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第五話
事故物件(1)
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私の住んでいるアパートは、いわゆる事故物件というヤツだ。
聞くと1ヶ月前に、21歳だった大学生の男性が練炭自殺をしたらしい。
私はあまりそういうのを信じないし、寧ろ家賃が安くなるなら有難い、くらいの気持ちで入居を決めた。
不動産屋の担当者には、変な女だと思われただろう。
引っ越して一週間ほど経ったある夜、いつものように風呂に浸かりながらぼんやりしていると、なんだか視線というか気配を感じた。
"のぞき?"
そう思いながら浴室内を見回す。別におかしな事もない。
まさか、ここで死んだ男の霊?だとしたらそれもまた覗き魔でもあるな…そんな事を思い、とりあえず天井に向かって
「何見てるよの!」と怒鳴ってみた。
すると天井あたりから「ご、ごめんなさい」と、声がした。
え、マジ?幽霊なの?ちょっと、え?
動揺はしたが、どうにも情けない反応だったから問いただしてみた。幽霊と話せる機会なんてそうそうない。
「あなた、ここで自殺した人?」
「あ、はい、すいません」
「人の入浴シーンを覗いたりして、どういうつもりよ。」
「え、あ、いや、覗くというか、ここから動けないんです。」
そういえば浴室で練炭焚いて死んだって聞いたな。
「自殺すると、そこから動けないの?そういう決まりなの?」
「決まりと言うか、どうやらそんなシステムというか、なんなんでしょう?よくわからないけど、ここから出られないんです。」
「…という事はさ、あなたここで毎日私の入浴シーンを見てたって事?」
「え、えぇ、まぁ…申し訳ないなぁとは思ってましたが…」
これは困った…私はお風呂に入りながらオナニーをする。毎日ではないが、3日に一度は必ず。ここに越してからも、もう3回してる。
「じゃあさ、私がここでしてる事も、みんな見てたって事…」
「…ごめんなさい…」
今更謝られても仕方ないし、向こうもある意味不可抗力だ。
「あのさ…幽霊でも裸とか見ると興奮するの?」
「あ、はい…します。しますけど、肉体という実体がないというか、なんか、こう、空気に溶け込んでるような存在なので、それを見て何かするとかは出来ないんです。」
「何かするって、センズリとか?」
「…ストレートですね…」
「そうなんだ…という事は、私に触ったりする事も出来ないの?」
「そうですね。ぶっちゃけて言えば、限りなく近づく事は出来ても、触る事は出来ないです。空気みたいなもんなので。」
「なるほど…じゃあ貴方に無理やり犯されるような危険性はないって事ね」
「い、いや、もし出来てもそんな事しませんよ!」
「可能性の問題よ、可能性の問題。それじゃ安心して聞くけど、貴方から見て、私ってどう?やりたい?」
今日もオナニーをしようと思っていたので、何となくそんな事を聞きたくなった。
「もちろんです。もし実体化出来れば、ですが…でも僕…」
「あれ?ひょっとして童貞クン?童貞で死んじゃったら、一生童貞じゃないのよ!」
「まぁ一生はすでに終わってるんで…でもそうですね。」
「ねぇ、なんで自殺なんかしたの?言いたくなかったら別にいいけど、教えてよ。」
彼は訥々と語り始めた。田舎から大学進学で都内に出てきて3年、勉強も私生活も何もかも上手くいかず、落ち込んでたところに友人に騙されて手を出した情報商材ビジネスで借金まで抱えてしまい、途方に暮れてたところに、人知れず想いを寄せていたバイト先の女の子が店長の愛人だったと知り、もう何もかも嫌になったと。
「ふぅ~ん…大変だったねぇ…」
「すいません、つまらない話をしちゃって」
「じゃああんた、女の身体とかあんまり見たことないの?」
「ないです。子供の頃にオフクロと風呂入ったくらいです。あとはスマホで動画とか。」
「そっか…あのさ、見せてやろっか?」
「え、何をっすか?」
「おま○こ」
「い、あ、いいんすか?」
「てかさ、もう見てるんでしょ?」
「いや、いつも申し訳なくてあまり見ないようにしてたんで、詳しくは…」
「死んでまで遠慮しなくてよくない?いいよ、見せたげる。」
私は洗い場に座り、片足を湯船のヘリに上げて足を開いた。
「見える?」
「はい、見えます…すごい、綺麗です。」
「童貞のくせに綺麗かどうかなんて分かるのかよw」
「あ、動画とかでは何度も見てますから」
綺麗と言われると童貞でも幽霊でも嬉しいものだ。そしてこの、見られているという感覚に段々私は興奮してきた。
「いい?よく見て。私はここが感じるの。ここをこうやって、いつも擦ってるの、知ってるでしょ?」
「はい…クリ派なんですよね」
「知ってんのかよ…まぁいいわ、その通り。クリが感じるの…」
そう言いながら私はオナニーを始めた。すると彼の声にも変化が出てきた。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
「どうしたの?興奮してるの?」
「はい…すごいです…」
「もっと見て…私のやらしいところ、見て」
「すごい…はぁ、はぁ…あ…い、イク!」
どうやらイッたらしい。てか、イクの?
