支配者は深淵の扉をこじ開ける

舞米

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25 【新たなる契約】

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「……俺は、お前が『術式を修正』している間に、『歩いて』、ここに来た」
ガイゼルの、冷徹な「事実」が、小麦粉倉庫の静けさの中に響き渡る。

僕は、転移に成功した高揚感から、一気に「絶望」の底へと叩き落とされた。

(……歩いて?)
(……僕が、命がけで面倒くさい思いをして手に入れ、数週間かけて研究し、魔力を振り絞って、ようやく成功させた「空間転移」)
(……その「目的地」が)
(……こいつの「散歩コース」だった?)



僕は、理解した。
僕の「怠惰の城地下遺跡」も、
僕の「補給ルートマルコ爺さんの店」も、
全て、
ガイゼルの「本拠地要塞」と、
彼が掌握する「地下ネットワーク」で、
とっくの昔に「繋がって」いたのだ。


僕が「強奪」した『時詠石』は、こいつを「呼び寄せるビーコン」にしかならず、僕が「完成」させた『空間転移』は、こいつの「手のひらの上」でのお遊戯でしかなかった。

(……あ)
(……ダメだ)
(……もう、面倒くさい)
膝から、力が抜けていく。
もう、逃げられない。

逃げる「手段」も、「場所」も、この男によって、全て「塞がれて」いる。
僕は、その場に、へなへなと座り込みそうになった。

「……さあ」

ガイゼルは、そんな僕の「絶望」など、どうでもよさそうに彼は差し出した「手」を、引っ込めない。
「……『実験』は、終わりだ。『城』に、帰るぞ。ノア」


「…………」
僕は、その「手」を、
そして、僕を「支配者」の目で見下ろす、ガイゼルの「顔」を、ぼんやりと、見上げた。

(……負けた)
(……僕の、完敗だ)
(……スキルでも、知識でも、財力でも、行動力でも、何一つ、勝てない)
「殺す」なら、とっくに殺されていただろう。
「売る」なら、とっくに売られていただろう。
だが、こいつは「そうしなかった」。
こいつは、僕を「飼育」する、と決めた。

最高の「食事」を与え、
最高の「寝床ベット」を与え、
最高の「玩具魔道具・ガラクタ」を、わざわざ「再建」してまで、僕を、彼の「城」に「繋ぎとめた」。


(……なぜ?)
僕の「スキル情報収集能力」が、欲しいから。
彼の「覇権」のための、「道具」として。

(……待てよ)
僕は、絶望の「底」で、ふと、ある「可能性」に思い至った。

(……こいつは『合理的』な男だ)
(……僕を『道具』として、最大限に『利用』したい)
(……だから、僕は『生かされて』いる)
(……そして、僕が『最高のパフォーマンス』を発揮できるよう、僕の『要求』を、全て『飲んで』いる)
(……『仕事情報収集』さえすれば、『趣味研究』の時間をくれる)
(……『仕事』さえすれば、『食事』も『猫の餌』も、くれる)
((……『指導』という名の『干渉』は、最高にウザいが))

(……これって)
僕は、思考を「切り替えた」。

(……僕が、地下遺跡で食料乾パンの心配をしながら、たった一つの『魔導書』のために、命がけ筋肉痛になりながらで強盗をしていた『あの生活』より)
(……この『最強の男』に『寄生』して、)
(……こいつの『財力』と『権力』を『利用』して、)
(……安全な『檻』の中で、)
(……僕は、僕の『研究』にだけ、没頭できる)
(……これって、僕が望んでいた『究極の怠惰』の、一つの『完成形』なんじゃないか?)

「……ふ」
僕は、思わず、笑った。

「……ふ、ふふふ」
「……あー、そうかよ。そういうことかよ」

「……何がおかしい」
ガイゼルは、差し出した手の前で、いきなり笑い出した僕を、怪訝そうに、眉をひそめて、見ている。
僕は、ガイゼルの「手」を、パンッ、と。
軽く、叩いた。

そして、僕は「自力」で、
(まだ、転移の疲労で、足がガクガクするが)
立ち上がった。

「……おい、ガイゼル」

「……」
(……こいつ、僕が『呼び捨て』にしたことに、驚いてやがる)
僕は、ニヤリ、と笑ってやった。
もう「怯える」のは、終わりだ。

こいつが「支配者」なら、僕は「最高の寄生虫」になってやる。

「……僕、『空間転移』に成功したよな?」

「……ああ。俺の『指導』のおかげでな」

「……うるさい。結果が全てだろ。『成果』は、出した」
僕は、ガイゼルを、真っ直ぐに、見据えた。

「……僕は、腹が減った」

「……」

「『城』に帰る前に、ここの『焼きたてのパン』が食いたい」
僕は、マルコ爺さんの「住居」の方を、顎でしゃくった。

「今、この場で、だ。
『成果』を出した『道具』への、『正当な報酬』として、僕の『支配者ルーラー』である、お前が、
僕に、それを『用意』しろ」

「…………」
ガイゼルの「青い瞳」が、
僕の絶望から一転、ふてぶてしくなった「態度」を、面白そうに、細められた。

彼は、僕が「逃げる」ことを「諦めた」こと、
そして、彼の「ルール」の上で、「新たな契約」を「要求」してきたことを、正確に「理解」した。

「……いいだろう」
ガイゼルは、差し出していた手を、引っ込めた。

「……『成果』には『報酬』を。それが『合理的』だ」
ガイゼルは、僕に背を向け、倉庫の「扉」へと、向かった。


そして、夜明け前の静けさの中、マルコ爺さんの「家の扉」を、「遠慮」というものを、一切知らない「強さ」で

ドン! ドン! ドン! と、叩き始めた。
「……開けろ、爺。パンを焼け。……今すぐ、だ」

(……うわ)
(……本当に、やったよ)
僕は、その「横暴な」背中を見ながら、自分の「切り替え」が、「正解」だったことを、確信した。

(……こいつは、敵に回すと『最悪』だが)
(……『パトロン』としては『最強』だ)
(……よし、決めた)
(……こき使ってやる)
(……こいつの『覇権』とやらを、僕の『スキル』で、さっさと手伝ってやる)
(……その『見返り』に、僕は、僕の『研究』に必要な『本』も『触媒』も、全部、こいつに『用意』させてやる)


僕は、数分後、
ガイゼルがマルコ爺さんから、金貨で無理やり奪ってきた、焼きたてのパンをかじりながらガイゼルが「歩いて」きたという、僕の「怠惰の城」へと繋がる、「秘密の地下通路」を、彼の「真後ろ」を、「ペット」のようにとぼとぼと、ついて行った。







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