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第十九章 手折られた彼岸花
19-8 とある天狗の事前会議
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* * * * * * * *
日付が変わる頃、オレの携帯電話に着信があった。
おいおい、こんな夜更けに誰だい? とディスプレイを覗くと、そこに出た名前はナツ。
珍しいな。何か急用か?
「ナツか、どったの?」
『チマから黎藤の手掛かりを聞いたわ』
こりゃあ嬉しい報せだが、ナツの声は妙に固かった。悪いニュースと良いニュース、どっちを先に聞く系のアレ?
「おー、話せるようになったか。んで、わかったことは?」
『それが……』
と珍しくナツが口籠る。何か厄介なことなのか?
『黎藤が……鬼になったみたい』
……あらら。
「それってつまり、完全に妖怪になったってことか?」
『そうね、聞いた限りでは。角が生えていたらしいわ』
白鬼は鬼といっても角が生えていなかった。顔を見ただけでは、ちょっと配色がおかしい人間にしか見えないだろう。
それは、今まで妖怪として不完全だったからだ。未完成、と言った方が正確か?
今までは妖怪の力を行使出来る、ちょっと頑丈な人間くらいの立ち位置だったかな。それはそれでおかしいけど。
しかし、鬼の象徴たる角が生えてしまった。それは人間としての黎藤珀弥の死を意味する。
今やこの世に存在しているのは、完全な妖怪に成り果てた鬼だけだ。
「はぁ、なんてこったい。……つーか、それ千真ちゃんが知っちゃったのね」
『ええ、鬼になる瞬間を見たらしいわ』
「あら~……」
致命的だな。どう足掻いても誤魔化せねーわ。
夕方の千真ちゃんの様子を見ても、かなりショックを受けてたみたいだしなぁ。
普通の女の子には受け入れ難いモンだし、しゃーない。そこら辺は上手くカバーするしかねぇか。
『それで、此処からが本題。黎藤は式神として捕らえられた可能性があるの』
「おっとー、そりゃまたエラい話だこと」
妖怪は式神としての使役が可能だ。
しかし、珀弥は分類としてはまだ人間で、式神になるのは不可能だった。
だが、今は状況が違う。
完全な鬼になってしまったのならば、バッチリ対象に入っちゃうからね!
「誰が珀弥を連れて行ったかは判ったん?」
『神凪の巫女……ってチマは睨んでるわ』
ほう、なるほど。神凪千真、神凪の巫女——まぁ、繋がりますよね。
オレがふむふむと頷くと、ナツは『知ってるの?』と促してきた。
「うーん、オレ自身は詳しくはないけどな。……伯父さんの『記録』に名前が載ってたんだよ」
珀弥の家が神社になる前の話だ。
突如現れた百鬼夜行から里を救った英雄は、無惨にも里の人間に殺された。
そしたら、タイミングよく悪天候が続いてしまう。殺した鬼の祟りだと思い込んだ人間たちは、鬼が可愛がっていた子供達を虐殺した。
そこからはもう、地獄から蘇った鬼の復讐劇がスタート。
制御不可能になったところで一人の巫女が現れ、暴れる悪鬼を鎮めた。それが神凪の巫女だそうだ。
人間に興味を持っていた伯父さん——ナツの父にあたる天狗は、その騒動を傍観者として記録していた。
オレはその記録を時々覗き見してるってわけだ。
『……そう』
ナツは短く返事をしたが、その声音は力の無いものだった。
「神凪の巫女は鬼を鎮める程の力を持ってるみたいだしな。珀弥も連れて行けるだろうよ」
直接は対面していないものの、千真ちゃんを見る限り、ポテンシャルは高いはずだ。
『厄介ね』
「ああ。オレたちが出くわせば、ちと分が悪い相手だわ」
巫女は妖怪退治のプロだって相場が決まってるもんだ。
オレだって一応ターゲットになりかねないし。ナツも半分は妖怪だしな。
「仮に推測が当たったとしてだ。あっちは千真ちゃんに敵意を抱いているわけで、戦闘にもなりかねないっしょ」
『確かにそうね。でも、チマの前で……』
「正体、バレちまうよなぁ」
恐らくは人間に化けながらナメプして凌げる相手じゃない。最悪の場合は……いや、考えるのはやめよう。
「んま、細かいことは明日考えよーぜ? 千真ちゃん本人からも詳しく話聞きたいし」
ここら辺は千真ちゃんを交えて話し合った方が良いだろう。伝聞じゃわからない部分もあるしな。
『ええ、そうしましょ。あたしが事前に話したことは内密にしといてよね。前知識ってことで』
「はいよ」
『あと、チマから話を聞いたときは初見リアクションで』
「え!? それ白々しくね?」
こういう時のオレってばかなりの大根役者よ!?
『よ・ろ・し・く』
と、ナツは強引に電話を切ってしまった。わざわざ連絡くれるのはマメで良いけど、無茶振りをすんなってのー。
「どうしよっかねー」
この三日の間で天波市と白城市全域、近隣の町も見ては来たが、珀弥は何処にも居なかった。
となると、それよりもっと外か、隠れているか……幽閉されているか。
見落としも無いとは言い切れねえけど、まぁ多分無いだろ。
千真ちゃんの推測が当たりゃ、こっちとしては楽だが、同時に厄介なことになりそうだ。
オレも傍観者ポジ気取るつもりだったけど、なーんか巻き込まれてる気がするぅ。
「世話かけんなよバーカ」
あのクソガキ、見つけたらブン殴ってやる。
日付が変わる頃、オレの携帯電話に着信があった。
おいおい、こんな夜更けに誰だい? とディスプレイを覗くと、そこに出た名前はナツ。
珍しいな。何か急用か?
