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第十八章 勿忘草
18-16 禁忌の願い
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僕は拝殿で正座していた。
ここには小さな神様がいる。あと、たまに狐もいる。
神様は、僕の前で困ったように首を傾げた。
「人の寿命を伸ばす魔法、ですか?」
「天なら何か知ってるでしょ?」
期待を込めて天を見ると、彼は申し訳なさそうに目を伏せた。
「自然の摂理に反することは、即ち禁忌の術です。例え知っていたとしても、お教えすることは出来ないのです」
「何で? 死んだ人を生き返らせるわけじゃないのに」
「寿命が限られているのならば、それを伸ばすことは自然の摂理に反するとは思いませんか?」
「それは……」
水の入った小さなコップ。中身が容量いっぱいになっても、勝手にコップが大きくなることはない。
それが自然なんだ。
「珀弥、あなたのお気持ちはわかります。けれど、寿命を伸ばすだけでは根本的な解決には至りませんよ」
「じゃあどうすれば良いの?」
このまま、かずまが弱っていくのを黙って見ていろって?
そんなの、今までと変わらないじゃないか。
「あなたが出来ることは、運命を受け入れることです。あの子に残された尊い時間を、上手に使う事を考えましょう」
いつものほんわかとした雰囲気は無かった。ただ冷徹に、残酷に、事実だけを述べる神がそこに居た。
「何で……」
天まで諦めるんだ。どうして、どうして……!
「天がそんなこと言うの? 神様は人々を助けてくれるんじゃないの!?」
僕が詰め掛けると、天は真っ直ぐと見返してきた。その目は悲しみと悔しさで染まっていた。
「私とて、救える命があるならば救いたいです。……しかし、私は全知全能ではありません。私は……無力なのです……」
天は唇を噛み、握った手をプルプルと震わせていた。
ああ、天もどうしようも無いんだ。
助けたいと思っているのに、助けられない。悔しくて仕方ない。僕のように。
「……ごめん、言い過ぎた」
「良いのです。お気持ちはよくわかりますから、どうぞ、私を捌け口にしてください。あなたは子供の割に無理をし過ぎています」
酷いことを言ってしまったのにも関わらず、天はニコリと笑うのだ。
天はなんてお人好しなんだろう。
こんな神様、他を探しても見つからない。普通なら祟られてもおかしくないのに。
「ううん、大丈夫。本当にごめんね……」
無理してるのかな、僕。
「珀弥、人の生は長いか短いかではありません。限られた時間の中で、どう生きるかです。……どうか、大切になさってくださいね」
「……うん」
受け入れなきゃいけないのかな。残りの時間、悔いが残らないように。大切に過ごさなきゃ。
ううん、無理だ。僕には荷が重いよ。
* * * * *
「かずまーっ! おかえりー!」
「……ん、どけ」
今日はちさなが遊びに来る日。
かずまが帰ってきたと聞いて、真っ先にここに飛んできた。
ちさなはかずまに飛びつくと、かずまは迷惑そうに眉にしわを寄せる。でも、激しく抵抗はしなかった。
「やだー!」
「……ん」
ちさなはイヤイヤとかずまにくっ付き、かずまは困ったように僕に視線を寄越した。
それがおかしくて、つい笑ってしまう。かずまの困り顔は、あまり見る事が無いから。
「笑うな」
「ごめんごめん。ちさな、かずまが困ってるから、ちょっと離れようね?」
かずまはムッとした顔になり、僕は謝りながらちさなを窘めた。
「むー」
ちさなは不満げだったが、素直に離れてくれた。花マルをあげよう。
「そーだ! このまえはなびみたの!」
と、ちさなは唐突に声を上げる。
それは花火大会のこと。ちさなが話すっていうことだったっけ。
かずまはいきなり話し始めたちさなに面を食らっていたが、相槌を打ってちゃんと聞き始めた。
花火が大きかったとか、猫の形をしていたとか、女の子とお友達になりたかったとか、話の順序はバラバラで支離滅裂。
それでも、かずまは優しい目でちさなを見守っていた。
「それでねー、ちしゃな、はくらにすきーっていったらね、はくらもすきーっていってくれたのー」
「……へぇ」
かずまは僕を見て、何とも言えない表情になる。
ニヤニヤしてるというわけじゃないのに、『やるじゃんお前』って言っているみたいで。
「ちしゃなね、かずまもだいすきだよー!」
ちさなはかずまに抱き着き、頬っぺたにチュー。
これには流石のかずまも驚いたようで、目を大きく見開いて固まってしまった。
「あわわわ」
僕も慌てて挙動不審になる。
「かずまはちしゃなのこと、すきー?」
「……べ、別に」
「えー!」
ちさなはムーっと頬を膨らませ、かずまに突撃した。頭をかずまの胸にぐりぐりと押し付ける。
「やめろ、ばか、くすぐったい」
「うりりりりり!」
「ちさなっ! そーゆーことは駄目ーっ!」
三人で大混乱。僕はかずまに襲いかかるちさなを止めようとしたけど、本気で止めはしなかった。
何故なら、かずまが少し笑っていたからだ。
ここには小さな神様がいる。あと、たまに狐もいる。
神様は、僕の前で困ったように首を傾げた。
「人の寿命を伸ばす魔法、ですか?」
「天なら何か知ってるでしょ?」
期待を込めて天を見ると、彼は申し訳なさそうに目を伏せた。
「自然の摂理に反することは、即ち禁忌の術です。例え知っていたとしても、お教えすることは出来ないのです」
「何で? 死んだ人を生き返らせるわけじゃないのに」
「寿命が限られているのならば、それを伸ばすことは自然の摂理に反するとは思いませんか?」
「それは……」
水の入った小さなコップ。中身が容量いっぱいになっても、勝手にコップが大きくなることはない。
それが自然なんだ。
「珀弥、あなたのお気持ちはわかります。けれど、寿命を伸ばすだけでは根本的な解決には至りませんよ」
「じゃあどうすれば良いの?」
このまま、かずまが弱っていくのを黙って見ていろって?
