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土増園江
青い血の呪縛 1
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2007/7/13
周りがけたたましくなる―― 足音、足音の連続。
保育園の先生が、僕の元へ走ってくる。何か音を残して。
硬く熱された地面に倒れ、やけにまぶしすぎる晴天の空を、雲のない快晴の空を見て、しかし、何もできずに。
立つ気力もなく、そのまま突っ伏していた。何もできなかった。目の前に現れる暗い赤色の六角形と、模様。
周りの友達は、少し振り向いた後、それぞれのお遊戯に戻っていく。姿を見て。
―目を閉じるしかなかった。そこに抵抗はなかった。
次に目を覚ました時は、先ほどの空とはうってかわって、閉鎖的な場所だった。
天井があった。天井は白く若干暗い。天井はパネルとして区切られており、一日中枚数を数えるにも単調で飽きるほどの少なさ、と大きさだった。
そういえば妙にふかふかとしている場所だ。しかも、先ほどとは打って変わってひんやりとしている。
いいや、この場所そのものがひんやりとしているのだろうか?
―ここまで考えてようやく、「いつもの」が起きて、倒れて市立病院に搬入されたのだと気が付いた。
「園江……また倒れたの?無理してお外遊びしちゃだめ、って言ったでしょ?」
お母さんが見舞いに来ていた。安いお仕事の関係上で来ないと思っていたのに。
お母さんの心配する目線を気にしながら、僕は周りの観察をする。
花瓶、きれいなピンクのカーネーションが入っている。エアコン、涼しさを提供してくれる人間の心強い味方。
清潔感のある、毎日磨かれていそうな緑色の床。対してあまり手の回っていなさそうな天井。
点滴、今回は少し重い方だったらしい。エアコンを効かせるために締め切られた窓、ふんわり柔らかいレースのカーテン。
「周りに興味があるのはいいんだけど、無理しちゃだめって、ね」
わかっている。出来る限りのものを見ておきたいだけ。いろいろ試してみたいだけ。
しかし、思っていたことがうまく言えなさそうだから、なにも言えなかった。
それから、近くにある丸い板の上の長い針が少し進んだ後、お医者さんが入ってきた。
お母さんとお医者さんは、難しい話をしていて、どうにも会話を拾いきれず、あくびを漏らす。
―家のベッドよりも、病院のベッドの方がふわふわで清潔なのはなんか嫌だなあ
そう考えながら、ひんやりとしたベッドのシーツの心地よさに目を細めていた。
2006/04/06 Mother's part
パートに精を出すために、思い切って息子を保育園に入園させることにした。
その前に健康診断や知能検査などもあり、息子はきっと疲れていたのだろう。午後八時なのに、すでに寝ている。
この決断には、少々の時間を要したが、それでも周りの同年代の子供と同じぐらい集団生活ができることになったので、その点は
行政に感謝して、一主婦として喜びをも覚えた。
息子が集団生活に溶け込めるかどうかは不安だった。しかし1人残してパートに出るのも、それはそれで心配だった。
息子の血は、そこまで強くない。
昔、2年前に息子である園江の、血液型検査をしてもらったことがある。
結果は……『検査できなかった』のであった。
「新生児の血液は反応が弱い」だとか、O型のRh陰性だとか、そういう話ではなかった。
―そもそも、血液が赤色でなかった。正確には青色交じりの赤色、であった。
その事実を受け入れたくなかった。息子のすべての血を、赤くできたらいいのにと考えたりもした。
人間の体は、というよりも、一部を除く脊椎動物の体は、赤い血に適応するように作られているし、赤い血を使うようになっている。
その理論で行けば、息子は突然変異体であると、言いきってしまうような気がしていた。
事実、検査をしてもらった中津市立病院では対処しきれず、また、症例のサンプルということにもなり、
東京の方の医学部附属病院などに息子の血液が資料として送られたそうだ。
生後間もないころのヘマトクリット値は成人の値よりも高くなると言われているが、息子の場合それが逆だった。
赤血球のサイズは小球、ヘモグロビン濃度は低色素性。息子の体内ではそれが常時起こっているのだ。
だから、息子を運動させたりするときは、周りの人に見守ってもらうように母親である私から働きかけているし、
息子自身にも「無理はしないで、つらくなったら周りに言うのよ」と言い聞かせてきた。
そして母親である私が望むことは、「園江に人間として天寿を全うしてもらうこと」それだけだった。
出世もしなくていい。孫も特に望みはしない。ぶっちゃけ働いてもらわなくていい。ただ生きていてほしい。
