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はやしまさひろ

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 線路を横切る歩道橋の下を、十本のレールが横に並んで流れている。
 朝焼けの中、カラスや小鳥のハーモニーに耳を傾けながら、私はその階段をゆっくりと登っていく。
 歩道橋の上に小さな駅の改札が見えてくる。切符を購入して自動改札を通り抜ける。ホームへと降りる階段は一つしかない。一歩一歩をしっかりと踏みしめ、ゆっくり階段を降りていく。右側から、線路の上を走る電車の物音が響いてくる。階段が少し、震える。電車は数本、前からも後ろからも通り過ぎていく。その姿は、見えない。その音だけが、聞こえている。
 駅のホームには誰もいない。真っ直ぐ前に伸びたホームだけが見えている。地平線から溢れ出ている太陽の光を背に受け、歩いていく。
 細長いホームの左右には、当然だけれど、電車が走るレールが伸びている。右側には少しの間隔を開け、幾本ものレールが並んでいる。遠くの線路はまだ、僅かに震えているように見える。左側にはレールが一本だけある。
  電車の姿が見えなくなり、今はもう、静けさを取り戻している。電車は一台も走っていない。突然の騒音は、あっという間に静寂に飲み込まれていった。
 私はホームの先端に向かって歩いていく。アナウンスが、電車の到着を知らせてくれる。少し遠くから、踏切の信号音も聞こえてくる。甲高くて耳障りなリズムだ。働きの鈍い朝の頭には、もう何日も酒を飲んでもいないのに、二日酔いのようにガンガンと響いてくる。
 小さな線路が震え、微かな物音が聞こえてくる。それは徐々に大きくなっていき、今ではもう線路の上を走る電車の物音が、はっきりと背後から聞こえている。
 背中と左半身に、電車の風が当たる。ハンティング帽子が飛ばされないように、革の手袋を嵌めた左手で押さえる。左側に、電車の先頭がゆっくりと顔をのぞかせる。僕はそれを横目で捉える。黄緑の、古ぼけた電車だ。旧型の、私が子供の頃から走っている電車の生き残りだ。最近は全く見かけていなかったが、今日のために用意されたと思われる。
 電車が動きを止めるまで、私はペースを崩さないで歩き進める。電車が止まり、空気の抜ける間抜けな音と共にドアが開く。一番先頭のドアから、私は中へと乗り込んでいく。
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