「あなた、オナニーできないんじゃないの?なによ、イクって。」
「出来ないんですけど、精神的にというか、なんか無いはずの脳内で射精する感覚はあるんです…大丈夫です、実体化したモノは何も出ませんから。」
「そうなんだ…私はあなたの"イクっ!"にビックリして素に戻っちゃったわよ」
「…すいません…」
「でも良かったわ。童貞くんが気持ちよくなれて。」
その後しばらく彼と雑談をした。お互いの事も話した。彼の事も何となく知れたし、霊という存在の事も何となく、うすらぼんやり分かってきた。少なくとも私に危害を加える存在ではない、という事だけは確信できた。
「ところでさ…あなたはこのまま永遠に、この風呂場から出られないの?」
「いや、なんか聞くところによると、死んでから概ね75日くらいで、霊は昇華するというか溶融するというか…」
「あんた理系?」
「…ゼミでは合金作ってました…」
「…やっぱり…もうちょい分かりやすく説明して。私文系だから。」
「すいません。つまりあと1ヶ月ちょいで、僕の霊、まぁ今ではこれが僕の全てですが、それは消えちゃう、って事らしいです。」
「そうなんだ…消えちゃうんだ…てかさ、そういうの、何処で知るの?」
「死んでこうやって霊になると、なんかこっちのネットワークみたいなのに接続されて、そういう情報が勝手に飛び込んでくるんです。いつのまにか知ってた、みたいな。」
「へぇ~…。で、消えちゃったあなたは、どうなるの?」
「消える、ってくらいだから、消えるんじゃないですか?」
「そうか…消えちゃうんだもんね…」
「そうっすね。」
「…そうっすね、って…寂しくないの?」
「ん~、なんか、こんなこと言うのもアレですけど、そもそも自殺した時にこの世にバイバイしてたわけで、未練みたいなのはなかったし、せいせいしてる感じです。ただ、あなたとこうやって仲良くなれたのは霊にならなきゃ出来なかっただろうし、それが終わるのは寂しいけど、でもあなたはきっと僕のことを覚えてくれていると思うので、あんまり寂しくないですね。」
昔、とある人が言ってた"本当の死とは、人から忘れ去られる事だ"という言葉を、ふいに思い出した。
「多分あんたの事は死ぬまで忘れないよ。私がオナニー見せた霊なんて、あんただけだし。それよりもさ…」
私は湯船から出て洗い場でさっきのように足を広げて彼に言った。
「さっきイキはぐっちゃったから、もう一度オナニーするね。だからちゃんと見て、あんたの脳内だか何だかで私を犯して。」
私は霊に視姦されながら、オナニーを始めた。いつもより興奮した。いつもより身体が震え、いつもより痙攣した。
彼が消えるまでの1ヶ月と少し、彼に言葉責めを教えてみようか…童貞くんにはちょっと荷が重いかも知れないけど。
聞くと1ヶ月前に、21歳だった大学生の男性が練炭自殺をしたらしい。
私はあまりそういうのを信じないし、寧ろ家賃が安くなるなら有難い、くらいの気持ちで入居を決めた。
不動産屋の担当者には、変な女だと思われただろう。
引っ越して一週間ほど経ったある夜、いつものように風呂に浸かりながらぼんやりしていると、なんだか視線というか気配を感じた。
"のぞき?"