「ナツか、どったの?」
『チマから黎藤の手掛かりを聞いたわ』
こりゃあ嬉しい報せだが、ナツの声は妙に固かった。悪いニュースと良いニュース、どっちを先に聞く系のアレ?
「おー、話せるようになったか。んで、わかったことは?」
『それが……』
と珍しくナツが口籠る。何か厄介なことなのか?
『黎藤が……鬼になったみたい』
……あらら。
「それってつまり、完全に妖怪になったってことか?」
『そうね、聞いた限りでは。角が生えていたらしいわ』
白鬼は鬼といっても角が生えていなかった。顔を見ただけでは、ちょっと配色がおかしい人間にしか見えないだろう。
それは、今まで妖怪として不完全だったからだ。未完成、と言った方が正確か?
今までは妖怪の力を行使出来る、ちょっと頑丈な人間くらいの立ち位置だったかな。それはそれでおかしいけど。
しかし、鬼の象徴たる角が生えてしまった。それは人間としての黎藤珀弥の死を意味する。
今やこの世に存在しているのは、完全な妖怪に成り果てた鬼だけだ。
「はぁ、なんてこったい。……つーか、それ千真ちゃんが知っちゃったのね」
『ええ、鬼になる瞬間を見たらしいわ』
「あら~……」
致命的だな。どう足掻いても誤魔化せねーわ。
夕方の千真ちゃんの様子を見ても、かなりショックを受けてたみたいだしなぁ。
普通の女の子には受け入れ難いモンだし、しゃーない。そこら辺は上手くカバーするしかねぇか。
『それで、此処からが本題。黎藤は式神として捕らえられた可能性があるの』
「おっとー、そりゃまたエラい話だこと」
妖怪は式神としての使役が可能だ。
しかし、珀弥は分類としてはまだ人間で、式神になるのは不可能だった。
だが、今は状況が違う。
完全な鬼になってしまったのならば、バッチリ対象に入っちゃうからね!
「誰が珀弥を連れて行ったかは判ったん?」
『神凪の巫女……ってチマは睨んでるわ』
ほう、なるほど。神凪千真、神凪の巫女——まぁ、繋がりますよね。
オレがふむふむと頷くと、ナツは『知ってるの?』と促してきた。
「うーん、オレ自身は詳しくはないけどな。……伯父さんの『記録』に名前が載ってたんだよ」
珀弥の家が神社になる前の話だ。
突如現れた百鬼夜行から里を救った英雄は、無惨にも里の人間に殺された。
そしたら、タイミングよく悪天候が続いてしまう。殺した鬼の祟りだと思い込んだ人間たちは、鬼が可愛がっていた子供達を虐殺した。
そこからはもう、地獄から蘇った鬼の復讐劇がスタート。
制御不可能になったところで一人の巫女が現れ、暴れる悪鬼を鎮めた。それが神凪の巫女だそうだ。
人間に興味を持っていた伯父さん——ナツの父にあたる天狗は、その騒動を傍観者として記録していた。
オレはその記録を時々覗き見してるってわけだ。
『……そう』
ナツは短く返事をしたが、その声音は力の無いものだった。
「神凪の巫女は鬼を鎮める程の力を持ってるみたいだしな。珀弥も連れて行けるだろうよ」
直接は対面していないものの、千真ちゃんを見る限り、ポテンシャルは高いはずだ。
『厄介ね』
「ああ。オレたちが出くわせば、ちと分が悪い相手だわ」
巫女は妖怪退治のプロだって相場が決まってるもんだ。
オレだって一応ターゲットになりかねないし。ナツも半分は妖怪だしな。
「仮に推測が当たったとしてだ。あっちは千真ちゃんに敵意を抱いているわけで、戦闘にもなりかねないっしょ」
『確かにそうね。でも、チマの前で……』
「正体、バレちまうよなぁ」
恐らくは人間に化けながらナメプして凌げる相手じゃない。最悪の場合は……いや、考えるのはやめよう。
「んま、細かいことは明日考えよーぜ? 千真ちゃん本人からも詳しく話聞きたいし」
ここら辺は千真ちゃんを交えて話し合った方が良いだろう。伝聞じゃわからない部分もあるしな。
『ええ、そうしましょ。あたしが事前に話したことは内密にしといてよね。前知識ってことで』
「はいよ」
『あと、チマから話を聞いたときは初見リアクションで』
「え!? それ白々しくね?」
こういう時のオレってばかなりの大根役者よ!?
『よ・ろ・し・く』
と、ナツは強引に電話を切ってしまった。わざわざ連絡くれるのはマメで良いけど、無茶振りをすんなってのー。
「どうしよっかねー」
この三日の間で天波市と白城市全域、近隣の町も見ては来たが、珀弥は何処にも居なかった。
となると、それよりもっと外か、隠れているか……幽閉されているか。
見落としも無いとは言い切れねえけど、まぁ多分無いだろ。
千真ちゃんの推測が当たりゃ、こっちとしては楽だが、同時に厄介なことになりそうだ。
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