惑星の止血〜私が、噴火を止めるんですか!?〜

仁川路朱鳥

文字の大きさ
25 / 41

幕間1 民話の怪

しおりを挟む
RS.XXX743年 3月21日 雨のち強風 星の声は静か

「きょうも史料検証お疲れさま!ゆっくり休んでね!」

 とは、プリエステ群地在住の研究計画の先達からの言葉だ。私はサーファン群地・レディス属土の在住で、それなりに都会に住んでいるつもりだし、毎日家に鍵をしている。
 この前、私の通う教育機関が爆破されて、ついでに就職先であるエレイディナ合同株式会社も爆破されて、私は暇人と化したので、暇をつぶすべくフィスタフィラで適当に、日々更新される情報の中を泳ぎ回っていて、この研究計画の話を見つけた。曰く、「サーファン群地・トリエントス属土にある元ラヴァラサ村についての研究」だそうで、偶然にも近所に住んでいる私は、これ幸いと応募した。
 もっとも、現在のラヴァラサ村に定住する人間はおらず、一帯はただの果樹園の集合と化しているが……

 先達の言葉に甘えて、少々の休息を取る。その中でも私の頭脳は、酷使され続けた。
 ━━教育機関が爆破されたから、それが再建するまでに代わりに通う場所を確保しないといけない。就職先に関しては、どうも中身そのものがダメになったようなので、こちらも別で探さないといけない。どちらにせよ、生活費は尽きないだろうが、そろそろ親族に仕送りを要求しないといけないだろう。しかし確か、親族の何人かがエレイディナに勤めていたはずだ。ならば、今後の仕送りの金額は激減、私の生活は一変……免れないだろう。
 現実逃避に、これまで入手した史料を確認する。なんとなくで手にとった一枚には、このように書かれていた。

【「キトリ。ミファース家の人間を余さずすべて連れてこい。生きている人間も、死んだ人間もだ。この噴火の周期では、そこまで人数も多くならないだろう。全員連れてこい。この場で、殺してやる」
「どうして!? どうしてナヤリフスさんが、そこまで怒るんですか!?」
「どうしてって何も、子どもを大事にしない親なんて、いてはいけないだろ?」】

『子どもを大事にしない親なんて、いてはいけない』か。
 確か、エレイディナ爆破事件に関しては、昔からの貧困が原因だとかどうとか報道されていたが……命の危機に達しているにも関わらず、子どもを守り続ける親も少し嫌だな、と私は思った。あまり分け与えすぎてはいけないと思うし、子どもがある程度自立して、動ける年になったら。少しばかり手伝いを要求する方が、子ども本人のためにもいいはずだ。
 ……などと、考え事をしていれば、電話が鳴った。

「はじめまして。いきなりで申し訳ないが……夕ご飯の煮物を作りすぎてしまった。家の連中も出払っていて、私しか食べる者がいないから、消化しきれなくて……もしよかったら、おすそ分けしたいところだが。どうだ?」

 間違いなく、男性の声だ。これは聞き惚れるほどの重低音の声で、機械を通したような無機質な低音ではなく、生だ。生の重低音だ。
 名前を名乗っていないだとか、煮物のおすそ分けなら直接訪問してくれだとか、色々と突っ込みたいところはあるが。なぜ煮物を余らせた。そしてなぜ作った。小さい頃に聞いた、標準的な家電の評価が頭によぎる。あまり面倒になってもいけないから、製造元ばりの回答をしておく。

「いくつかの容器に分けて冷蔵庫に入れておけば、扉を激しく開け閉めされない限り七日間はおいしくいただけるでしょうが、そちらは検討されましたか?」

 それを聞いた電話向こうの男性は、少しだけがっかりしたような声を出して、電話を切った。『さっきの電話はなんだったんだろう』と私は考えるが、集合住宅でよくある日常的なそれとしか思えず、私は先ほどの出来事を忘れて、眠ろうとした。

(そういえば、きょう検証した史料の中に、ミファース=キトリの血液の成分表がなかったな。時代背景的にはない方が普通だろうけど、ナヤリフス=トテフならやってくれそうだしな、まだ出てきていないだけか?)

