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アッシュの完全回復を見届けたアルフレッドは、彼の館を後にし、王都へと戻った。アッシュの誤解を解くべく、彼は連日、貴族たちとの会合に臨んだ。しかし、彼の努力は虚しく、王都に深く根付いた「闇堕ちした魔術師」という烙印は、そう簡単に拭い去れるものではなかった。
「公爵様は、あの魔術師に誑かされたのではありませんか?」
「危険な存在であることに変わりはない。むしろ、公爵家までその影響を受けているとあっては……」
貴族たちの冷たい視線や非難の声が、アルフレッドの耳に突き刺さる。彼らはアッシュの過去の過ちだけを捉え、その裏にあった真実や、彼が救った命の数々には目を向けようとしない。アルフレッドは焦燥感を募らせながらも、諦めずに説得を続けた。
一方、館に残されたアッシュは、久方ぶりの一人きりの時間に、不思議な感覚を覚えていた。アルフレッドが来る前の孤独とは、明らかに違うものだ。静かな館には、彼の足音も、話しかける声もない。温かいスープの湯気も、花瓶に挿された花も、全てが色褪せて見える。
「……寂しい……?」
アッシュは、自らの感情に驚いた。今まで、一人でいることに慣れきっていたはずなのに。いや、慣れきっていたと思っていただけなのか。アルフレッドが来てから、彼の心がどれほど満たされていたかを、改めて痛感した。
日が傾き、西の空が赤く染まる頃には、その寂しさは募るばかりだった。アルフレッドは今、何をしているだろう。また、誰かに石を投げられているのではないか。罵声を浴びせられているのではないか。アッシュの胸に、かつてないほどの不安が押し寄せた。
「早く……会いたい」
無意識のうちに、アッシュの口から言葉が漏れた。そして、その胸に手を当てる。アルフレッドが傍にいると、冷え切っていたはずの心が、どうしてこんなにも温かくなるのだろう。この温かさは、彼の魔力とは違う、もっと深い、内側から湧き上がるようなものだった。
アルフレッドは、自分の心を包み込む光。自分は、彼を危険に巻き込んでしまうかもしれない存在。しかし、それでも、彼の温かさを求めてしまう自分がいる。アッシュは、知らず知らずのうちに、アルフレッドを深く求め始めていることに気づき、戸惑いながらも、その募る想いを抑えきれずにいた。
そうこうしているうちに、王都は年に一度の社交界シーズンを迎えた。アルフレッドは公爵家として、その責務を果たすべく、連夜舞踏会や晩餐会に出席しなければならなかった。華やかな会場には、ドレスをまとった貴婦人たちや、きらびやかな衣装を身につけた貴公子たちが集い、優雅な会話が交わされる。しかし、アルフレッドの心は、全く別の場所にあった。
賑やかな喧騒の中で、アルフレッドの意識は、いつもアッシュの館へと向かっていた。
今頃、アッシュは一人で何をしているだろう。温かい食事は摂れているだろうか。あの繊細な体は、寒さに震えてはいないだろうか。会いたいという欲求が、日を追うごとに強くなる。彼の隣には、アッシュという存在が当たり前になっていたのだ。
アルフレッドは、会話の途中でふと、アッシュが寂しさを覚えているかもしれないと気づいた。あの小さな背中が、一人で凍えるように座っている姿が脳裏に浮かび、胸が締め付けられる。彼は、一刻も早くアッシュの元へ帰りたいと、強く願った。
そんなある夜、社交界は突然の混乱に陥った。
アルフレッドはいつものように舞踏会に出席していた。華やかな音楽、煌びやかな装飾、そして優雅な会話。しかし、その裏で、異様な空気が流れ始めていた。
「……うっ……」
隣にいた貴族が、突然苦しみだしたのだ。
「何だ……一体、何が……」
会場は騒然となった。次々と貴族たちが倒れ始める。その症状は、激しい腹痛、吐き気、そして全身の麻痺。ただの体調不良ではない。これは、毒だ。
