【完結】孤独な魔術師と愛執の公爵

舞米

文字の大きさ
4 / 35

4

しおりを挟む
アルフレッドが意識を取り戻した時、彼は見慣れた天井の下にいた。ここは、アッシュの館の自室だ。身体中に魔力切れの倦怠感が残る。隣には、呼吸も荒く、顔色を失ったアッシュが倒れていた。彼の体からは、完全に魔力が失われている。その消耗は、通常の転移魔術では考えられないほどだった。残りの魔力を全て費やし、アルフレッドを巻き込まないよう、彼自身を故郷へと転移させたのだ。

「アッシュ!」
アルフレッドは、慌ててアッシュを抱き起こした。彼の意識はない。魔力だけでなく、生命力まで使い果たしたかのような姿に、アルフレッドの心は激しく打ち震えた。

「なんてことを……!」
アルフレッドは、すぐに館に残されていた薬草や、王都から持ち込んだ回復薬を探し出し、アッシュに与えた。彼の魔力を注ぎ込み、枯れ果てたアッシュの体に活力を与えようと試みる。


数日、アルフレッドは眠ることも忘れ、アッシュの看病に当たった。冷たいタオルで額を拭い、水を飲ませ、わずかに温かいスープを流し込んだ。彼の献身的な介護が、アッシュの体に少しずつ生命の光を灯していく。

やがて、アッシュの顔に血の気が戻り始め、呼吸も落ち着いてきた。アルフレッドは、アッシュの手を握り、その手の甲にそっと唇を押し当てた。

「独りで……抱え込むな……」
アッシュの瞼が、ゆっくりと開いた。その瞳は、まだぼんやりとしているが、アルフレッドの姿を確かに捉えていた。

「……アルフレッド……」
アッシュの声は、か細く、しかし確かにアルフレッドの名を呼んだ。アルフレッドは、安堵から涙が溢れるのを止められなかった。

「もう大丈夫だ。私は、君の傍にいる。ずっと……傍にいる」
アルフレッドは、アッシュを抱きしめた。その体は、まだわずかに震えているが、確かに温かかった。王都での辛い記憶が、アッシュの心を再び閉ざそうとした。しかし、アルフレッドの揺るぎない愛情と、彼を巻き込みたくないというアッシュの純粋な思いが、二人を再びこの館へと導いたのだ。


数週間が経ち、アッシュは完全に回復した。彼の魔力も、以前のように淀んだものではなく、清らかな光を放っていた。王都での件は、アッシュにとって再び深い傷となったが、アルフレッドの献身的な看病と揺るぎない愛情が、その傷を癒やし、彼の心をさらに強くした。

「王都は……どうなった?」
ある日、アッシュは静かにアルフレッドに尋ねた。彼の瞳には、かつてのような虚ろさはなく、冷静な探究心が宿っていた。

「君の素早い対応のおかげで、街の被害は最小限に抑えられた。死者も、驚くほど少なかった」
アルフレッドは、アッシュの手を握った。

「しかし、貴族たちの間では、君への危険視が強まっている。そして、私に対しても、疑いの目が向けられている」

アッシュの顔に、再び影が差した。
「やはり……」

「だが、私は後悔していない。君が救った命がある。それがすべてだ」
アルフレッドは、アッシュの瞳を真っ直ぐに見つめた。彼の言葉には、一点の曇りもなかった。アッシュは、そのまっすぐな眼差しに、自分の心がどれほど救われているかを改めて感じた。
アルフレッドは、アッシュの頭を優しく撫でながら、昔話を始めた。


「……初めて君に会ったのは、私がまだ幼い頃だった」
アッシュは、わずかに目を見開いた。

「王都の図書館で、古文書を読み漁っていた君を見かけたんだ。あの頃、君はまだ、輝くような金色の髪と、空色の瞳をしていた。誰もが君の魔力と才能を称賛していたが、君はいつも、ただ静かに、魔術の深淵を覗き込んでいた」


アルフレッドの記憶が、鮮やかに蘇る。幼いアルフレッドは、いつも王宮の堅苦しい慣習にうんざりしていた。そんなある日、彼は偶然、図書館の一角で、見たこともないほど複雑な魔術式を解読する少年を見つけたのだ。
「君の指先から溢れる魔力は、まるで星の光のように美しかった。私は、一瞬で心を奪われた。それが、一目惚れだったのだと思う」

アッシュの頬が、ほんのり赤く染まる。アルフレッドの言葉が、彼の心をくすぐるように響いた。
「それからというもの、私は密かに君を追いかけるようになった。君がどんな魔術を研究し、どんな発見をしたのか、いつも気になっていた。だから、あの事件が起きて、君が姿を消した時……私は、世界が色を失ったかのように感じた」

アルフレッドは、アッシュの手にそっとキスをした。
「君を見つけ出すことが、私の唯一の願いだった。そして、君を見つけた時、君がどんな姿であろうと、この輝きを再び取り戻したいと、心から願ったのだ」

アッシュは、アルフレッドの言葉に、何も言えずにただ抱きしめ返した。彼の心には、王都での辛い記憶と、それ以上に、アルフレッドの深い愛情が満ちていた。自分は決して一人ではない。この男は、自分をどんな状況でも見捨てず、光を与え続けてくれる。

アルフレッドの胸の中で、アッシュは確信した。この男と共にいれば、どんな闇も乗り越えられる。彼は、アルフレッドの温かい腕の中で、ようやく本当の安らぎを見出したのだ。

二人の絆は、王都での出来事を経て、さらに深く、強固なものとなった。貴族たちの目は厳しくとも、二人の間には、誰にも踏み込めない聖域が築かれていた。







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話

あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」 トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。 お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。 攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。 兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。 攻め:水瀬真広 受け:神崎彼方 ⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。 途中でモブおじが出てきます。 義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。 初投稿です。 初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 内容も時々サイレント修正するかもです。 定期的にタグ整理します。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?

cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき) ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。 「そうだ、バイトをしよう!」 一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。 教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった! なんで元カレがここにいるんだよ! 俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。 「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」 「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」 なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ! もう一度期待したら、また傷つく? あの時、俺たちが別れた本当の理由は──? 「そろそろ我慢の限界かも」

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

契約満了につき

makase
BL
仮初めの恋人として契約を結んだ二人の、最後の夜。

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

竜神様の番

田舎
BL
いつかX内で呟いた、 『えーん、えーん…💦 竜人の攻めが長いこと探してた番の人間くんを探して(半強制的)に結婚したのに、ツンデレどころかクーデレが過ぎてたせいで、ある日人間くんが「離縁します」と置き手紙残して失踪…! 後悔とブチギレしてる話がなきゃ掃除と洗濯できない😭😭』 という自分の愚痴から始まったツイノベもどきを、再構成と校正しました。 「番」とは何かも知らされず、 選択肢すら与えられなかった人間リオと、 大切にしている“つもり”だった竜人のナガレ。 ちゃんとハッピーエンドです。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

処理中です...