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永遠の別れ
第四話:全て避ければ良かろう
しおりを挟む大地を、砂を、空気を巻き上げながら『審判者』はその巨体をうねらせて攻撃を発する。
何十本と生えている鋭利な触手は、その一本一本が独立して動くらしく、大気を切り裂く音が絶えない。
「2045番、ごめん、思ったよりも相手強かったわ!」
すぐ終わると思っていたが、どうやらかなりの強敵だったらしい。ドルマ達は触手の攻撃範囲外まで逃げている。
先程まで教師ヅラをして、あーだこーだ言っていたのが恥しくなって来た。
「全く突破口が見つからん……!」
「えぇ………」
それもそのハズで、対象は延々と触手を振り回して自身の体を覆うように、斬撃の盾を展開し続けている。突っ込んだら死ぬだろう。
「避けろ!」
更に相手は口から槍の様な鉄製の棒を噴出出来るらしく、ドルマ達が岩陰に隠れたり、足を止める度にいやらしく狙ってくる。
(このままではジリ貧だな………)
撤退するか、とも考えるがここは見晴らしの良い平原地帯である。相手の移動速度も分からないのに、背を向けて逃走するのは余りにも危険過ぎるし、無謀だろう。
すると、『導球』から音声が聞こえて来た。どうやらマレティアが敵の解析をしていたらしい。
「対象のタイプと能力が判明しました」
「06型(ワーム型)の審判者で、体内の鉄分を固めて操作する能力と推定されます」
「弱点は?」
「放出し、操作する鉄塊は体内の鉄分を合成した物体の為、長時間能力を使用し続ければ枯渇し、戦闘能力を大幅に失います」
「加えてワーム型は大きな音に弱く、音撃弾が有効です」
「有難うマレティア」
ドルマはマレティアの報告を聞くと、持久作戦に切り替えた。
そして、付かず離れずで消耗させる事にした様だ。
「聞いたか2045番、辛いとは思うが耐久勝負だ、避けまくるぞ!」
「はいッ!」
しかしながら、突破口が見えたとは言え、危険な状況であるのは変わりない。
無限とも思える鉄の槍の豪雨の中を、ドルマと少年は躱し、弾き落としまくった。
ガンッガンッ!と相手の攻撃が外れ、地面に直撃する度に小さなクレーターが出来上がる。
もし体に当たろうモノなら………
だが、流石は軍人である。
恐怖を押し殺しながら、敵の猛攻を数分間も耐えていた。
そして、自分達が辛い分、相手も勿論辛いモノである。
ドルマ達が時間を稼げば稼ぐ程、目に見えて相手の移動頻度が落ちてゆくのを実感出来る。
「段々と攻撃が弱まって来ましたね、どうしますか隊長……?」
「マレティア、今突入しても良いかな?」
「……まだ対象の残留鉄分濃度が高いです…もう少し粘ってから突入する事を推奨します」
マレティア曰く、まだまだ早いそうだ。
だが、反してドルマはじれったくなって、待ち切れなくなってしまったらしい。
それに、体力の問題もある、なるべく決着は早いほうが良いだろう。
「……まぁ、良いだろうよ、うん、戦略的にもな、悪いけど突入するわ」
ドルマは小さな声で自分には何度も語りかけると、審判者の頭部目掛けて駆け出して行く。
「ドルマ隊長…!危険です、もう少し___」
「2045番、君は近づかずに、遠くからの援護射撃を頼む」
「了解しましたッ!」
ヒュンヒュン、ヒュン…!!と巨体に近付くにつれて、稼働する触手が増えてきた。
刀を常備していないため、弾けない。全て躱す、躱す。
だが、全部を回避出来る訳では無いので、彼の身体は無数の切り傷を負ってきた。
(あと少し、あと少しで急所が見える……)
避けながらも、ドルマは着実に中枢神経が集まる頭部目掛けて進んでいた。
しかし、まだ頭の位置が高い、高すぎる。
いくら裁罪者の身体能力が高いと言えどもジャンプして届く距離では無さそうだ。
ドルマは瞬間、大きく叫んだ
「2045番、対象の側頭部目掛けて音撃弾を!」
「了解ですッ!」
ワンテンポ後、キィぃんと言う機械音が戦場に木霊し、震えた。同時に審判者が蹌踉めいて、首を降ろした。
「攻撃目標との高低差、約七メートル、到達可能です」
マレティアが冷静に伝える。
それを聞くと、待ってましたとばかりに、ドルマは大きく踏ん張って、地面を割って跳躍した。
ブーンと、風を切る音が聞こえる。
そして………
「よくやった、少年」
そう言うと隊長は、ズガンッとその重い一撃を敵の急所に撃ち込んだ。
巨大な、とてつもなく巨大な身体が、ズシンと地面に横たわった。
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