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はやしまさひろ

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 両開きのドアが今、閉まろうとしている。手前にはもう一つ並んでいる長い座席がある。私にはそこから漂う雰囲気が一番気になっていた。そこには左側に一人、座席のど真ん中に座っている黒い袴姿の男がいる。長い髪の毛を馬の尻尾のように後ろで束ねている。腕を組み、少しだけ股を広げ、しっかりと足の指で床を掴むように膝を曲げて座っている。靴は履いていない。裸足の指は、実際床に吸いついているようにも見える。その足にタコの吸盤が現実のものして見えるかのようだ。
 腰には一本の刀がさしてある。いつでも鞘から抜き出せるように、計算された位置にあるように感じられる。彼は真っ直ぐに窓の外に顔を向けながら目を瞑っている。真っ直ぐに窓の外に顔を向けながら。その顔は神妙で少し神々しくもある。彼はまさにサムライそのもののようだ。
 サムライはドアが閉まる音にも反応を示さない。まるで空気のような佇まいだ。サムライからは少しの殺気も感じられない。しかしそれは、隙があるという意味ではない。一歩でもサムライの領域に足を踏み入れれば、私はきっと真っ二つになることだろう。
 そして私は入ったドアから右に足を進める。そこにはなにもない空間がある。座席のない、無とも言えるスペースだ。私はホーム側の壁に背をもたれている。窓のない、端っこに。
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