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【1】何気ない朝

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 生まれてから様々な経験をしてきた人生であった。そんな中でも特に7歳の頃の記憶は忘れない……。今思えば、その時の経験が人生の分岐点だったのかもしれない……。

――――――
――――
――

 部屋に近づいてくる足音で目を覚ました。その足音は部屋の前止まり、ガチャっと音を立ててドアが開かれると、1人の女性が部屋の中に入ってきた。

「あら、シェイド。もう起きてたのね」

 微笑むその女性は、俺の母親であるマーシャ・シュヴァイス。ロングのオレンジ髪とオレンジの瞳を持つ優しそうな女性であるが、怒るととんでもなく怖い。

「うん」

 寝起きということもあり頭が上手く働いていないが、目を擦りながらベッドから降りて大きく伸びをする。

「もう、ご飯ができているから」

「……はーい」

 もう少し寝ていたいという衝動を抑えながら、部屋から出ていく母さんの後を追ってリビングへと向かうと、男性が新聞を読みながら椅子に座っていた。

 こちらに気が付いた男性は新聞から顔を上げて俺の方を見て優しく笑う。

「おはよう、シェイド」

 そう言った男性は、俺の父親であるゼレト・シュヴァイス。短く切りそろえられた青髪と青い瞳を持つ筋骨隆々きんこつりゅうりゅうの男性であり、暇さえあれば剣を振っている。

「おはよう、とうさん」

 朝の挨拶をしつつ椅子に座り、母さんの言葉と共に食事を始める。机の上に置かれた黄色い宝石のような卵料理と外はサクっと中はモチっとしている暖かい丸パンを味わう。

「今日もおいしいよ」

 父さんの言葉をはいはいと適当にあしらう母さんであったが、その顔は何処か嬉しそうに口元が緩んでいた。このやり取りを見ていると、あぁ、1日が始まったなぁと感じる。この後何をする予定なのか、今日の夕食は何がいいかなど何でもないような会話をしつつ朝食を食べる。

 朝食を食べ終えると父さんは仕事に向かい、母さんは食器を洗い始めたため、俺は自分の部屋に戻った。

 部屋に戻った俺は、手鏡で自分の顔を覗く。すると、そこには少しだけ目にかかるほどの長さの少し白みがかった黒髪と右目を覆いかぶせるように装着されている眼帯が見える。

「なんなんだろうなぁ……これ……」

 俺の左目は空のような淡い青色の瞳をしているんだが、右目の宝石のように真っ赤な瞳は眼帯に覆われて隠されていた。

 以前、物心ついたときからずっと眼帯をしていることに疑問を抱いた俺は、この目のことを両親に聞いてみた。その時に教えてもらったことは、左右の瞳の色が異なる、所謂いわゆるオッドアイは世間では忌避きひされる存在らしい。だから、基本的に眼帯を外さないようにと言われた。

 そんなことを言われたもんだから、その時両親に言えなかったことがある。それは、左目で見える世界と右目で見える世界が違うということであった。右目で世界を見ようとすると、人や物にモヤモヤとしたものが見える。近くで見ても遠くで見ても、そのモヤモヤとしたものは消えることは無かった。

「おーい、シェイド」

 突然声を掛けられたことに驚きつつも、慌てて眼帯を戻して声のした方を見る。するとそこには、男の子が窓を開けてこちらの方に身を乗り出しているのが見えた。

「はやくあそぼうぜ!!」

 ニカっと笑いながらそう言う男の子は、幼馴染のガレント・ソーディウス。短く切りそろえられた赤髪、黒色の瞳を持つ元気すぎる奴だ。

「すぐにいくよ」

「さきにいってるぜ!!」

 そう言うと、ガレントは窓から離れてピューっと走っていってしまった。

「はぁ……。まっててくれてもいいじゃん……」

 そんなことをぼやきつつも急いで着替えると、母さんに出かけることを伝えてガレントが向かったであろう場所へと駆け足で向かう。

 いつもの集合場所に近づくとガレントの他に2人の女の子がいた。

「もう!!おそーい!!」

 顔をプクっと膨らませている女の子は、幼馴染のレシリア・クランスタ。肩ほどの長さに整えられた金髪、オレンジ色の瞳を持つ綺麗な女の子だ。

「きょうはシェイドがドベだね!!」

 このニカっと笑う元気な女の子は、幼馴染のスレイア・シュルディ。俺と同じぐらいでくせっ毛が特徴的な赤髪、ブラウンの瞳を持つ元気な女の子だ。

「ごめんごめん」

 謝りながら3人の輪に入ると、よーし!!とガレントが立ち上がる。

「それじゃあ、しゅっぱつ!!」

 来て早々だな……と思いつつも、ガレントが歩き出したため、後ろを着いていく。村の中は既に探索しつくしたため、最近は危なくない範囲で適当に村の周辺をウロウロと探索するのがトレンドであった。

「きょうはどこにいくの?」

 目的も告げずにズンズンと歩いていくガレントに尋ねてみると、ピタッと足を止めて振り返ったかと思うと、こちらに近づいてきて3人の顔をそばに寄せた。

「きょうは……もりにいく」

「はぁ!?もり!?」

 レシリアのあまりもの声の大きさに耳がキーンとした。

「ばか!!こえがでかいって」

 ガレントは慌ててレシリアの口を抑えるも、腕を振り払ってレシリアはガレントに詰め寄った。

「もりにはちかづいたらいけないっていわれてたでしょ!?」

 確かに森には魔物が出るから近づいたらダメだって口酸っぱく言われ続けてきたため、森の周辺に近づいたことがなかった。

「ちょっとだけだから、だいじょうぶだって」

「大きくなるまで、はいっちゃいけないっていわれたでしょ!?」

 どうしても行きたいガレントとどうしても行きたくないレシリアの口論が続いていたが、

「うちもいってみたいんだよねぇ……」

 スレイアの言葉によって形勢はガレントの優勢になった。

「スレイアまで……。シェイドはどうなの!?」

 レシリアは行きたくないって言って欲しそうな目をしているが……。

「おれもいってみたいかなぁ……」

 申し訳なさそうにそう答えると、レシリアはガックリと肩を落とし、ガレントはガッツポーズをした。

「よっしゃ!!3たい1でいくことけっていだな!!」

 ガレントは意気揚々と森に向かって歩いていく。

「あぁ、もう!!しかたないわね!!」

 俺とスレイアはレシリアをなだめながらガレントの後を付いていくことにした。

 大人に見つからないように村を抜けて、何とか森の前までたどり着いた。風と共に揺れる木々が目の前に広がり、どこから聞こえてくるのか分からない生き物の鳴き声が森の中で響いていた。

「ねぇ……ほんとうにいくの……?」

 レシリアはスレイアの腕にしがみつきながら、ガレントに聞いてみるも、

「も、もちろんだろ!!」

 言い出しっぺのガレントも森の異様な雰囲気に恐怖を覚えているのか、顔は引きつっており少し声が震えていた。そんな3人の様子を見て、

(そんなに怖いかなぁ……?)

 と俺自身はそんなことを考えていたのだが、3人が怖がっているため口を挟むのも雰囲気を壊しちゃうなと思って黙っていることにした。そんな中、ガレントは意を決したように息を大きく吐いた。

「よ、よし!!いくぞ!!」

 ガレントが森の中へと歩き出したため、俺達も後を付いていくことにした。
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