支配者は深淵の扉をこじ開ける

舞米

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24 【空間転移の初起動】

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(……こいつ、本気か)
僕は、手のひらの上で、僕の「血」と「契約」して温かく脈打つ『時詠石』を握りしめた。

目の前の男――ガイゼルは、僕の「魔術スキル」を、彼自身の「道具」として、完璧に「指導」し、「管理」するつもりだ。

「……あー、かったるい」

僕は、本音を隠さずに呟いた。

「……僕の研究は、僕が『怠惰』に生きるためにやってるんだ。お前の『指導』なんか、余計なお世話だ」

「……そうか」

ガイゼルは、僕の「反抗的な態度」など、まるで意に介さなかった。

「……だが、お前が今食っている『食事』も、お前の猫が食っている『干し魚』も、俺が『投資』している。その『リターン』として、お前の『研究成果』を最適化するのは、支配人ルーラーとして『合理的』な判断だ」

(……出たよ、合理的)
僕の「信条」だったはずの言葉を、この男は、僕を「縛る」ために使う。

僕は、心の底から「チッ」と舌打ちし、この「議論」を続けるのを、諦めた。
口で勝てる相手じゃない。

「……分かったよ。やればいいんだろ、やれば」


僕は、ガイゼルに背を向け、床に描いた「魔術陣」の前に、再びしゃがみ込んだ。
『時詠石』との契約は、済んだ。
『第四巻』の理論も、頭に入っている。
魔力も屈辱だが満ち足りている。

「……座標、『西地区・マルコ爺さんの小麦粉倉庫』」

僕は、目を閉じ、転移先一番安全で、食料に近い場所の「座標」を、術式に組み込んでいく。

(……これで、発動するはずだ)
僕は、魔術陣の「起動」のルーンに、手を伸ばした。


「――待て」
背後から、低い声がした。

「……なんだよ! 今、集中してんだ!」

「……その『術式』。座標の指定が『甘い』」

(……は?)
僕は、思わず振り返った。
ガイゼルは、いつの間にか、僕の「真後ろ」に立っていた。
そして、僕が「しゃがんでいる」のを、高い場所から「見下ろして」いた。

「……『小麦粉倉庫』。それだけでは、座標が『ぼやけて』いる」

「……!」

「……お前、あの倉庫の『どこ』に飛ぶつもりだ?
魔術は、お前の『イメージ』を『物理法則』にねじ込む術だ。イメージが甘ければ、お前は『壁の中』か『小麦粉の袋の中』に『融合』して、死ぬぞ」

(……こいつ!)
僕は、戦慄した。
僕が、何週間もかけて、ようやくたどり着いた「理論」の「欠陥」を、この男は、たった「一瞥いちべつ」しただけで、正確に「指摘」してきた。

「……うるさい。僕の計算では、誤差は『床の上』に収まるはずだ」

「……『はず』で、命を懸けるのか。非効率だな」
ガイゼルは、そう言うと、僕の隣に、無造作に、片膝をついた。

(……!)
僕の「テリトリー魔術陣」に、平然と踏み込んでくる。

僕は、反射的に距離を取ろうとしたが、彼の「手」が、それより早かった。

「……ここだ」
ガイゼルは、僕が描いた魔術陣の「座標指定」のルーンを、黒い手袋をはめた「指先」でトン、と示した。

その指が、僕の「耳」の、すぐそばにある。
鉄とインクの匂いが、濃すぎて、息が詰まりそうだった。


「……『倉庫』という『面』ではなく、『倉庫の北西の隅、床から三フィート上』という『点』で指定しろ」

「……!」
(……そんな、精密な指定、どうやって……)

「……まさか、お前、あの倉庫の『座標』まで、正確に……」

「……俺の『城』の『食料』は、一部、あのマルコという爺の店から『仕入れさせている』」

「……!」
(……僕の『補給ルート』を、こいつは、とっくに『掌握』していたのか!)

