田啓介(おれ)は不細工とは言わないが、この世界じゃ下の下寄りの中くらい…には留まりたい。その程度の見た目になるだろう。
 
 ジルドさんに説明すれば、驚きはしても少しずつ受け入れてくれたかもしれない。
 
 でも見た目って大事だろ。
 
 心根もそりゃ大切だけど、トキと城田啓介では魔法が解けたかのように別人だ。
 
 それに、なんてったって“俺が”この姿を見られたくない。
 
 「もどるかな…」
 
 そもそも、なぜトキとして生まれたのに今になって前の世界の姿になった?
 
 日本語が抜けないとか城田啓介の感覚が続いていることが原因だとしたら、俺はこれからずっとこの姿になってしまう。
 
 「ダン……そうだ、ダンのところに!」
 
 育ての親の顔が浮かんだ。俺の足じゃどれだけかかるかわからないが、薬草を採りながらの旅でもない。馬車を乗り継げば数日で行けるはずだ。
 
 
 出稼ぎ労働者のひしめく馬車は174㎝の俺にはきつい。座る場所もなく、ぎゅうぎゅうに詰められ必死に荷物を守った。
 
 一日に何度も乗り継ぎ、時間が合わず翌日にしか馬車が出ない田舎からは歩いた。足の豆を潰しながら。
 
 節約のため山で寝ては川で汗を流す。途中で薬を売り安いパンを買って無理やり胃に流し込んだ。
 
 
 
 「あっ、ダンの家!」
 
 懐かしさと安心感に涙が込み上げる。
 店の中には薬棚の前に腰掛けた、記憶より少し老けた男。
 
 
 「ダンッ、ダン…!」
 
 
 全身筋肉痛なのも忘れ、走って店へ飛び込んだ。
 
 
 
 
 
 
 「……トキだと?」
 
 訝しげに俺を睨むダン。当たり前だ。突然、まったく似てない男が“自分はトキだ”と言うのだから。
 
 俺は必死にダンに伝えようとした。
 
 「そうなんだよ、起きたらこの姿になってて!信じられないかもしれないけどさっ…!」
 
 「ただいま~」
 
 背後から”聞き慣れた”声。
 
 
 
 
 「え…」
 
 「だれこの人?ダンの知り合いの薬師?」
 
 
 ───トキだ。
 
 
 
 「……店はいいからソーンの様子見てきてくれ」
 
 「ん?わかった。ごゆっくり」
 
 呆然とする俺にニコリと笑った“トキ”が軽く手を振った。
 
 
 「う、うそ、うそだ……悪い夢だ…そんな、おれ」
 
 「……お前さん、名前は?」
 
 「だからト……」
 
 いや、
 ”俺”の名前はトキではない。
 
 俺は……
 
 「そこ座って落ち着け、な?薬師見習いが間違えて幻覚草食っちまうことは~…」
 
 よくある。そう、よくあるよ。俺だって何度もある。でもそんな感覚じゃないんだ。
 
 違うんだよ、ダン。
 
 「いまから薬煎じてやるからな、座っとけよ」
 
 ダンが慣れた手つきで薬を作りはじめた。
 
 俺はその調合で、ダンが煎じているのが眠り薬だとわかってしまった。よく見れば額には汗。きっと突然現れた狂人から家族を守ろうとしてるんだ。
 
 
 
 ぽろ、ぽろ、
 涙が溢れた。
 
 
 
 「あ、ああ……ごめんなさい…あの」
 
 変なことはしない、と両手を胸の位置に上げて後退る。
 
 「おれはトキじゃなかった…ごめんなさい……」
 
 
 泣きながらヘラリと笑って店を出た。 
 
 
 ダンは俺から目を離さず、店を出ても距離を置いて村から出るまで監視していた。
 
 
 無心で山を歩く。
 アーネシアを出て六日。
 
 いまから帰って店の中に”俺じゃないトキ”が居たらどうしよう。
 
 そんな恐怖に怯えて足が進まない。ぺたぺた顔を触ると凹凸のない日本人のそれだ。
 
 俺は城田啓介だ。
 
 「こんなのトキじゃない」 
 
 ああ。俺は気が狂って自分をトキとかいう薬師だと思い込んだ誰かなのかもしれない。
 
 城田啓介でもないのかもしれない。
 
 日本なんて国も作り物かもしれない。
 
 輪廻転生も前世の記憶も作り物で、俺は記憶を失った”この世界のだれか”なのかもしれない。
 
 
 「もう、いいや…」
 
 
 何が起きているのかひとつもわからない。だからもういい。俺は俺として死ぬまで生きたらいいんだろ。
 
 
 人間がぎゅうぎゅうに詰められた馬車に乗る。無心でアーネシアまで戻ってきた。
 
 
 深夜、飲み屋も閉まりはじめて町が静まる頃。俺は自分の家に泥棒のようにひっそり入った。
 
 恐る恐る寝床を確認すると誰もいない。ほっと冷や汗を拭う。
 
 必要な物をまとめようとしたが、ダンから貰った本を手にした瞬間、自分がまた泣いていることに気付いた。
 
 この本は”トキ”のものだ。
 
 トキがダンから貰った手書きの本。俺のじゃない。
 
 じゃあ、俺に手を振った”トキ”は誰なんだ?
 この本を貰った”トキ”は誰だったんだ?
 
 なにもわからない。
 
 そっと元の位置に戻す。
 どっと力が抜けて寝床へ横になった。
 
 今はジルドさんとの事を考える気力もない。
 
 
 そのまま深く眠った。
 
 
 
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