そう思いながら浴室内を見回す。別におかしな事もない。
まさか、ここで死んだ男の霊?だとしたらそれもまた覗き魔でもあるな…そんな事を思い、とりあえず天井に向かって
「何見てるよの!」と怒鳴ってみた。
すると天井あたりから「ご、ごめんなさい」と、声がした。
え、マジ?幽霊なの?ちょっと、え?
動揺はしたが、どうにも情けない反応だったから問いただしてみた。幽霊と話せる機会なんてそうそうない。
「あなた、ここで自殺した人?」
「あ、はい、すいません」
「人の入浴シーンを覗いたりして、どういうつもりよ。」
「え、あ、いや、覗くというか、ここから動けないんです。」
そういえば浴室で練炭焚いて死んだって聞いたな。
「自殺すると、そこから動けないの?そういう決まりなの?」
「決まりと言うか、どうやらそんなシステムというか、なんなんでしょう?よくわからないけど、ここから出られないんです。」
「…という事はさ、あなたここで毎日私の入浴シーンを見てたって事?」
「え、えぇ、まぁ…申し訳ないなぁとは思ってましたが…」
これは困った…私はお風呂に入りながらオナニーをする。毎日ではないが、3日に一度は必ず。ここに越してからも、もう3回してる。
「じゃあさ、私がここでしてる事も、みんな見てたって事…」
「…ごめんなさい…」
今更謝られても仕方ないし、向こうもある意味不可抗力だ。
「あのさ…幽霊でも裸とか見ると興奮するの?」
「あ、はい…します。しますけど、肉体という実体がないというか、なんか、こう、空気に溶け込んでるような存在なので、それを見て何かするとかは出来ないんです。」
「何かするって、センズリとか?」
「…ストレートですね…」
「そうなんだ…という事は、私に触ったりする事も出来ないの?」
「そうですね。ぶっちゃけて言えば、限りなく近づく事は出来ても、触る事は出来ないです。空気みたいなもんなので。」
「なるほど…じゃあ貴方に無理やり犯されるような危険性はないって事ね」
「い、いや、もし出来てもそんな事しませんよ!」
「可能性の問題よ、可能性の問題。それじゃ安心して聞くけど、貴方から見て、私ってどう?やりたい?」
今日もオナニーをしようと思っていたので、何となくそんな事を聞きたくなった。
「もちろんです。もし実体化出来れば、ですが…でも僕…」
「あれ?ひょっとして童貞クン?童貞で死んじゃったら、一生童貞じゃないのよ!」
「まぁ一生はすでに終わってるんで…でもそうですね。」
「ねぇ、なんで自殺なんかしたの?言いたくなかったら別にいいけど、教えてよ。」
彼は訥々と語り始めた。田舎から大学進学で都内に出てきて3年、勉強も私生活も何もかも上手くいかず、落ち込んでたところに友人に騙されて手を出した情報商材ビジネスで借金まで抱えてしまい、途方に暮れてたところに、人知れず想いを寄せていたバイト先の女の子が店長の愛人だったと知り、もう何もかも嫌になったと。
「ふぅ~ん…大変だったねぇ…」
「すいません、つまらない話をしちゃって」
「じゃああんた、女の身体とかあんまり見たことないの?」
「ないです。子供の頃にオフクロと風呂入ったくらいです。あとはスマホで動画とか。」
「そっか…あのさ、見せてやろっか?」
「え、何をっすか?」
「おま○こ」
「い、あ、いいんすか?」
「てかさ、もう見てるんでしょ?」
「いや、いつも申し訳なくてあまり見ないようにしてたんで、詳しくは…」
「死んでまで遠慮しなくてよくない?いいよ、見せたげる。」
私は洗い場に座り、片足を湯船のヘリに上げて足を開いた。
「見える?」
「はい、見えます…すごい、綺麗です。」
「童貞のくせに綺麗かどうかなんて分かるのかよw」
「あ、動画とかでは何度も見てますから」
綺麗と言われると童貞でも幽霊でも嬉しいものだ。そしてこの、見られているという感覚に段々私は興奮してきた。
「いい?よく見て。私はここが感じるの。ここをこうやって、いつも擦ってるの、知ってるでしょ?」
「はい…クリ派なんですよね」
「知ってんのかよ…まぁいいわ、その通り。クリが感じるの…」
そう言いながら私はオナニーを始めた。すると彼の声にも変化が出てきた。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
「どうしたの?興奮してるの?」
「はい…すごいです…」
「もっと見て…私のやらしいところ、見て」
「すごい…はぁ、はぁ…あ…い、イク!」
どうやらイッたらしい。てか、イクの?
