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はやしまさひろ

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 そしてまた両開きのドアがあり、長めの座席が並んでいる。左側にはまた誰もいない。右側に革のベストを着ている女がいる。ベストの内側にはナイフでも仕込んであるのだろう。ジッパーを止めずに拡げている。中には大きな胸を隠そうともしていない胸元の開いた丈の短いタンクトップを着ている。ヘソに光っているのは、ヘビをかたどったピアスのようだ。あちこちがボロボロに破けているジーンズの太ももの位置には革のベルトがあり、そこにはナイフがぶら下がっている。靴は白いスニーカー。手には指の突き出る黒い革手袋が装着されている。
 派手に化粧を施された顔が見える。真っ白な肌に、真っ赤な唇が恐ろしさを演出している。目の周りは青く塗られ、不自然にキラキラと輝いている。髪の毛は金色に染められ、テカテカとオールバックに固められている。その金色は、外国女性の金髪とはまるでものが違う。まるで絵の具のような金色だ。
 ナイフ女は座席の手前側、私に近い方の端に足を拡げて座っている。そしてじっと私を睨んでいる。その表情は、とても冷たく突き刺さる。ときおり舌を出し、真っ赤な唇を舐めまわす。両手を足の付け根でクネクネと動かし、それに合わせて腰も動かす。私を挑発しているつもりらしいが、ちっとも伝わらないのが残念だ。
 ナイフ女は、私の趣味ではない。左手にはいつの間にかナイフを握っている。身体中に隠していて何処かから取り出したようだ。そんな危険なナイフ女には近寄りたくもない。そんなもので大事なものをちょん切られるのは勘弁してほしい。
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