アポカリプス・デイズ 〜終わった世界で貴方は何を孕み出すか〜

シモヤマ

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永遠の別れ

第二話:出撃用意

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「出撃口ゲートの上昇を開始します___



「ゲート付近に待機している______



地上からの光が眩しく差し込む出撃口、ここはアテラルドで唯一地上と接触できる場所だ。

空港の様に出発出来る時間帯が指定されており、待機場には多くの軍人が集まっている。

どんな規模の部隊でも、必ずここからしか地上には行くことが出来ない。

上を見上げると無数の出撃用小型ゲートが設置されており、開いたり閉まったりするたびに太陽光が室内に入り込む。




「装備は持ったか、手入れはしたか?」



「錆びていては使い物にならんからな」



少年が冷静な眼で、部下らしき隊員に声を掛けている。



「はい、ドルマ隊長」



少年よりも、更に一回り程若そうな隊員が景気よく返事をする。

父からの命令で、地上の環境調査に共に行く事になった。そして、この隊員は、その付属員である。



「……もう一人隊員が付けられる予定だったハズだが……まだ来ていないのか?」



そう、先程司令室で渡された作戦書には二名の隊員を統率すると記されていた筈だ。

しかしながら、現在は、まだこの少年しか居ない。



「あ~、どうやらその子、別の戦線に回されたらしいです………」



部下は、何だか申し訳無さそうに返した。



「そうか……」




(近頃は審判者の抵抗が激しいからな……致し方無い)

貴重な戦力をこんな任務に回す意味もないし、当然の判断だ、と心の中で頷く。




「まぁ…簡単な任務だし、すぐに終わるだろうよ」



「さぁ、とっとと行こうか」



「はいッ!」



ドルマは明るげに会話を打ち切ると、すぐ目の前にある出撃窓口まで行き、手続きをする。

ここで任務書を提出し、晴れて地上へと旅立てる。

出撃窓口はカウンターに鉄格子が組み合わされた、牢屋の様な造りとなっており、とても質素だ。



「アテラルド中央軍、裁罪者部隊第二十三小隊隊長ドルマ、地上への出撃許可を願います」 



余談だが、裁罪者部隊は一応小隊やら中隊やらの部隊構造はあるものの、定期の隊員を持たせず、よく部隊メンバーがコロコロと変わる。どうやら反乱防止らしい。



「えぇっと……あぁ、ありましたね、了解しました、出撃口までお越し下さい」



受付員は手元のタッチパネルをスライドしていき、彼の要請を許可した。



ドルマ達は受付員の言葉を聞くと、即座に移動を開始する。



上に、上に、地上への出撃口を目指して。

縦に大きく延びる螺旋階段を、二人は重い足取りで歩いて行く。

エレベーターを使う手もあるのだが、簡単な作戦とは言え、心情的にそんなに早く戦場に行きたくは無かった。

カンカン、と二人の登る足音が暗く鳴り響く。



「そう言えば、君」



「は、はい!」



「君の名前を聞いていなかったな」



ドルマは思い返した様に言った。

カンカン…カンカン、と引き続き螺旋階段の鉄を踏む音がする。



「あ…その…」



すると、少年はもどかしそうな顔をして



「肉体提供元となった親が、私を息子と認めたくない、との事で、名前を貰えなくて…………一応軍部から2045番目という名称は頂いておりますが……………」



「済まなかった」



と、少し辛い事実を打ち明けた。ドルマはすぐに打ち切る



そして、彼は少し反省した。



(気まずい事を尋ねてしまったな………)

そう言えば、父から余りこの手の話はするな、と言われていた事を思い出した。



(いや、ホントに失礼な事をしてしまった………)



カンカン、カンカンカンと、先程までは任務への緊張で重かった足取りが、今では申し訳無さと罪悪感で更に重みを増している。ちょっと冷や汗をかいて来た気もする。



「い、いやぁ、まぁでも……気にしないで下さい、隊長!」



すると逆に少年の方がアワアワとして、気張って明るい声を出した。



「……そうか、君は優しい性格をしているな」



ドルマはそんな彼をみると、少し感心したらしい。

良い部下だな、と褒めた。



……彼等はそうして暫く登ると、出撃口にまで到着した。



出撃口は地下から見た時と違い、間近で見るととても巨大で、分厚い鉄板で蓋をされている。



『出撃口番号〇〇番___』



二人が到着すると、何処からかアナウンスが聞こえ、その蓋が段々と開いて行く。



「いよいよですね」



ドルマはチラッと腰に付けた拳銃に目を遣ると、ガチャリと装填した。

対して2045番の方の動きも、そう変わらない。



グォン、グォンと上昇を開始する扉、その開いてゆく隙間を見れば青々とした大地が見えて来た。



「第二十三小隊、出撃します」



ドルマは耳につけられた無線機をピッと押すと、そう喋った。

前方から勢いよく吹き付ける風が、二人の髪をバサバサと揺らしいてる。


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