恋。となり、となり、隣。

雉虎 悠雨

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第二章 車内でも隣には

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 手間を掛けさせないように二人で布団を引いてから下へ降りると、はるきが驚いた顔をした。

「早っ、本当に話し合ってきた?」
「うん」

 ゆきが頷き、目雲が補足する。

「必要な話し合いができました」
「それは、良かったです。お姉ちゃん後で聞かせて」
「はいはい」

 目雲の前でももう欠片の遠慮もなくなったとゆきは呆れを含む返事だった。

 お茶を飲みながらゆきの仕事の進捗や今日の道路状況などの話をしていると、ゆきの父は程なくして両手で抱えきれないくらいどころか、一度では車から降ろせないほど買い物をして帰ってきた。

 目雲との挨拶もそこそこにそれらの物を冷蔵庫にどうやってしまうのかとか、とりあえず夕飯にも食べて中身を減らそうと言ったりで、落ち着かないまま夕食が始まり、酒が入れば父も母もはるきもさらににぎやかになる。
 約束通りゆきのアルバムを見たり、目雲の仕事の話をしたり、ゆきの相変わらずの近況の報告をしたり、はるきや実家の様子の話をしたりと、その夜は会話も尽きず、酒も進んで賑やかに過ぎていった。

 何とか日付が変わる前後に、風呂にお客様だからとうながされ目雲から順番に入り、けれど目雲がゆきをリビングで待っていたので、実家の住人が当然話しかけないわけはなくて、ゆきが風呂から出てきてもそこから一時間ほど父が買い物で凄い人で大変だったとか、明日届くおせちの話とか本当の雑談をしていた。

「明日もあるんだから、もう寝かしてあげましょう」

 遅すぎる気遣いをゆきの母が見せ、父も流石にすんなり同意した。

「そうだな、すまんすまん」
「朝も気にせず寝ていてね、うちはみんな朝ゆっくりだからね」

 ゆきも含め朝に弱いこともない一家だったが、早起きの習慣も誰もなかった。
 ゆきが本当だと念を押すと、目雲が頷いた。

「ありがとうございます」
「じゃあお休みなさい」

 ゆきがさっと立ち上がると、目雲も習う。

「おやすみなさい」

 二階に上がり、はるきとも部屋の前に別れて二人同じ部屋に帰る。
 暖かい部屋でそれぞれ布団に入ると、視線だけ合わせた。
 すっかり夜更けになっているから、多くの言葉は交わさない。

「おやすみなさい」
「おやすみなさい」

 ゆきが微笑んで頷いて枕元に置いていたリモコンで電気を消した。
 そして話し合っていた通り二人は別々の布団でゆっくりと眠りについた。
 ゆきは追い込んで終わらせた連日の仕事で軽く睡眠不足たっだために、本当にすぐに寝始め、目雲もそのゆきの規則正しい寝息を聞いているうちに、不思議な安心感と穏やかさで気が付くと眠っていた。

 翌日、大晦日。
 目雲は早めに目覚めていたが、布団から起き上がることはせず、隣の布団の頭の先しか見えないゆきの様子を眺めていた。

 ただそれもわずかな時間で、ゆきも程なくアラームもなく目を覚まし、突然むくりと起きると、徐に本棚に手を伸ばし適当に本を取ると布団に戻りそれを読みだした。
 どうやら目雲はまだ寝ていると思っているようで、いつかのように部屋にはエアコンの稼働音と本を捲る音だけが聞こえていて、目雲は気が付くとまた眠ってしまっていた。

 遅めの朝はゆきの父が買ってきていたパンで全員簡単に済ませ、そのすぐあと、その父が買ってきた物の下処理をする羽目になっていた。
 はるきが呆れた顔でダイニングテーブルに並べられたそれらを眺めていた。

「てか、鮭丸ごと一匹買ってくるとかある? 新巻鮭ってやつ? これお正月関係ある?」

 父は胸を張った。

「塩抜きしなくても良いって言ってたぞ。売ってたんだから関係あるだろな。めでたい感じがするだろ?」
「鮭は縁起物だよ、よく冷蔵庫入ったね」

 ゆきが言えば父はニカリと笑った。

「無理やり突っ込んだ」

 はるきはもう何も言わない。

「他にもお肉とかもあって、今日はおせちも届くからこれは一番に捌いて冷凍しなくちゃね」

 ほのぼのと母が言えばはるきがさらに呆れた。

「冷凍するなら、切って冷凍になってるの買ってきなよ」
「そうだな、ちょっと興奮して分からんかった」

 少しも悪びれずに笑っているが、はるきは追撃の手を緩めない。

「お肉だって、なにこれ塊肉過ぎない? あと生エビとかも多すぎだし、するめだって何枚入ってるのこれ! さらにおせちが来て、お蕎麦もあって、天ぷらもするんでしょ? お雑煮も作るんだから、どれだけ大変なのよ」

