【完結】孤独な魔術師と愛執の公爵

舞米

文字の大きさ
6 / 35

6

しおりを挟む
アッシュの完全回復を見届けたアルフレッドは、彼の館を後にし、王都へと戻った。アッシュの誤解を解くべく、彼は連日、貴族たちとの会合に臨んだ。しかし、彼の努力は虚しく、王都に深く根付いた「闇堕ちした魔術師」という烙印は、そう簡単に拭い去れるものではなかった。

「公爵様は、あの魔術師に誑かされたのではありませんか?」

「危険な存在であることに変わりはない。むしろ、公爵家までその影響を受けているとあっては……」

貴族たちの冷たい視線や非難の声が、アルフレッドの耳に突き刺さる。彼らはアッシュの過去の過ちだけを捉え、その裏にあった真実や、彼が救った命の数々には目を向けようとしない。アルフレッドは焦燥感を募らせながらも、諦めずに説得を続けた。


一方、館に残されたアッシュは、久方ぶりの一人きりの時間に、不思議な感覚を覚えていた。アルフレッドが来る前の孤独とは、明らかに違うものだ。静かな館には、彼の足音も、話しかける声もない。温かいスープの湯気も、花瓶に挿された花も、全てが色褪せて見える。

「……寂しい……?」
アッシュは、自らの感情に驚いた。今まで、一人でいることに慣れきっていたはずなのに。いや、慣れきっていたと思っていただけなのか。アルフレッドが来てから、彼の心がどれほど満たされていたかを、改めて痛感した。

日が傾き、西の空が赤く染まる頃には、その寂しさは募るばかりだった。アルフレッドは今、何をしているだろう。また、誰かに石を投げられているのではないか。罵声を浴びせられているのではないか。アッシュの胸に、かつてないほどの不安が押し寄せた。

「早く……会いたい」
無意識のうちに、アッシュの口から言葉が漏れた。そして、その胸に手を当てる。アルフレッドが傍にいると、冷え切っていたはずの心が、どうしてこんなにも温かくなるのだろう。この温かさは、彼の魔力とは違う、もっと深い、内側から湧き上がるようなものだった。

アルフレッドは、自分の心を包み込む光。自分は、彼を危険に巻き込んでしまうかもしれない存在。しかし、それでも、彼の温かさを求めてしまう自分がいる。アッシュは、知らず知らずのうちに、アルフレッドを深く求め始めていることに気づき、戸惑いながらも、その募る想いを抑えきれずにいた。



そうこうしているうちに、王都は年に一度の社交界シーズンを迎えた。アルフレッドは公爵家として、その責務を果たすべく、連夜舞踏会や晩餐会に出席しなければならなかった。華やかな会場には、ドレスをまとった貴婦人たちや、きらびやかな衣装を身につけた貴公子たちが集い、優雅な会話が交わされる。しかし、アルフレッドの心は、全く別の場所にあった。

賑やかな喧騒の中で、アルフレッドの意識は、いつもアッシュの館へと向かっていた。
今頃、アッシュは一人で何をしているだろう。温かい食事は摂れているだろうか。あの繊細な体は、寒さに震えてはいないだろうか。会いたいという欲求が、日を追うごとに強くなる。彼の隣には、アッシュという存在が当たり前になっていたのだ。

アルフレッドは、会話の途中でふと、アッシュが寂しさを覚えているかもしれないと気づいた。あの小さな背中が、一人で凍えるように座っている姿が脳裏に浮かび、胸が締め付けられる。彼は、一刻も早くアッシュの元へ帰りたいと、強く願った。
そんなある夜、社交界は突然の混乱に陥った。

アルフレッドはいつものように舞踏会に出席していた。華やかな音楽、煌びやかな装飾、そして優雅な会話。しかし、その裏で、異様な空気が流れ始めていた。

「……うっ……」
隣にいた貴族が、突然苦しみだしたのだ。

「何だ……一体、何が……」
会場は騒然となった。次々と貴族たちが倒れ始める。その症状は、激しい腹痛、吐き気、そして全身の麻痺。ただの体調不良ではない。これは、毒だ。
アルフレッドは、すぐさま状況を把握した。この毒は、ただの毒ではない。高度な魔術が施されており、通常の解毒薬や魔術では効果がない。そして、この毒が王族や高位貴族たちを無差別に襲っていることから、これは単なる暗殺未遂ではなく、国家を揺るがす陰謀であることが明らかになった。

「一体、誰が……何のために……」
アルフレッドは、怒りと焦燥に駆られた。しかし、彼自身も、毒に侵されていた。

「……まさか……」
アルフレッドは、自分の体に異変を感じた。激しい吐き気と、全身を這うような痺れ。視界が歪み、立っているのがやっとだった。
その時、アルフレッドは、ふとあることに気づいた。

「……アッシュ……?」
アルフレッドは、意識を失う寸前、かすかな魔力を感じた。それは、微弱だが、確かにアッシュの魔力だった。アッシュは、無意識のうちにアルフレッドに防御の魔術をかけていたのだ。そのおかげで、アルフレッドは辛うじて意識を保っていたが、毒は確実に彼の体を蝕んでいた。
その時、アルフレッドの脳裏に、アッシュの姿が鮮明に浮かび上がった。

「アッシュ………」
アルフレッドは、意識が途切れる直前、心の中でそう叫んだ。


アッシュは、いつものように静かな館で、アルフレッドの帰りを待っていた。しかし、その心には、拭い去れない不安が渦巻いていた。王都での社交界シーズンは、アッシュにとって、悪夢のような記憶を呼び起こすものだった。

「……アルフレッド……大丈夫だろうか……」
その時、アッシュは異変に気づいた。
彼の体内に流れる魔力が、微かに乱れているのだ。それは、アルフレッドにかけた防御の魔術の反応だった。アルフレッドの身に、何かが起こっている。しかも、ただ事ではない。

アッシュは、すぐさま立ち上がった。
「……アルフレッド……!」










しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話

あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」 トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。 お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。 攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。 兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。 攻め:水瀬真広 受け:神崎彼方 ⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。 途中でモブおじが出てきます。 義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。 初投稿です。 初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 内容も時々サイレント修正するかもです。 定期的にタグ整理します。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?

cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき) ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。 「そうだ、バイトをしよう!」 一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。 教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった! なんで元カレがここにいるんだよ! 俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。 「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」 「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」 なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ! もう一度期待したら、また傷つく? あの時、俺たちが別れた本当の理由は──? 「そろそろ我慢の限界かも」

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

契約満了につき

makase
BL
仮初めの恋人として契約を結んだ二人の、最後の夜。

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

竜神様の番

田舎
BL
いつかX内で呟いた、 『えーん、えーん…💦 竜人の攻めが長いこと探してた番の人間くんを探して(半強制的)に結婚したのに、ツンデレどころかクーデレが過ぎてたせいで、ある日人間くんが「離縁します」と置き手紙残して失踪…! 後悔とブチギレしてる話がなきゃ掃除と洗濯できない😭😭』 という自分の愚痴から始まったツイノベもどきを、再構成と校正しました。 「番」とは何かも知らされず、 選択肢すら与えられなかった人間リオと、 大切にしている“つもり”だった竜人のナガレ。 ちゃんとハッピーエンドです。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

処理中です...