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【21】トリアに向かうとすると

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 森から出た俺達はトリアに向かうために街道に戻ろうと、デリングに戻っていた。

「エリンはナイフと弓使ってみて、どっちがしっくりきた?」

 人によって適性のある武器が違う。適性の無い武器を練習することは無駄ではないが、スキルを習得するうえでそれが何よりも適性が重要なのだ。俺自身、槍や弓など様々な武器の練習をやらされたが、結局剣が一番しっくりきた。そのため、初めての武器はエリンが使いやすいと感じたほうを重点的に練習してほしかった。

「うーん……」

 エリンは右手にナイフ、左手に弓を握りつつ、両方を交互に見ながらうーんうーん唸っていた。

 ここまで悩むなんて珍しいな。もしかして、もう少し使う時間をあげたほうが良かったかもな。……いや、もしかして。

「もしかして、どっちともしっくりこなかった?」

「うーん。分からない……」

「分からない? ということは……」

 エリンに特性がある武器は、剣? 槍? それとも……。

「恐らくラベオンが考えていることとは違うかと」

 そう言うとアリシアは俺に剣を貸すように言ってきたため渡すと、その剣をそのままエリンに渡した。

「エリン。振ってみてください」

「うん。分かった」

 エリンは剣を構えて振り下ろした。綺麗な軌道とは言えないが、一応は振れてはいる。ただ、エリンは首をかしげながら不思議そうにしている。

「エリン、どうでしたか?」

「何か……。変?」

「どんなふうに変でしたか?」

「うーん……。上手く振れない……?」

 あぁ、そういうことだったんだ。

 エリンの言葉でアリシアが言っていることが理解できた。エリンはナイフと弓、両方の適性があるようだ。

「すごいなエリン。ナイフと弓の適性があるなんて」

 褒めてみるも、エリンは俺の言っていることが良く理解できていないようだ。

「私すごい?」

「うん。とってもすごいことだよ」

 エリンの頭を撫でると、気持ちよさそうに目を細めている。新しい妹ができたみたいだ。

 エリンにナイフや弓を教えるにはどうしたらいいか、どちらの武器を重点的に練習するべきかなどを話しているうちにデリングの入り口にたどり着いた。そして、道沿いにトリアに向かうことにした。

「ですから、エリンにはナイフをメインに……」

「だから、エリンを暗殺者にしたいだけだろそれは、エリンの気持ちを考えて……」

 アリシアと言い争いをしていると、

「お待ちください!!」

 呼び止められたため振り返る。すると、デリングから誰かがこちらに向かって駆け寄ってくるのが見える。

「あれは、ベリック……、じゃなくてベルセナか」

 こちらに駆け寄ってきたベルセナは俺達の前で立ち止まると、膝に手を付いて肩で息をしながら呼吸を整えている。

「ラベオン様!!」

 呼吸を整え終えたベルセナは背筋を伸ばして俺の前に立つ。

「何度も申し訳ありません!! 僕をどうにか仲間に加えていただけないでしょうか!?」

 真っすぐ俺の目を見てくるベルセナの瞳には確固たる決意を感じる。

「前に断ったはずだが、どうしてそんなに仲間になりたいんだ?」

「それは……」

 ベルセナはもごもごしており、やはりどうしても理由は話したくないようだ。話したくないのであれば、あまり追求したくはないが、ただでさえ王国の騎士が俺をさがしているというのに、目的も分からない貴族を一緒に連れていくわけにはいかない。

「理由を話せないのであれば、仲間にすることはできない」

 ベルセナを置いてトリアに向かおうとすると、

「ラベオン様!!」

 再び声をかけられたため、ベルセナの方を見る。

 話す気になったのかな?

 一応、それなりの理由があるのであれば、一緒に付いてくるのを許可しようかなとは考えていたのだが、果たして話してくれるのかどうか。

「ラベオン様は、どちらに向かうのですか?」

「それは……、トリアだが。それがどうかしたのか?」

 思わぬ質問に少し拍子抜けしたが、正直に答えるとベルセナはパンと手を叩いた。

「それは偶然ですね!! 僕もちょうどトリアに向かおうとしていたんですよ!!」

 白々しい演技に呆れつつ、どうしても理由を話したくは無いんだなとどこかがっかりした。

「そうだったのだな。それじゃあ、ここでお別れだな。俺達はここで少し休憩してから行くから」

「え、それは……」

「ベルセナは街から来たし、疲れていないだろ? トリアでまた会えるといいな」

「うぅ……」

 ベルセナはこの場に留まる良い理由が思い浮かばなかったのか、名残惜しそうに何度もこちらをチラチラ見ながらトリアの方向に歩いて行く。その姿を見送ると、次第にベルセナは見えなくなった。

「冷たいお方ですね。ラベオンは」

「おいおい。仕方ないだろ。何が目的で俺達に付いてくるのか分からないんだから」

「ラベオン。ひどい……」

「エリンまで俺を悪者にするのかよぉ……。ただでさえ父上が俺のことを探しているんだから、目的も分からない貴族とは一緒にいられないよ」

 嘘でもついて俺達に付いて来ようとするのかなと思っていたが、そんなことはしないで黙っているだけだった。どうやら父上のやエリンがいた村の追っ手という線は無さそうだ。

「まぁ、冗談はこのあたりにして、アリシアはベルセナのことどう思った?」

「そうですねぇ。不思議な人だとは思いました。貴族らしからぬというか、ウェンズナー家にしては真っすぐな人というか」

「アリシアはウェンズナー家のことを知っているの?」

「もちろんです。ですが、そこまで詳しくはないのでお教えするようなことはありませんね。それに、ラベオンが知らなくても仕方ありません。それほど大きな貴族家ではありませんので」

「なるほどねぇ。それじゃあ、エリンはどう思った?」

 尋ねてみると、エリンはうーんと頭を傾けた後、ゆっくりと口を開いた。

「……いい人?」

「はは、そっか。確かに悪い人ではなさそうだよね」

 見栄の世界と言ってもいい貴族の世界で、ベルセナは珍しい人間だった。俺が王族だということを抜いても、アリシアやエリンに対しても尊大に接するわけではなく、どちらかというと普通に接しており、身分が下の者に対して見下したような態度を表に出す貴族は少なくない。それに、その者達と同じ席で食事を取るということを嫌がらないというのは貴族にしてはかなり珍しい。

 まぁ、俺が言えた話じゃないないか。

 そんなことを考えつつも、貴族の女子がこんなところで冒険者をしていることの方が気になった。家出をした男子貴族の話は何度か聞いたことがあったが、女子の話は聞いたことがあっても数日かそこらで家に戻るというものであった。

 代わっている貴族だなぁと思いつつ、立ち上がって尻に付いた砂を払う。

「そろそろ行こうか」

 ベルセナが去ってから、十分に時間が取れたためトリアに向かうことにした。
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