 ゆきの母も父もにこにこと笑う。

「そうね、でも大丈夫よ、なんとかなるなる」
「そうだ、鮭は父さんが捌くから心配するな」
「もう当たり前だよ」

 はるきが脱力する横で目雲が協力を名乗り出る。

「僕も手伝いますよ」
「目雲さん! こんな変な家族ですけどお姉ちゃんはもっとしっかりしてますからね」

 ゆきは首を傾げる。

「どうかな」
「なんでお姉ちゃんが否定するの!?」
「これ見てたら自分のこともちょっと疑いたくならない?」
「はー、そう言われると確かに自信ないかも。私もこの二人の血を引いてるんだから、テンション上がって買い過ぎるのも、何とかなると思っちゃうところもないとは言えないわ」

 ゆきが頷きながら手を動かし始めた。

「とりあえずやっていこうか」

 時間が掛かりそうなものからということで、二手に分かれた。

 父とはるきと目雲が力が必要かもしれないとキッチンのテーブルで鮭と格闘している。
 隣のリビングの座卓でゆきは母と二人でエビの殻をひたすら剝いていた。二人で父の買い物の仕方や最近母が買った物にについて話しながら作業していたら、それぞれ一パックずつ分担していた分が終わったゆきがまだ残っていた母に声を掛ける。

「手伝おうか?」
「あと二匹だから大丈夫よ」

 頷いたゆきは用意した濡れた布巾で手を拭き始める。

「この生臭い手の臭いは取れるのかな」
「ごめんね、ゆき」

 エビを見ながら言う母にゆきはそれほどの臭いなのかと驚く。

「え、そんなにこの臭い取れないの?」
「ううん、エビの臭いじゃなくて」
「ん?」

 話が見えず首を傾げるゆきに、母は目線を合わせない。

「ゆきには苦労かけたと思う、ごめんね」
「どうしたの急に?」

 訳が分からずゆきはぐっと母に近寄った。

「あんまり何も言わないから、頼りすぎてたなと思って」
「家が大変なの?」

 母は漸く手元から顔を上げた。

「全然心配ないのよ、私も最近元気だから」

 一先ず安堵したゆきだったがそれはそれで気にもなる。

「元気な方が心配になるよ、無茶しないでね」

 母も苦笑する。

「年相応に落ち着いてきたと言ってるの」
「そうなことを願うよ」
「そうやって心配ばかりかけてるでしょ」

 どこが愁いを帯びる母に表情に不安にならざるを得ない。

「本当にどうしたの?」
「だって、ゆきが何にも言わないから」
「え? 何もって何?」
「何にもよ」

 ゆきは頭の中か疑問だらけになる。
 なにせ母に謝られるようなことは何一つ思いつかないからだ。
 詳しく聞きたいと思ったゆきだったが、何をどう聞いたらいいのかすら分からなくなり、妹に助けを求めることにした。

 剥き終えたエビを大皿にのせてゆきがキッチンに向かい、そこでは始める時は父が持っていたはずの包丁を握っている目雲の横でスマホで鮭の捌き方を確認する担当のはるきに訊いた。
 父の無謀な包丁さばきを見兼ねた目雲が手伝いを申し出たのだろうとゆきが正しく理解しながらも、それを言う前に妹に問いただす。

「ねぇ、はるき。お母さんがなんか私に苦労ばっかり掛けたって謝ってくるんだけど、何かあったの?」

 はるきの視線は目雲の手元から動かず、そのまま軽くゆきの質問に答える。

「平和そのものだけど、お姉ちゃんがあまりに心配かけないから心配なんじゃない?」

 エビの皿にラップをして冷蔵庫に仕舞ってから、ゆきは念入りに手を洗い始める。その間はるきが言うことを考えるゆきだったが、首を捻るばかりだった。




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