どうか健やかに、と願うばかりだった。
心当たりはあるのだが、それを思い出すのももう嫌だ。あの男とのことは。
胎児に罪はない。宿った命に罪はないから、育てている。
宿った命に罪はないから、どうにか愛してあげたい。現在の主人とは血が通っていないけれど、それを原因として、
主人から虐待を受けたろうとしても、私は息子を守りたいし、そのためなら、また剣をこの手に収めて、
同じことを繰り返してもいい。牢屋に入るのだけは勘弁だから、流石に前みたいなことはやれないだろうが。
―私は、育てたいだけだ
2007/07/14 Sonoe's part
点滴は終わって、どうにか家に帰れることになった。
今日の分の保育園を休んでしまったのが気がかりだし、これからしばらくは病院に通って、注射を受けなければならない。
話を聞いていると、「鉄分が不足しているから、注射で補う必要がある」とのことだった。痛いのは嫌だ。
それに。僕の通う保育園では、登園すると出す冊子があって、一日登園すれば、その日付にはんこが押される。
注射のために10回もの登園を犠牲にしなければならないのだ。それも嫌だからできれば注射なんて受けたくない。
保育園は楽しいから、毎日行きたい、そのくらいに充実していたから。
「あ、園江君じゃん!!!また派手にぶっ倒れたんでしょ?さやか、わかるもん」
自分を『さやか』と呼んでいる、近所に住んでいる女の子が僕に話しかけてくる。
この女の子は苦手だ。少し、ませすぎているような、年相応でないような気概を感じるからだ。
しかし、家族ぐるみの付き合いともなれば、僕もそれに従うしかなかった。
「そうよ、また倒れちゃったの・・・気を付けてとは言ってるのにねえ」
「ほんとねー、これからまた保育園来なくなるの?さみしー」
「ずっとじゃないからそんなに心配しなくても・・・ね」
お母さんとさやかちゃんとの会話に気まずさを感じて、僕は家の入口の扉を開けようとするが、なかなか開かない。
つい本気で、ぐいっとやると、扉がねじれた。その音でお母さんに気付かれる。
「園江君さ、弱いところあるけど、でも強いんだよねー」
「せめて弱いだけにしてほしかったわ」
帰宅して、病院のそれよりもずっと味のあるごはんを食べる。
今日は僕の好物の豆腐ハンバーグと、少し苦手な鮭のムニエル。と、嫌いなおひたし。
お母さんは「好き嫌いなく食べなさい」と言うけれど、無理なものは無理なもので。
つい、おひたしを残したまま「ごちそうさま」をしてしまった。
お母さんは何も言わない。
本当は、注意してほしかった。無理なものを無理としか言えない自分が、無理だったから。
Mother's part
07年7月14日、あなたはやっと点滴を終えて、おうちに帰ってこれましたね。
あなたの運動の様子に、いつもハラハラして、お母さんは気が気でないのです。
ですが、あなたがいろいろなものに手を出して、いろいろなものを見て、経験していく、その
動きはとても重要ですし、いい骨になっていくでしょう。お母さんは応援しています。
お母さんは、あなたの、ことが、一番大事です。
まだ震える手でこれだけを書くと、私はベッドに倒れこんでしまった。
今日は、夫は残業。だから今夜はいない。
園江のそばについていてあげようか、それとも園江を孤独にして寝かしておくか。
アメリカの方だと、幼少のころから独りで寝かしておく育て方が多いらしいので、ここは日本だけれど、
洋風の生活が徐々に入り込んできている、いいやかなり根深くなっている今、真似せざるを得ないのだ。
もう一度、今日の日記を読み返して、
大きくなった息子が、これを見つけたとき、そして読むときどう思うだろうかと思いを巡らせて、
心も体も寂しい主婦は、寝に入る。
周りがけたたましくなる―― 足音、足音の連続。
保育園の先生が、僕の元へ走ってくる。何か音を残して。
硬く熱された地面に倒れ、やけにまぶしすぎる晴天の空を、雲のない快晴の空を見て、しかし、何もできずに。
立つ気力もなく、そのまま突っ伏していた。何もできなかった。目の前に現れる暗い赤色の六角形と、模様。
周りの友達は、少し振り向いた後、それぞれのお遊戯に戻っていく。姿を見て。
―目を閉じるしかなかった。そこに抵抗はなかった。
次に目を覚ました時は、先ほどの空とはうってかわって、閉鎖的な場所だった。
天井があった。天井は白く若干暗い。天井はパネルとして区切られており、一日中枚数を数えるにも単調で飽きるほどの少なさ、と大きさだった。
そういえば妙にふかふかとしている場所だ。しかも、先ほどとは打って変わってひんやりとしている。
いいや、この場所そのものがひんやりとしているのだろうか?
