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【7】幼馴染にばれる

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 キットランとガレントが殴り合いを開始したと同時に、キットランの仲間達が加勢してきたため俺達もガレントに加勢する。キットラン達の誰を殴っているのか分からないほど入り乱れた殴り合いで、無我夢中で殴り続けた。

 相手の中の誰か1人を殴りつけた拍子に、相手も俺もバランスを崩して集団の輪から転がり出た。勢いよく転がりながらもくらくらする頭を振って顔を上げると、殴りつけた相手はキットランで顔を真っ赤にしてこちらを睨んでいる。

「お前か……」

 先程までの乱戦とは異なり、集団の輪から外れてタイマンという形になったことで、先ほどまでと異なり落ち着いて周りが見えた。

(何かあの時と似ているなぁ……)

 ゆっくり深呼吸をしつつ、両手を上げて構える。

 キットランは真っすぐこちらに向かって突進してくる。自分よりも圧倒的にリーチが長くて体格も良い相手とまともに戦っても勝てるわけが無いため、ひたすら攻撃をかわしていく。

「おいおい力だけじゃなくて、頭まで馬鹿になってんじゃないのか?」

 キットランを挑発しながらも1発でもまともに食らえば致命的なダメージになるため、ひたすら攻撃を必死に避けていると、キットランの動きが鈍くなっていくのが分かった。そして、キットランはついに肩で息をしながらその場で立ち止まった。

(そろそろだな……)

「はぁ……はぁ……。おい!!やっぱり馬鹿力ってのは……、馬鹿と力って意味だったんだな!!お前にお似合いだよ!!」

 大声で相手を煽りながら手をクイクイと動かして挑発すると、激高げきこうしたキットランは突進しながら殴り掛かってきた。突き出された拳を後ろや横に避けるのではなく、あえて前に進んでこぶしかわしつつキットランの懐に入った。

「!?」

 重心を低くして、憎たらしいキットランの顔に狙いを定める。

「くたばれやぁぁぁ!!」

 キットランのあご目掛けてジャンプしながら勢いよく拳を振り上げると、骨と骨のぶつかる鈍い音と共にキットランはのけり、バランスを崩して後ろに倒れた。

「はぁ……はぁ……」

 キットランが立ち上がらないのを確認して、ドカッと地面に座り込んだ。

(いってぇぇぇ……!!)

 キットランが倒れたことで気が抜けたのか、殴られた痛みと動き回った疲れが一気に全身を襲う。肩で息をしながらガレント達の方を見ると、全員こちらの戦いの行方を見守っていたらしく、キットランの仲間はキットランの元へと駆け寄っていく。

「覚えてやがれ!!」

 という捨て台詞を吐きながら気絶したキットランを引きずってキットランの仲間たちは逃げていった。

(はは、そんなセリフを言いながら逃げる奴って小説以外にもいるんだなぁ……)

 そんなことを考えていると、ガレント達も駆け寄ってきた。

「やったな!!シェイド!!」

「あぁ」

 ガレントの突き出してきた拳に拳を合わせて笑う。お互いにあざだらけで、鼻や口には血がにじんでいる。

「すごかったよ!!」

「うっ!!」

 スレイアが勢いよく抱き着いてくると、体中に痛みが走ったが何とか支える。スレイアにも痣ができており、大丈夫かな……と思いながら見ていると、

「こっち向いて!!」

 急に頬を両手で挟まれ無理やり前を向かされたと思うと、レシリアが俺の顔を覗き込んできた。

「まったく……こんなに怪我をして……」

 レシリアは手に持っている濡れたハンカチで俺の顔を拭いていく。

「ちょ、ちょっと」

「いいから!!黙って拭かれなさい!!」

 少々力強引な拭き方ではあったが、なされるがままに拭かれていると、先ほどまでのベタベタとした感覚が無くなっていき、濡れた頬をかすめる風が気持ちよかった。

「後……」

 ボーっと頬をかすめる風を感じていたため、レシリアが眼帯に手をかけたことに気が付くのが遅れた。

「待って!!」

 慌てて止めようとしたのもむなしく、顔を動かした拍子に眼帯がずれてしまい、今まで家族以外には隠されていた右目があらわになってしまう。

「え……」

 レシリアは俺の右目を見て固まってしまった。慌ててレシリアの手を払いのけて眼帯を元に戻すも、俺とレシリアの間には微妙な空気が流れる。

「どうした?」

「2人ともどうしたの?」

 ガレントとスレイアは不思議そうにこちらを見てくるも、俺もレシリアも何も言えないでいた。4人の間にはしばらくの沈黙が続いたが、

(いつまでも隠せるわけないか……)

 ちょうどいい機会かもしれないと思い、俺は眼帯をずらして右目をガレントとスレイアに見せると、2人とも目を見開いて言葉を失っていた。

「今まで、右目が見えないから眼帯をしているって言ってたけど、本当は見えてるんだ……」

 3人は俺の言葉に対して何か言う訳でもなく、ただただ聞いている。

「眼帯で隠していたのは、オッドアイだからなんだ」

 おとぎ話や小説ですら不吉な存在や悪者の象徴として出てくるほど、オッドアイという存在はうとまれている。だから、できれば3人には知られたくなかった。

「騙すつもりはなかったんだ……。だけど、3人に嫌われるのが怖くて秘密にしていたんだ……ごめん……」

 3人がどんな顔をしているのかを見るのが怖くて、下げた頭を上げることができずにいた。

「シェイド……」

 どんな言葉が発されるのかが恐ろしくて、ギュッと目をつぶって3人の言葉を待っていると、

「「「よ、良かったぁぁぁ」」」

「なんだ、そんなことだったのか……」

「心配したよ~」

「安心したぁ……」

 3人の声色は予想していた物よりもずっと暖かく、どこか安堵が含まれており、思わず顔を上げる。

「怒ってないの?怖くないの?」

 3人に尋ねてみるも、

「いやー、オッドアイなのはびっくりしたけど、別にオッドアイだからってシェイドは良い奴だからな!!」

「そうそう!!オッドアイだろうと、シェイドはシェイドだしね!!」

 ガレントとスレイアはニカっと笑う。

「でも、3人ともこの目を見たときに顔が引きつっていただろ?」

 その言葉を聞いた3人はキョトンとした様子であったが、レシリアは、あぁ、と呟くと腰に手を置いて、

「何言ってるのよ。確かに顔が引きつっていたかもしれないけど、それは、殴られて目の色が変わっちゃったんじゃないかと思ったからよ」

 どこか呆れたようにそう言う。

 拒絶されるものだと思っていたのに、返ってきた反応は思いもよらないものであった。

「皆……ありがとう……」

 気が抜けると、何故かポロポロと涙が出てくる。

「おいおい!!泣くなよ!!」

 3人は俺の涙にアタフタして励ましの言葉を掛けてくれていたのだが、いつの間にか励ましの言葉は俺の良い所の言い合いになっていた。3人の口から発せられる言葉の恥ずかしさのあまり、いつの間にか涙も引っ込んでしまっていた。

 しばらくすると、気分も落ち着き、日も暮れてきて流石に疲れたということもありその日はそこで解散となった。すぐに家に帰ったのだが、汚れた服と痣を見て母さんが心配そうに駆け寄ってきたため、事情を説明したらとんでもないほど怒られた。
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