そんなの、今までと変わらないじゃないか。
「あなたが出来ることは、運命を受け入れることです。あの子に残された尊い時間を、上手に使う事を考えましょう」
いつものほんわかとした雰囲気は無かった。ただ冷徹に、残酷に、事実だけを述べる神がそこに居た。
「何で……」
天まで諦めるんだ。どうして、どうして……!
「天がそんなこと言うの? 神様は人々を助けてくれるんじゃないの!?」
僕が詰め掛けると、天は真っ直ぐと見返してきた。その目は悲しみと悔しさで染まっていた。
「私とて、救える命があるならば救いたいです。……しかし、私は全知全能ではありません。私は……無力なのです……」
天は唇を噛み、握った手をプルプルと震わせていた。
ああ、天もどうしようも無いんだ。
助けたいと思っているのに、助けられない。悔しくて仕方ない。僕のように。
「……ごめん、言い過ぎた」
「良いのです。お気持ちはよくわかりますから、どうぞ、私を捌け口にしてください。あなたは子供の割に無理をし過ぎています」
酷いことを言ってしまったのにも関わらず、天はニコリと笑うのだ。
天はなんてお人好しなんだろう。
こんな神様、他を探しても見つからない。普通なら祟られてもおかしくないのに。
「ううん、大丈夫。本当にごめんね……」
無理してるのかな、僕。
「珀弥、人の生は長いか短いかではありません。限られた時間の中で、どう生きるかです。……どうか、大切になさってくださいね」
「……うん」
受け入れなきゃいけないのかな。残りの時間、悔いが残らないように。大切に過ごさなきゃ。
ううん、無理だ。僕には荷が重いよ。
* * * * *
「かずまーっ! おかえりー!」
「……ん、どけ」
今日はちさなが遊びに来る日。
かずまが帰ってきたと聞いて、真っ先にここに飛んできた。
ちさなはかずまに飛びつくと、かずまは迷惑そうに眉にしわを寄せる。でも、激しく抵抗はしなかった。
「やだー!」
「……ん」
ちさなはイヤイヤとかずまにくっ付き、かずまは困ったように僕に視線を寄越した。
それがおかしくて、つい笑ってしまう。かずまの困り顔は、あまり見る事が無いから。
「笑うな」
「ごめんごめん。ちさな、かずまが困ってるから、ちょっと離れようね?」
かずまはムッとした顔になり、僕は謝りながらちさなを窘めた。
「むー」
ちさなは不満げだったが、素直に離れてくれた。花マルをあげよう。
「そーだ! このまえはなびみたの!」
と、ちさなは唐突に声を上げる。
それは花火大会のこと。ちさなが話すっていうことだったっけ。
かずまはいきなり話し始めたちさなに面を食らっていたが、相槌を打ってちゃんと聞き始めた。
花火が大きかったとか、猫の形をしていたとか、女の子とお友達になりたかったとか、話の順序はバラバラで支離滅裂。
それでも、かずまは優しい目でちさなを見守っていた。
「それでねー、ちしゃな、はくらにすきーっていったらね、はくらもすきーっていってくれたのー」
「……へぇ」
かずまは僕を見て、何とも言えない表情になる。
ニヤニヤしてるというわけじゃないのに、『やるじゃんお前』って言っているみたいで。
「ちしゃなね、かずまもだいすきだよー!」
ちさなはかずまに抱き着き、頬っぺたにチュー。
これには流石のかずまも驚いたようで、目を大きく見開いて固まってしまった。
「あわわわ」
僕も慌てて挙動不審になる。
「かずまはちしゃなのこと、すきー?」
「……べ、別に」
「えー!」
ちさなはムーっと頬を膨らませ、かずまに突撃した。頭をかずまの胸にぐりぐりと押し付ける。
「やめろ、ばか、くすぐったい」
「うりりりりり!」
「ちさなっ! そーゆーことは駄目ーっ!」
三人で大混乱。僕はかずまに襲いかかるちさなを止めようとしたけど、本気で止めはしなかった。
何故なら、かずまが少し笑っていたからだ。
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