Erikice Fierz 前日談集

仁川路朱鳥

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土増園江

鮮やかな恒星

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BC03
私たちは、ただ遠くの希望を聞きたかっただけだ。故郷さえ遠くにある現実を、受け入れたくないのではなかった。
一夜一夜を過ごすことはできた。食料にしたって、十分なほどだし、今だけでなく未来の私たちも生活できるように、栽培の設備も整えてある。
なぜ私たちはこの漆黒の海を漂うことになったか。あれは、気の狂った研究者が作り出した一つの種族が私たちの故郷に蔓延したからだ。確かその時代は、急激な環境の変化で気候が総崩れになっていた、と聞いた。原因は、私たち人間の、故郷の開発によるものであった。そうして大気中に舞い上がった様々な物質が世界を汚していった。私たちは手軽なもののために自らの耳も、脳も溶かしていたのだという。
その種族の血は鉄の匂いがしない、私たち人間のものとは違った。研究者が言うに、鉄のない血の方が大気を汚さない、と。この論調に誰もが従うしかなかった。誰もが従うしかなかった。
この海は広く、音もなく、そして、あまりにも広く……一生のうちにどれだけ進めるかなんて誰も知らなかった。私たちはお互いに首輪を掛けて、洞窟に木材を入れ続けた。降る白濁が、記述用の液体に思えたのは、性質が似通っているからだと思えた。ただ私たちは、欲望を叶え続けていた。まるで故郷のようだった、その時だけは人間でいられるような、気さえした。

最早何代経ったかわからない。
この海の中では人間の一つの命でさえ一秒のようだった。これを、あの種族たちなら、本当に一秒として過ごすのかと思うと気が気でなかった。思わないようにしていた。こうして、時間を積み重ね続けて、それを人生と思い続けなければならない義務を背負う生活をしていた。性だってだ。生殖と生殖と産卵と散乱の死の繰り返す中で、どれだけの尊厳が失われたか、定かでなかった。
世代を重ねるにつれて教育もおじゃんになってきたと年長者が言っていた。ここ数世代では文字すら教えていないのだと。時には論争へ、戦争にもなった。命を落とすこともあった、聞いていられなかったのだ。
故郷の文字に触れているとどうしても身体中の血が沸き立つので触れたくなかった。何によってか?おそらくそれは怒りか、畏れ。
今のままでいたいと思う気持ちもあったが、先祖代々から伝えられた異星への憧れをこれ以上減らすわけにはいかなかった。だから私はこれからの子供たちに教えていた、これから向かう場所がどれだけ素晴らしいか、どれだけ危険でないのか、と。一緒に研究者と例の種族の話もした。具体的に名前は言いたくなかった、今も私たちの脊髄を縛り付けるように感じていたから。

もはやなんせだいたったかわからない。
いつまでたってもせかいはない。
せいかいのせかいもない。
ねえ、ときどきかんがえるよ、ここにうまれなかったこと。
ねえ、ねえ、あなたはだれ?
わたし…… しんじられない。
信じられない。若者の言葉が後退していく。私の頭髪のように!音節文字は子供のものだから使うなと教えているのに今の大人でさえ平気で使っている。堕落した。早く、早く、正解の世界を教えてほしい、ああ、神よ、至高にして幼子たる永遠の隠者Ordishentよ!

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このせかいはげんかいをむかえた。
もはやわたしたちにみらいはない。
かみはなにもかたらず、みているわたしも、おまえもなにもすくえない、まがいもの。
このよのすべてがまがいものなら ほんとうはどこにある?
しんじつはどこにある?
しらない
わたしたちはしらない
しりようがない
ああもうすぐせかいがおわるか
わたしたちはじさつがしたい
なんのきぼうもない
しょくりょうはあるのにいのちがない
こころがない
あたまがない
あたまがいたい
しんぞう
かみさまおまえはやくたたず
ぞんざいなそんざいのやくたたず
ただつったっていえだけ
ああああああああああああああ
わたしたちのけつえきがふっとうしそうです
わたしたちのせきついがはなれていきます
わたしはしにます
だれでもないだれかのために
だれもいないだれかのために

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の心臓をはかいできなかった
わたしのこころはすでにみている
この計画は最初から失敗だったんだ、そうでないなら私の目の前になぜ吸血鬼がいる?
なぜ誰も気づかなかった?
もはやこの中には私ただ一人が残っている。
他は既に死んでいた。

もはやもういい。
目標は目の前だが、この星に吸血鬼を招き入れるわけにはいかなかった。死んでもらわなければならない。
私は先程襲われた腹を抑えて、堕ちろ堕ちろと願いながらあらゆる物を武器にしようと試みた。彼は硬すぎた。
もういらない配管から、植木鉢から、食器から、刀から、色々持ち出した。けれど無駄だった。彼は硬すぎた。しかし私など気にも留めていなかった。
もういい、もういい。腹の命ごと消えれたならそれでもいい、故郷なんざ糞食らえ、と私は落ちていた銃を拾い、撃つ。
私は妊娠したらしい。彼は死んだらしい。
死んだ仲間を埋めていたこの土の中に、私たちを遠くに向かわせる原因を埋めるのはとても心が痛かった。そうしなければ私が生きられない、けれど私は埋めることができなかった。
私はどうすればいい。
いっそのこと、自殺してやろうか。
あの吸血鬼の子供を宿すだなんて、生まれたらとんでもないことになりそうだ。
先祖がどれだけ願った大地でも、私にとっては生きたくもない場所だったとは。なんという皮肉か。
ふと腹の中から少し衝撃があった。
足だ。腹の中の子供が私を蹴っていた。
思わず私も蹴った場所に手を置いて、子供の足がわかったら掴もうとして、自分の肉を摘んでいた。こうしている間にも、何か私の中で咲くものがあった。


AC2013 10/27

「園江、このお寝坊さん!」

下からお母さんが呼びつけていた。今日は日曜日のはずなんだが……それほどまでに俺に知らせたいことがあると言うのか。

「はい、電気ケトル!今年の誕生日プレゼント!」

まさか、本当に実在するとは思わなかった。『子供の誕生日プレゼントに家電を買う親』。俺は南部鉄器の方が嬉しかったかもしれない。鉄が入るんだ。
ああ、さっきのは夢だったらしい。ここ最近変な夢を見るので、そのうち本にして出版してやろうかと思ったりもした。環境があれば。

しかし、もしあの夢の、女の人が、俺の母親だったとしたら……これ以上は考えたくないな、だって、未来には希望がいっぱいあるってお父さん言ってたから、それは無いと思うな。
けれども少しだけ考えることがある。うちの家族はどことなくおかしい。お父さんのお父さんは大金持ちだ。ついでにお父さんは沢山稼げる仕事を持っている。母親と、俺と、多賀江を一緒に過ごさせても何の問題もないどころか、毎月の給料で新しいゲーム機を買えるくらいには(買ってもらったことはない)。
お父さんの方には沢山親戚や家族がいるのに、お母さんのお父さんや、お母さんに会ったことや聞いたことすらない。写真すらない。知り合いもいない。かといって外国にいたとかそういうわけでもない、けれど……
これ以上考えてもよく分からない。なので紅茶でも飲んでやろうと思って、冷蔵庫の上にあるティーバッグを一つ持って行って、電気ケトルでお湯を沸かして飲んだ。

思った以上に苦かった。もう二度と飲まないと誓っては飲んで、その度に苦いと思った。
砂糖を入れようとしたら瓶の中身を一気に入れてしまった。さて、どうしよう、これ……
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