―ここまで考えてようやく、「いつもの」が起きて、倒れて市立病院に搬入されたのだと気が付いた。
「園江……また倒れたの?無理してお外遊びしちゃだめ、って言ったでしょ?」
お母さんが見舞いに来ていた。安いお仕事の関係上で来ないと思っていたのに。
お母さんの心配する目線を気にしながら、僕は周りの観察をする。
花瓶、きれいなピンクのカーネーションが入っている。エアコン、涼しさを提供してくれる人間の心強い味方。
清潔感のある、毎日磨かれていそうな緑色の床。対してあまり手の回っていなさそうな天井。
点滴、今回は少し重い方だったらしい。エアコンを効かせるために締め切られた窓、ふんわり柔らかいレースのカーテン。
「周りに興味があるのはいいんだけど、無理しちゃだめって、ね」
わかっている。出来る限りのものを見ておきたいだけ。いろいろ試してみたいだけ。
しかし、思っていたことがうまく言えなさそうだから、なにも言えなかった。
それから、近くにある丸い板の上の長い針が少し進んだ後、お医者さんが入ってきた。
お母さんとお医者さんは、難しい話をしていて、どうにも会話を拾いきれず、あくびを漏らす。
―家のベッドよりも、病院のベッドの方がふわふわで清潔なのはなんか嫌だなあ
そう考えながら、ひんやりとしたベッドのシーツの心地よさに目を細めていた。
2006/04/06 Mother's part
パートに精を出すために、思い切って息子を保育園に入園させることにした。
その前に健康診断や知能検査などもあり、息子はきっと疲れていたのだろう。午後八時なのに、すでに寝ている。
この決断には、少々の時間を要したが、それでも周りの同年代の子供と同じぐらい集団生活ができることになったので、その点は
行政に感謝して、一主婦として喜びをも覚えた。
息子が集団生活に溶け込めるかどうかは不安だった。しかし1人残してパートに出るのも、それはそれで心配だった。
息子の血は、そこまで強くない。
昔、2年前に息子である園江の、血液型検査をしてもらったことがある。
結果は……『検査できなかった』のであった。
「新生児の血液は反応が弱い」だとか、O型のRh陰性だとか、そういう話ではなかった。
―そもそも、血液が赤色でなかった。正確には青色交じりの赤色、であった。
その事実を受け入れたくなかった。息子のすべての血を、赤くできたらいいのにと考えたりもした。
人間の体は、というよりも、一部を除く脊椎動物の体は、赤い血に適応するように作られているし、赤い血を使うようになっている。
その理論で行けば、息子は突然変異体であると、言いきってしまうような気がしていた。
事実、検査をしてもらった中津市立病院では対処しきれず、また、症例のサンプルということにもなり、
東京の方の医学部附属病院などに息子の血液が資料として送られたそうだ。
生後間もないころのヘマトクリット値は成人の値よりも高くなると言われているが、息子の場合それが逆だった。
赤血球のサイズは小球、ヘモグロビン濃度は低色素性。息子の体内ではそれが常時起こっているのだ。
だから、息子を運動させたりするときは、周りの人に見守ってもらうように母親である私から働きかけているし、
息子自身にも「無理はしないで、つらくなったら周りに言うのよ」と言い聞かせてきた。
そして母親である私が望むことは、「園江に人間として天寿を全うしてもらうこと」それだけだった。
出世もしなくていい。孫も特に望みはしない。ぶっちゃけ働いてもらわなくていい。ただ生きていてほしい。
どうか健やかに、と願うばかりだった。
