アポカリプス・デイズ 〜終わった世界で貴方は何を孕み出すか〜

シモヤマ

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永遠の別れ

第三話:審判者狩り

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地上は美しい。

長年人類が手を加えていないからだろう、青々とした木々が生えわたり、一面の花畑が地表を埋め尽くしている。

ふと前方を向けば、無限に広がる朝日が二人の身体を照らし、影を作っていた。


無線機で連絡した後、かなりの距離を歩いて、二人は出撃口から離れた地点まで前進していた。今いる地点は目標場所への中継ポイントである。


「キレイですね………」



こんな風景、きっとアテラルドでは見ることは出来ないだろうな、と2045番は想った。


花畑は淡い赤色をしており、それが澄み渡った青い空によく映える。


「そうか、君はこの地域に来るのは初めてだったかな?」


ドルマ達が今いる場所は戦闘が激化している、とされている北部戦線や北東の地域と真逆の方向のため、余り来たことが無い隊員も多い。



だが、部下は首を横に振って



「あ、いえ……初めてという訳では無いですが、何しろこれまでの任務がずっと過酷だったので、こんな風景をまじまじと見る心の余裕が無くて……」



「…なるほどなぁ」



いい景色だろう、とドルマは部下の肩を叩く。



見れば見るほどうっとりとした気分になってくる、審判者が横行する戦場にいるはずなのに、なんだか気が緩む。

だが、ドルマはそんな自分の油断に気付いたのだろう、パンパンと顔を両手で叩くと、部下に荷物を纒めるように指示した。



「………長居し過ぎると良くないな、駄目だ、厭戦気分に耽ってしまう」



ドルマは独り言の様に呟いた。

そして、武器を腰に付けると、下ろしていたリュックを拾い上げる。

チラッと部下の方を見てみると、既に完全装備で直立している。

(真面目なヤツだなぁ)と思わず目を細めた。



「隊長、では前進しますか」



おう、とドルマは言うと、ポケットから球体を取り出した。そしてポチッとボタンを押す。

するとホログラムが現れ、ブーンという機械音を立てながら電子版の地図が表示された。



この球体は『導球』と呼ばれる道具で、自分が受注している作戦のサポートをしてくれる。

その内容は多岐にわたり、今表示された地図や、本部との連絡、それに自身の身体の状態等幅広い。




「あ、あ~、本部に連絡します、聞こえますか~?」



ドルマは早速『導球』を媒体として、本部と連絡を取る。



中継地点を過ぎると余り調査が進んでいない地帯を歩く事になるので、事故や審判者との接敵確率が大きく上昇するからだ。



「はい、座標を確認しました、これから音声案内を開始します」




すると、どうやらドルマはその声に聞き覚えがあったらしい。すぐに訊ねた。



「あれ…もしかしてマレティアか?」



「はい」



案内役はマレティアだった。

気安い相手なので、思わずドルマのテンションが上がってしまう。



「お前が音声案内やるなんて珍しいなぁ、まさか初めてだったりするかい?」



「いえ、三度目です」



「まぁ、三回しか経験が無いなら、初心者とそう変わらんよ」



「そうなんですね」



「先ずは前方に向けて二キロほど進んで下さい」



マレティアは無駄話をする気は無さそうだ。

だが反してドルマはちょっかいを掛け続ける。



「少年、この案内役の人は俺の幼馴染で、マレティアって言ってな、ちょっと堅物な所があるが、話してみると意外と冗談が通じるヤツだよ、なぁマレティ___」



「繰り返します、前方に向って二キロ前進を」



「…隊長……ホントに仲良いんですか…嫌がってますよ……?」



少年が訝し気な顔で見てくる。

マレティアの方も、どうやらコレ以上無駄口を叩きたく無いらしい。黙りこくってしまった。



「……はぁ、仰せのままにマレティア様」



そして、二人は急かされながら移動を始める。

彼女の音声案内は正確で、なるべくなだらかで急でない地形を選んで進ませてくれるため、予定よりも早く着きそうである。

案内役の経験がほぼ無いとは思えぬ判断力だなぁ、と二人は感心した。



案内に従い進んでゆく、進んでゆく。景色はずっと平原のままで、和やかな雰囲気だ。

平原では太陽光にさらされて、草が輝いている。キラキラとした緑の上を彼等は再び談笑しながら進んでいるようだ。涼しい風がビューと吹いている。



