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永遠の別れ
第一話:裁罪者の朝
しおりを挟む青い大地よ、遥かなる大海よ、我が祖を殺して奪還せん、我ら再び回帰せん、あぁ……遠い私達の………
____________________________________
「ドルマ様、ドルマ様、朝ですよ」
「おはよう御座います」
薄暗い監獄の様な部屋の中で、銀髪をポニーテールに結んだ、目の赤い冷徹そうな少女が、少年を起こしている。
片手には斧が握られ、全身を黒い戦闘服で覆っており、いつでも戦闘出来そうな見た目だ。
「んんっ……あ、朝か………おはよう」
おはよう、マレティア。
と少年も眠そうに返す。
まだ眠気が残っているのだろう、まぶたをパチパチとさせている。
だが、すぐにソレを無くすと少年は何時もの感じに戻った様だ。親しげに話しかける。
「んぁ………てか、幼馴染なんだしそろそろ敬語やめようや………」
「いいえ、貴方の方が階級が上ですので」
「硬った………」
お父上がお呼びです、早く参上なさる様に。
マレティアはそう言うと、手に下げていた武具をポイッと少年の腹めがけて投げた。
直撃したドルマは、ゴフッと吹くと、ベッドから跳ね起きた。
「早く着替えて下さい、さぁ、早く」
「このぉ……なんて可愛げのない……」
イラッとしながらドルマはソレを受け取ると、渋々身につけた。
(やっぱ慣れんなぁ………)
そう、この幼馴染に思いながら。
この小説の主人公、ドルマは要塞都市'アテラルド'で生まれた『裁罪者』である。
『裁罪者』、それは、この世界に突如として侵攻してきた
知的生命体『審判者』に対抗する為に生み出された、人間を改造した生物兵器である。
生け捕った審判者が産んだ子供に、人間の細胞や器官を移植して作る。
見た目は普通の人間と変わらないのだが、膂力や俊敏性、体力等が一線を画しており、当に戦うためだけに作り出された様な生き物だ。
そして、先程セリフに出て来た、彼の、ドルマの父は三十年前の大規模な地上奪還作戦『審判の日』の英雄とまで言われた男で、裁罪者ながら、生物兵器ながら、アテラルドの元帥を努めている。
父は厳しい人で、数々の戦功により、家族全員に人間と同等の生活を約束する、と言われても息子にだけは冷たくし、一切の特別な権限を許さなかった。
だけでなく、裁罪者の組織に僅か八歳の齢で入隊させ、幾度もの死地をくぐらせた。
『可愛い子には旅をさせよ』の完全上位互換みたいな父親である。
今日はそんな親父に呼びつけられたらしい。
アテラルドの、司令塔の通ずる道を二人は歩いく。
要塞都市、と言われるだけあって、アテラルドの通路は途方もなく長大だ、通路の全てに鉄製の塗装が施されており、一定間隔で武器庫や弾薬庫が内蔵されており、軍人達が談話をしながら歩行している。
「はぁ…またどうせ「南部戦線」が危ないから加勢しろ、とか出撃口に審判者が現れた~とかだろう?」
「…知りませんね、早く行きましょう」
この隣を歩く少女、マレティアは裁罪者部隊とは別の、生身の人間で編成される戦闘組織、アテラルド守備隊の軍人で、純粋な人間である。
アテラルドでは、この『裁罪者部隊』と『アテラルド守備隊』が主な軍事集団で、
『裁罪者部隊』が地上の敵を狩り、『アテラルド守備隊』がアテラルドの治安を維持する、と言った様にしっかりと役割分担もされている。
……そうして、長い通路を二人は無言のまま歩く。
カツカツ、カツカツ………
「なぁマレティア、久しぶりに何か世間話でもしようや」
「はい、了解しました」
「………最近、良い武器が手に入ってなぁ、それがもう、メチャクチャ火力が出るんよなぁ……」
「へぇぇ、それは凄いですね」
「……」
どうやら会話は終わった様である。
二人は再び無言になると、少し早歩きでドルマの父の元へと向かった。
彼の父、ゾラムドの部屋はアテラルドの元帥に相応しく、荘厳で少し冷ややかな感じが漂っている。
マレティアはドアに近づき、コンコン、とノックすると
「ゾラムド閣下、ドルマ隊長のお越しです」
と言った。即座にドアの向こうから入れ、と聞こえてくる。
マレティアは体をドアに付けると、自分は入らないようにクルッと回転して開けた。
ドルマは少し会釈をして、入室する。
「失礼します」
相変わらず父の威厳は、オーラは凄まじい。
ちょっと近付くだけでなんだか圧倒されてしまう。
「……ドルマ、来て早々だが___」
「また長期間の任務でしょう?」
ドルマはうんざりした様な顔をして、父と面する。
「不服か」
「……はい…」
「閣下、私にも他の隊員と同じく休暇が欲しいです」
ドルマは震えながら言葉を綴り始めた。
「趣味の武器開発をしたり、武装の手入れをする日数くらい頂けないでしょうか…」
ドルマはちょうど、反抗期の子供の様に口をとがらせながら喋る。
すると、今度はゾラムドのほうがヤレヤレと言った表情をして、
「ドルマ…我等は審判者とヒトの間の子だ……戦う以外に、存在価値を見出す事が出来ぬ存在なのだぞ………」
「でも、だからって明らかに俺の出撃回数だけ……」
「次の任務だ」
ゾラムドはそう言うと、なんだか悲しげに机の引き出しを開け、書状を取り出した。
どうやら、今からドルマに命ずる内容が書いてあるらしい。思わずドルマは顔を曇らせた。
任務内容は単純で、裁罪者部隊の隊員二名を引き連れての地上の調査らしい。
ドルマは内容を聞き、一礼すると肩を竦めながら部屋から出て行く。父は、そんな息子には見向きもせずに書類に目を通し始めた。
「ドルマ様…代わりの者を行かせましょ___
「いや、大丈夫だ」
先程の会話を聞いていたマレティアが気を利かせて言ったが、ドルマは押し止める様にして断った。
「簡単な任務だしな、もう、諦めている」
この先起こりゆく災難も知らずに………
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