心当たりはあるのだが、それを思い出すのももう嫌だ。あの男とのことは。
胎児に罪はない。宿った命に罪はないから、育てている。
宿った命に罪はないから、どうにか愛してあげたい。現在の主人とは血が通っていないけれど、それを原因として、
主人から虐待を受けたろうとしても、私は息子を守りたいし、そのためなら、また剣をこの手に収めて、
同じことを繰り返してもいい。牢屋に入るのだけは勘弁だから、流石に前みたいなことはやれないだろうが。
―私は、育てたいだけだ
2007/07/14 Sonoe's part
点滴は終わって、どうにか家に帰れることになった。
今日の分の保育園を休んでしまったのが気がかりだし、これからしばらくは病院に通って、注射を受けなければならない。
話を聞いていると、「鉄分が不足しているから、注射で補う必要がある」とのことだった。痛いのは嫌だ。
それに。僕の通う保育園では、登園すると出す冊子があって、一日登園すれば、その日付にはんこが押される。
注射のために10回もの登園を犠牲にしなければならないのだ。それも嫌だからできれば注射なんて受けたくない。
保育園は楽しいから、毎日行きたい、そのくらいに充実していたから。
「あ、園江君じゃん!!!また派手にぶっ倒れたんでしょ?さやか、わかるもん」
自分を『さやか』と呼んでいる、近所に住んでいる女の子が僕に話しかけてくる。
この女の子は苦手だ。少し、ませすぎているような、年相応でないような気概を感じるからだ。
しかし、家族ぐるみの付き合いともなれば、僕もそれに従うしかなかった。
「そうよ、また倒れちゃったの・・・気を付けてとは言ってるのにねえ」
「ほんとねー、これからまた保育園来なくなるの?さみしー」
「ずっとじゃないからそんなに心配しなくても・・・ね」
お母さんとさやかちゃんとの会話に気まずさを感じて、僕は家の入口の扉を開けようとするが、なかなか開かない。
つい本気で、ぐいっとやると、扉がねじれた。その音でお母さんに気付かれる。
「園江君さ、弱いところあるけど、でも強いんだよねー」
「せめて弱いだけにしてほしかったわ」
帰宅して、病院のそれよりもずっと味のあるごはんを食べる。
今日は僕の好物の豆腐ハンバーグと、少し苦手な鮭のムニエル。と、嫌いなおひたし。
お母さんは「好き嫌いなく食べなさい」と言うけれど、無理なものは無理なもので。
つい、おひたしを残したまま「ごちそうさま」をしてしまった。
お母さんは何も言わない。
本当は、注意してほしかった。無理なものを無理としか言えない自分が、無理だったから。
Mother's part
07年7月14日、あなたはやっと点滴を終えて、おうちに帰ってこれましたね。
あなたの運動の様子に、いつもハラハラして、お母さんは気が気でないのです。
ですが、あなたがいろいろなものに手を出して、いろいろなものを見て、経験していく、その
動きはとても重要ですし、いい骨になっていくでしょう。お母さんは応援しています。
お母さんは、あなたの、ことが、一番大事です。
まだ震える手でこれだけを書くと、私はベッドに倒れこんでしまった。
今日は、夫は残業。だから今夜はいない。
園江のそばについていてあげようか、それとも園江を孤独にして寝かしておくか。
アメリカの方だと、幼少のころから独りで寝かしておく育て方が多いらしいので、ここは日本だけれど、
洋風の生活が徐々に入り込んできている、いいやかなり根深くなっている今、真似せざるを得ないのだ。
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