僕が、その「事実」に愕然としていると、ガイゼルは、僕の「金色の髪」が、研究の邪魔になるかのように、彼の「指先」で、僕の「耳」にかかっていた「一房」を、無造作に、かき上げた。

(……!)
それは、今までの「撫でる」ような、執拗な「手つき」ではなかった。
まるで、邪魔な「物」でも払うかのように、合理的で、無慈悲で、だが、その「指先」が、僕の「耳の裏」の「皮膚」に触れた瞬間、僕は、ビクッ、と。
全身が「硬直」するのを、感じた。


「……いい『髪』だ」
ガイゼルは、僕の「耳」に、わざと聞こえるように、低い声で呟いた。

「……だが、今は『研究』の邪魔だ」
彼は、その「かき上げた髪」を、そのまま、僕の「耳」に、かけ直した。


その一連の「仕草」が、僕を「道具」として扱いながら、僕の「全て」を「所有物」として「検分」しているようで、僕は、屈辱に、顔がカッと熱くなるのを、感じた。


「……っ、触るな!」
僕は、彼の「手」を、振り払った。

「……分かったよ! 分かったから、どっか行け!」

「……フン」
ガイゼルは、僕の「反抗」を、鼻で笑うと、満足そうに立ち上がり、数歩、下がって、再び、壁に寄りかかった。

「……やれ。さっさと『飛べ』」

(……こいつ!)
(……見てろよ!)
僕は、屈辱を「魔力」に変えた。
ガイゼルに「指摘」された通り、術式座標を、より「精密」なものに、修正する。

(……『北西の隅、床上三フィート』)
(……よし!)
僕は、魔術陣の中心に置かれた『時詠石』に、
両手をかざした。

「契約」した石が、僕の「魔力」に「共鳴」して、温かく、脈打つ。



「――いけえええええ!!」
僕の、ありったけの「魔力」と「意志」が、
『時詠石』を通して、魔術陣に流れ込む!


カッ!!!
紫色の光が、部屋全体を焼き尽くす。
黒猫が、眩しさに「ニャア!」と悲鳴を上げた。
僕の体が、足元から、ゆっくりと「光の粒子」に変わっていく。

(……!)
浮遊感。
いや、違う。
空間が「裏返る」感覚。
景色が、黒曜石の「檻」から、一瞬で「ノイズ」に変わる。

(……成功、した!)
僕は、勝利を確信した。
これで、僕は「自由」だ。
この術式さえあれば、僕は、いつか、ガイゼルの知らな
――次の瞬間。


僕の「視界」は、光のノイズから、
見慣れた「薄暗い空間」へと、切り替わった。

「……着いた」
(……!)
僕は、自分の「足」が、「床」の上に、ガイゼルの言った通り、床上三フィート(約90cm)の空中に一度出現し、そのまま着地しているのを、確認した。

周囲は、小麦粉の懐かしい「匂い」。
マルコ爺さんの、「小麦粉倉庫」だ。

「……やった」
僕は、震える声で、呟いた。

「……やったぞ! 空間転移だ! 成功だ!」
僕は、ガッツポーズをした。

「……見たか! ガイゼル! これで、僕は、お前の『檻』からだって……」
僕は、意気揚々いきようようと、振り返った。


――そこに、
「男」が、立っていた。


「…………え?」
彼は、僕が、転移してきた「魔術陣の光」と「逆」の、倉庫の「入り口」の「扉」に、腕を組んで、寄りかかって、僕が「転移してくる」のを、まるで「待ち合わせ」でもしていたかのように、平然と、
眺めていた。

短く刈り揃えられた、黒髪。
深い、青い瞳。

「……ガイゼル」

「……遅かったな」
ガイゼルは、僕の「驚愕」の顔を、心底「楽しそう」に、見つめながら、言った。

「……俺は、お前が『術式を修正』している間に『歩いて』ここに来た」

「…………」
(……歩いて?)
(……僕が、研究と準備で『数時間』かかった場所に?)
(……この男は、僕の『城』から、ここまで、『数分』で、歩いてきた、と?)

僕は、理解した。
僕の「怠惰の城」は
ガイゼルの「本拠地要塞」と、僕が「補給ルート」にしていた、この「パン屋」と、全て、「地下通路」で、繋がっていたのだ。


「……あ」
僕は、手に入れたはずの「究極の自由空間転移」が、目の前の「圧倒的な支配者ガイゼル」の、「手のひらの上」の「余興」でしかなかったことを、悟った。


「……さあ」
ガイゼルは、僕に、手を差し伸べた。

「……『実験』は、終わりだ。
『城』に、帰るぞ。ノア」








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