 結局、考え事はし続けた。

RS.XXX743年 3月22日 晴 星の声は静か

 私は起きて、研究計画のために使っている機器の前に座ろうとした。すると、机の上に何かが置かれていると気づく。それは、二つあった。

 一つは、よく冷えた水が入った容器。霜は新しい液体となって、机の周りに散らばっている。近くには木製の書簡が置いてあり、内容はこうだ:『あまり体によくない飲み物ばかり摂っていてはいけない』。確かに、ここ最近は研究に精を出していて、肉体に悪影響を及ぼすであろう、意識の覚醒作用のある飲み物ばかり飲んでいたから。しかし、周りの人間が私の飲生活(もしくは食生活か?)など知るはずもない。よく行く売店の従業員だって、一人の客をここまで覚えているわけがないし、彼らにしてもそんな余裕はないはずだ。親戚や親には、仕送りでもらった金の使用用途は伝えていない。先方が「それでいいよ」と言うから、それはありがたく使わせていただいているが。

 もう一つは、硝子製の容器の中に入った、生温かい液体だった。それは密閉されており、いかなる衝撃もものともしない。容器の口……おそらく、内容物の入ってきたであろう場所にはやはり木製の書簡が結ばれていた。内容というよりは、人の名前が現代の文字体系で刻まれており、その下には木を削った修正の跡がある。古くなった木だからか、素材は柔らかくなっており、修正も簡単だったのだろうと推測できた。で、肝心の人の名前だが『ミファース=キトリ』……つまり、いま私たちが調べている伝承の女性だ。液体と、名前━━内容物はおそらく、血液だろうか?

 ……誰が、何の目的で、このようないたずらを仕掛けた?
 研究計画の先達がこのようないたずらをする人間とは考えられないし、他の参加者に至っては、いまのところ五人いて、しかも全員違う大陸に住んでいる。いたずら好きな人物が混ざっている可能性はあるだろうが、それにしたって急に飛んできて、私が寝ている間に部屋に入り込む行為は不可能だろう。第一、私は部屋に鍵をかけているし、部屋の位置まで教えておらず、せいぜい出身の群地ぐらいだ。
 いたずら目的で自分の血を抜いて、このような頑丈な試験管に入れるなど、よほどの遊び心のある科学者しかやらないだろうし、私の知る科学者連中に、遊び心などないはずである。もしかして、いや、まさかな……可能性はいくらでもある。物事が千の貌を持つように。決めつけてはいけない。ましてや、民族伝承の中に組み込まれた神格に対して。しかし、それしか道はない。

 しかし、これは確実に血液だ。まだ生きているような感触だが(採血後から時間が経っていないように思われる)、そのうち内容物が沈殿して、あとは腐ってしまうだけだろう。確か、知人で科学を勉強している女性がいたはずだ。『アレクト=フィーツ』、彼女の現在の連絡先を知っておいてよかった。いつか必要になるだろうと思って、頑張って入手した。
 早速、電話をかけてみた。きょうは休日なので、確実に家にいるはずだ。

「もしもし? お宅にアレクトさんはいらっしゃいますか?」
「はい、アレクトです……あれ、どうしたの? 何か用事でもあった? 君からかけてくるなんて、中学生時代以来だよね」
「そう! 用事があって……研究の手伝いをしてほしいんだ」
「なになに? どんな研究?」

「きょう起きたら、出処不明の血液入りの試験管が、私の部屋に置いてあって……まだ中身は暖かいよ、まるできょう採血されたみたいに」
「それの出処が知りたいの? それとも栄養とか、そっち?」
「両方」
「わかった! 保温便できょう中にでも送っといてね」

 非常に円滑に、依頼ができた。保温便で送ると若干送料が嵩むが、これも研究のためだ、仕方あるまい。紙幣の束と、血液入りの試験管を厳重に持って、郵便局へ向かう。しかし、ふと道中考える。証拠も立証もないただのこじつけに近いが、いまのところもっとも可能性が高い。

(きのうの電話の主……煮物を作りすぎた男性ぐらいしか、考えられないな)

 そして、この洞察から、こじつけのこじつけに近い真相にたどり着く。

(もし、あの血液と水を置いていった犯人がナヤリフス=トテフだったとして、あの邪神はかつて封じられ、忘れ去られたはずだが……私たちが研究してしまったから、復活を果たしてしまったのか?)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜

シュガーコクーン
ファンタジー
 女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。  その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!  「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。  素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯ 旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」  現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...