「あなた、オナニーできないんじゃないの?なによ、イクって。」
「出来ないんですけど、精神的にというか、なんか無いはずの脳内で射精する感覚はあるんです…大丈夫です、実体化したモノは何も出ませんから。」
「そうなんだ…私はあなたの"イクっ!"にビックリして素に戻っちゃったわよ」
「…すいません…」
「でも良かったわ。童貞くんが気持ちよくなれて。」
その後しばらく彼と雑談をした。お互いの事も話した。彼の事も何となく知れたし、霊という存在の事も何となく、うすらぼんやり分かってきた。少なくとも私に危害を加える存在ではない、という事だけは確信できた。
「ところでさ…あなたはこのまま永遠に、この風呂場から出られないの?」
「いや、なんか聞くところによると、死んでから概ね75日くらいで、霊は昇華するというか溶融するというか…」
「あんた理系?」
「…ゼミでは合金作ってました…」
「…やっぱり…もうちょい分かりやすく説明して。私文系だから。」
「すいません。つまりあと1ヶ月ちょいで、僕の霊、まぁ今ではこれが僕の全てですが、それは消えちゃう、って事らしいです。」
「そうなんだ…消えちゃうんだ…てかさ、そういうの、何処で知るの?」
「死んでこうやって霊になると、なんかこっちのネットワークみたいなのに接続されて、そういう情報が勝手に飛び込んでくるんです。いつのまにか知ってた、みたいな。」
「へぇ~…。で、消えちゃったあなたは、どうなるの?」
「消える、ってくらいだから、消えるんじゃないですか?」
「そうか…消えちゃうんだもんね…」
「そうっすね。」
「…そうっすね、って…寂しくないの?」
「ん~、なんか、こんなこと言うのもアレですけど、そもそも自殺した時にこの世にバイバイしてたわけで、未練みたいなのはなかったし、せいせいしてる感じです。ただ、あなたとこうやって仲良くなれたのは霊にならなきゃ出来なかっただろうし、それが終わるのは寂しいけど、でもあなたはきっと僕のことを覚えてくれていると思うので、あんまり寂しくないですね。」
昔、とある人が言ってた"本当の死とは、人から忘れ去られる事だ"という言葉を、ふいに思い出した。
「多分あんたの事は死ぬまで忘れないよ。私がオナニー見せた霊なんて、あんただけだし。それよりもさ…」
私は湯船から出て洗い場でさっきのように足を広げて彼に言った。
「さっきイキはぐっちゃったから、もう一度オナニーするね。だからちゃんと見て、あんたの脳内だか何だかで私を犯して。」
私は霊に視姦されながら、オナニーを始めた。いつもより興奮した。いつもより身体が震え、いつもより痙攣した。
彼が消えるまでの1ヶ月と少し、彼に言葉責めを教えてみようか…童貞くんにはちょっと荷が重いかも知れないけど。
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