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はやしまさひろ

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 私の武器は洋服に仕込んである針だけだ。特注のもので、色々なサイズがある。ちょっとした仕掛けもしてある。後はそう、この身体を武器と呼ぶことも出来なくはない。私はこの日に合わせて身体の改造を試みた。見た目ではランボーにさえ程遠いが、中身は立派なものだ。私の筋肉は、飾りではない。使うことを前提に鍛えられている。私の身体は戦いを求めている。誰かを殺すことを念頭に訓練をし、鍛え上げてきた。
 登録は簡単で、役所やコンビニ、パソコン上で書類を受け取り、その書類に名前と住所、武器の名称と写真を貼って送ればいいだけだ。そうす流だけで数日後には許可証が返送されてくる。
 その許可証には武器の写真が載っていて、後は国が管理しているらしい通し番号が記されているだけだ。名前はどこにも見当たらない。つまりは誰が持っていてもいいということだ。もしも私が殺されたなら、その相手はきっと私から武器と一緒に許可証を奪っていくことだろう。それで問題なく使用が許可されるはずだから。
 私は今、二つの許可証を持っている。一つは針。もう一つはこの身体。念のためにと、登録しておいた。しかし、例え私が死んだとしてもこの武器だけは奪うことが出来ないだろう。写真に映るこの身体は、誰にも真似は出来ない。私の身体には、私だけの印がいくつも刻まれている。
 実際に私のその姿を見られるのは、私に愛された女性と家族だけだ。それ以外はまず、見ることが出来ない。私は常に、このスーツに身を包んでいる。危険な世の中だ。家以外でこのスーツを脱ぐことはあり得ない。
 特注のこのスーツを、私は糸の開発から始め、全てを自分の手で作り上げた。銃弾をも弾き飛ばす素材を探し出し、それを糸に加工し、更に強化し、軽量化をし、生地へと加工をし、革の裏地に使用している。その裏地はナイフや刀を使っても、簡単には引き裂くことが出来ない。私が行った実験では、不可能といっても過言ではない。
 裏地は二枚重ねになっている。間には銃弾などの衝撃から守るための吸収材が仕込まれている。吸収材がなければ、銃弾の衝撃で骨を折ることも考えられる。鉄の塊が高速で身体にぶつかればその衝撃は計り知れない。ただ銃弾を弾き返すだけでは意味がない。真に身体を守るための工夫が必要なんだ。吸収材には細菌や汚染された空気を濾過する力も備えている。
 表の革には柔らかい猫革を使用している。猫革には耐久性もあり頑丈で軽くて汚れも付きにくいことを発見した。それに加え裏地に使う糸を練り込ませてある。簡単には穴一つ開かないことだろう。スーツだけでなく、このハンティング帽子から手袋と靴に靴下等全てにこの素材を使っている。革の厚みは裏地を含めても一ミリにも満たない。ベルトにも四枚重ねの猫革を使用している。
 そのスーツは首元までびっしりとチャックで閉められるようになっている。今はまだ胸元で開けてはいるけれどなにかが起こればすぐに襟を立ててチャックを閉めて首を守るように作られている。ポケットには猫革のマスクも用意しているけれど、それを使うことはまずないと思われる。そして念のためにとの防塵防毒効果も検証済みだ。このサングラスの柄についている小さなボタンを押せば、こめかみや眉間を含めた顔中をガードすることが出来る。しかし今はまだそこまでの危険は感じられない。やり過ぎた格好は不細工なものだ。最悪の事態まではスマートな姿を見せたいもの。そのためにもスーツのデザインには工夫をしている。お洒落なブランド品をイメージした作りになっている。妻のデザインだ。この電車の運転手のような格好だけは、どうしたって私には似合わない。
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