「……ほぉ、隊長の武器、結構重そうですね~」



「おぉ!見ただけで分かるか、少年よ、君は中々良い眼識を持っているな」



なにやら少年が、ドルマが所持している拳銃が、一般のモノに比べて二間回り程大きい点に興味を持ったらしい。

すると、ドルマは触ってみるか、と言ってカチャリと腰から外して手渡そうとする。



「お言葉ですが、アテラルド中央軍、もとい裁罪者部隊に支給される武装は軍の物であり、勝手に他人に___」



警告を無視して、暫くカチャカチャと留め具を外すと、彼は拳銃を、ホイッと投げて部下に渡した。

裁罪者の武器の中でも最上級に重いため、少年は受け取った瞬間、思わず落としそうになる。



「うわっ!こんなモノを……よく動き回りながら扱えますね………」



裁罪者は普通、刀剣類と銃器のセットを大体常の装備とする。器用な者は加えて手斧等も携帯する事さえある。手数は多いほうが良いからだ。


裁罪者の歴史を鑑みると、審判者を模倣して作られたのだから、剣や銃を使わずに『能力』を使って戦えば良いじゃないか、と思うかも知れないが………実は審判者の『能力』までも模倣する事は不可能だったらしく、裁罪者はただ単に体が異常に頑丈で、身体能力が常軌を逸しているだけの人の形をした生物、という位置に収まってしまった。

結局は人間の、自分達の武器で戦わねばならないというのは、まぁ何とも……残念な事である。

一応炎をライターみたいにチョロッと出せたり、水を手のひらからジャーと流せる隊員も居るには居るが……居酒屋の一発芸くらいにしか使えんだろう。





「いや、まぁアサルトライフルよりかは軽いからね、一応機動力重視の武器編成だよ」



「素早く動いて短期決着、これが俺の戦法だからね」



速く相手の懐まで潜り込んで、急所を重い一撃で打ち抜き、確実に仕留める。

聞く限りでは最適解の様に思われるが、ドルマの場合は相手の攻撃を弾く刀剣を装備していない(ナイフっぽいのは一応持つには待ってる)ので、ほぼノーガード状態。

当に脳筋の武器編成と言えよう。



だが部下は、隊長が色々と考えて武器を選んでいることに、少し感心したらしい。




「へぇぇ、意外と考えられてるんですねぇ………」



「……………意外と?」





少し聞捨てならない言葉が聞こえた気がするが、ドルマはゴホンッと咳払いをして話を続ける。



「少年は刀がメインの武器かい」



「警告です、早急に私語を慎み、武器の貸し借りを止めなさい、さもなけば___」



「元帥殿に報告しますよ、ドルマ隊長殿」



会話を続けたい。が、なんだかマレティアがちょっとキレ気味である。恐らく先程注意を無視したからだろう。



「まぁまぁ、そう怒るなよマレティア、別に作戦遂行に支障は出ないからいいだろ___





カタ………





言いながら、突然ドルマは立ち止まった。片手を横に広げて並走していた部下を留める。

目の色が変わり、即座にマレティアに周辺環境のスキャンを要請する。



「……隊長?」



「マレティア、周囲の熱源探知を行ってくれ」



「了解しました」



ドルマは、何かを感じ取ったらしい、それに、地面がカタカタと揺れ始めた。静かに彼は銃を握る。



「2045番少年、地上でこのように振動が起る理由、わかるかな?」



カタカタ、カタカタカタ…段々と揺れは大きくなって来る。



「地盤沈下…付近での土砂崩壊……地震…とかですかね」



「……それだけか?」



ドルマは先生が生徒に呼び掛ける様に、優しく聞いてやる。



「……はい」



ガタガタ、ゴゴゴ………



「覚えておいた方が良い、"地上"でこの様に不規則な揺れを起こす時………それの理由は大抵一個だよ」



そのとき、マレティアが叫んだ



「土中より巨大な生命反応を確認………『審判者』です!」



瞬間、ドルマは少年の手を引き、その場を離れた。



そして……彼等のいた地点から、巨大なナイフの様な刃物が突出した。全体像も段々と見えてくる。



ゴボゴボ、と土をかき上げながら正体を表したのは、イモムシの様な胴体に、先端に刃物を生やした触手を無数に持った少々奇っ怪な見た目の『審判者』だった。





「さて少年、審判者狩りの始まりだよ」



「……はっ、はいッッ!」



二人は獲物を見上げながら、そう掛け合った。


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