30 / 34
30
しおりを挟む
本当の驚きって、言葉を失う。開いた口が塞がらないって言うだろ? あれって本当だ。二度目のケンジは別だが、俺たち四人は、揃いも揃ってその口を開き、そのままの姿で固まっていた。まるで記憶はないが、きっと瞬きも呼吸も、もしかしたなら、鼓動までもを止めていたのかも知れない。
あの人の音楽は、聴く者全てにこれまでに感じたことのない感情を呼び起こす。俺は、生きていたいって感じた。特にこれまでの人生には不満もなかったが、この先の人生には不安があった。このまま年を重ねれば、つまらない大人になるんじゃないかって予感しかない。それでいいのかって考える毎日だったんだ。
現実ってのいうは、そんことはどうでもよくて、ただ生きていればいいんだって感じたんだ。毎日を必死に、楽しく過ごすんだ。妥協なんていらない。そう感じた。
ケンジや他のみんなも、それぞれに色んなことを感じていたようだ。詳しくは聴いていないが、五人の出した答えは一緒だった。
バンドやろうぜ。
その一言に尽きるんだ。ケンジが突然言い出したときはなにを馬鹿なことをと呆れたが、あの人の音楽を聴けば、なぜだかバンドが組みたくなるんだよ。たった一人でギターを弾きながら歌っているにも関わらずにな。
ケンジは前日、俺以外にもバンドやろうぜの声をかけていた。あの人の曲を聴いた瞬間、五人での姿を想像したようだ。その想像は、俺もしている。ケイコもカナエも、ヨシオもしているんだ。
お前たちならきっと、いいバンドになるだろうな。あの人がそう言ってくれた。
あの人はその日、五曲の歌を歌ったけれど、二曲が以前からの持ち歌で、残りの三曲は半即興だった。なんとなくのイメージがあった曲を、その場で完成させた。天才っていうのは、あの人にこそ相応しい言葉だって思ったよ。
俺たち七人は、箱型の建物の裏で円陣を組むようにしゃがんで話をした。聞き屋もあの人も、俺たちと対等な目線で会話をしてくれる。外の世界で生きて行くためには、年齢なんて関係がないことを知ったよ。学校やら家庭やらテレビやらで歳上を敬えなんて教えるのは、本人たちが対等な会話を恐れているからなんだ。上から目線でも、下から目線でも、本音をぶつけることはできない。上からの奴は大抵、俺にだけは下の連中も本音を言うなんて勘違いをし、下からの奴も本気で慕ってるんですよの嘘がバレていないと思っている。まぁ、この二組がコンビを組むことが現実では多いから、特に問題はないんだがな。学校の先生やテレビを見ているとよく分かる。世間には、つまらない人間が多すぎるってな。
俺もきっと、あの人に出会えなかったら、そんな人間になっていたことだろう。あの人と聞き屋は、生まれて初めて対等な会話のできる人間だった。ケンジたちを含めた家族を除いてはな。小学生にもなれば同級生同士の間でも上下関係は生まれるんだ。早ければ保育園時代からもそんな態度を見せる奴はいるよな。俺たち五人にはそれがなかった。だからなんだよ。こういう関係になれたのは。
あの人の音楽は、聴く者全てにこれまでに感じたことのない感情を呼び起こす。俺は、生きていたいって感じた。特にこれまでの人生には不満もなかったが、この先の人生には不安があった。このまま年を重ねれば、つまらない大人になるんじゃないかって予感しかない。それでいいのかって考える毎日だったんだ。
現実ってのいうは、そんことはどうでもよくて、ただ生きていればいいんだって感じたんだ。毎日を必死に、楽しく過ごすんだ。妥協なんていらない。そう感じた。
ケンジや他のみんなも、それぞれに色んなことを感じていたようだ。詳しくは聴いていないが、五人の出した答えは一緒だった。
バンドやろうぜ。
その一言に尽きるんだ。ケンジが突然言い出したときはなにを馬鹿なことをと呆れたが、あの人の音楽を聴けば、なぜだかバンドが組みたくなるんだよ。たった一人でギターを弾きながら歌っているにも関わらずにな。
ケンジは前日、俺以外にもバンドやろうぜの声をかけていた。あの人の曲を聴いた瞬間、五人での姿を想像したようだ。その想像は、俺もしている。ケイコもカナエも、ヨシオもしているんだ。
お前たちならきっと、いいバンドになるだろうな。あの人がそう言ってくれた。
あの人はその日、五曲の歌を歌ったけれど、二曲が以前からの持ち歌で、残りの三曲は半即興だった。なんとなくのイメージがあった曲を、その場で完成させた。天才っていうのは、あの人にこそ相応しい言葉だって思ったよ。
俺たち七人は、箱型の建物の裏で円陣を組むようにしゃがんで話をした。聞き屋もあの人も、俺たちと対等な目線で会話をしてくれる。外の世界で生きて行くためには、年齢なんて関係がないことを知ったよ。学校やら家庭やらテレビやらで歳上を敬えなんて教えるのは、本人たちが対等な会話を恐れているからなんだ。上から目線でも、下から目線でも、本音をぶつけることはできない。上からの奴は大抵、俺にだけは下の連中も本音を言うなんて勘違いをし、下からの奴も本気で慕ってるんですよの嘘がバレていないと思っている。まぁ、この二組がコンビを組むことが現実では多いから、特に問題はないんだがな。学校の先生やテレビを見ているとよく分かる。世間には、つまらない人間が多すぎるってな。
俺もきっと、あの人に出会えなかったら、そんな人間になっていたことだろう。あの人と聞き屋は、生まれて初めて対等な会話のできる人間だった。ケンジたちを含めた家族を除いてはな。小学生にもなれば同級生同士の間でも上下関係は生まれるんだ。早ければ保育園時代からもそんな態度を見せる奴はいるよな。俺たち五人にはそれがなかった。だからなんだよ。こういう関係になれたのは。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる