ポップンロール

はやしまさひろ

文字の大きさ
31 / 34

31

しおりを挟む
 俺もさ、いつかはバンドを組みたいんだ。一人で歌うのは楽しいけれどさ、やっぱり音楽は大勢で楽しむもんだよな。あの人の言葉だ。まだ正式にはバンドを組んでいなかった俺たちを羨ましいとも言っていた。
 ふん、なにを言ってんだよ。お前と一緒にバンドを組める奴なんて、そうはいないだろうよ。はっきり言うけどさ、この国で探すのは難しいな。この世界でも難しそうだけどな。いっそ宇宙人とでもバンドを組むか? それが無理なら未来人とだな。
 聞き屋の言葉にみんなが笑ったが、その通りかもなってみんなが感じてもいたよ。
 あの人の音楽からは、不思議と仲間を感じられる。一人じゃないって言う意味じゃなく、背後からはドラムの音もベースの音も聴こえるんだ。曲によってはピアノやストリングスの音までが聴こえてくる。意味は分からないし、実際にはそんな音なんて鳴ってもいない。けれど確かに聴こえてくる。それがあの人の音楽なんだよ。
 聞き屋の演奏も、最高だったよ。正直言って、桜木町の二人組にも負けていない。けれど聞き屋は、聞き屋でいるのが似合っている。
 その日はサラリーマンマンが酔っ払って帰宅をする頃までそこにいた。話をしたり、聞き屋の歌を聴いたりするのがメインだった。あの人は、最初に歌ったきりギターさえ触らなかったよ。どうしてなのかはよく分かる。聞き屋が歌っても、立ち止まってまで聴く人はまばらだが、あの人が歌い出すと、その音楽が届く範囲の全ての人が立ち止まってしまうんだよ。当時からあの人の影響力は、世界規模だったってわけだ。なんせ露天商のイラン人までもが聴き耳を立てるんだからな。
 俺は次の日からバイトを始めた。ケイコは陸上部に正式に入部をした。カナエは読書部内に作詞課を創設した。ヨシオは放送部の部長になった。ケンジは毎日、聞き屋の元に顔を出していた。
 俺たちの行動はバラバラだったけれど、目的は一つだった。バンドを組み、ライヴをする。そして世界中に音楽を届けることだ。
 バンド名は決まっていた。ポップンロール。意味なんて誰かがきっと後からつけてくれる。ケンジがそう言って名付けたんだ。
 俺は単純にポップなロックンロールだと感じた。ケイコはホイップいっぱいのロールケーキのような甘さを感じた。カナエはバネのように弾けたいなと言った。ヨシオは、ポップコーンって美味しいし、作るのも楽しいよねと言ったよ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

月弥総合病院

僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

光のもとで2

葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、 新たな気持ちで新学期を迎える。 好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。 少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。 それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。 この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。 何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい―― (10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...