アルフレッドは、すぐさま状況を把握した。この毒は、ただの毒ではない。高度な魔術が施されており、通常の解毒薬や魔術では効果がない。そして、この毒が王族や高位貴族たちを無差別に襲っていることから、これは単なる暗殺未遂ではなく、国家を揺るがす陰謀であることが明らかになった。
「一体、誰が……何のために……」
アルフレッドは、怒りと焦燥に駆られた。しかし、彼自身も、毒に侵されていた。
「……まさか……」
アルフレッドは、自分の体に異変を感じた。激しい吐き気と、全身を這うような痺れ。視界が歪み、立っているのがやっとだった。
その時、アルフレッドは、ふとあることに気づいた。
「……アッシュ……?」
アルフレッドは、意識を失う寸前、かすかな魔力を感じた。それは、微弱だが、確かにアッシュの魔力だった。アッシュは、無意識のうちにアルフレッドに防御の魔術をかけていたのだ。そのおかげで、アルフレッドは辛うじて意識を保っていたが、毒は確実に彼の体を蝕んでいた。
その時、アルフレッドの脳裏に、アッシュの姿が鮮明に浮かび上がった。
「アッシュ………」
アルフレッドは、意識が途切れる直前、心の中でそう叫んだ。
アッシュは、いつものように静かな館で、アルフレッドの帰りを待っていた。しかし、その心には、拭い去れない不安が渦巻いていた。王都での社交界シーズンは、アッシュにとって、悪夢のような記憶を呼び起こすものだった。
「……アルフレッド……大丈夫だろうか……」
その時、アッシュは異変に気づいた。
彼の体内に流れる魔力が、微かに乱れているのだ。それは、アルフレッドにかけた防御の魔術の反応だった。アルフレッドの身に、何かが起こっている。しかも、ただ事ではない。
アッシュは、すぐさま立ち上がった。
「……アルフレッド……!」
「公爵様は、あの魔術師に誑かされたのではありませんか?」
「危険な存在であることに変わりはない。むしろ、公爵家までその影響を受けているとあっては……」
貴族たちの冷たい視線や非難の声が、アルフレッドの耳に突き刺さる。彼らはアッシュの過去の過ちだけを捉え、その裏にあった真実や、彼が救った命の数々には目を向けようとしない。アルフレッドは焦燥感を募らせながらも、諦めずに説得を続けた。
一方、館に残されたアッシュは、久方ぶりの一人きりの時間に、不思議な感覚を覚えていた。アルフレッドが来る前の孤独とは、明らかに違うものだ。静かな館には、彼の足音も、話しかける声もない。温かいスープの湯気も、花瓶に挿された花も、全てが色褪せて見える。
「……寂しい……?」
アッシュは、自らの感情に驚いた。今まで、一人でいることに慣れきっていたはずなのに。いや、慣れきっていたと思っていただけなのか。アルフレッドが来てから、彼の心がどれほど満たされていたかを、改めて痛感した。
日が傾き、西の空が赤く染まる頃には、その寂しさは募るばかりだった。アルフレッドは今、何をしているだろう。また、誰かに石を投げられているのではないか。罵声を浴びせられているのではないか。アッシュの胸に、かつてないほどの不安が押し寄せた。
「早く……会いたい」
無意識のうちに、アッシュの口から言葉が漏れた。そして、その胸に手を当てる。アルフレッドが傍にいると、冷え切っていたはずの心が、どうしてこんなにも温かくなるのだろう。この温かさは、彼の魔力とは違う、もっと深い、内側から湧き上がるようなものだった。
アルフレッドは、自分の心を包み込む光。自分は、彼を危険に巻き込んでしまうかもしれない存在。しかし、それでも、彼の温かさを求めてしまう自分がいる。アッシュは、知らず知らずのうちに、アルフレッドを深く求め始めていることに気づき、戸惑いながらも、その募る想いを抑えきれずにいた。
そうこうしているうちに、王都は年に一度の社交界シーズンを迎えた。アルフレッドは公爵家として、その責務を果たすべく、連夜舞踏会や晩餐会に出席しなければならなかった。華やかな会場には、ドレスをまとった貴婦人たちや、きらびやかな衣装を身につけた貴公子たちが集い、優雅な会話が交わされる。しかし、アルフレッドの心は、全く別の場所にあった。
賑やかな喧騒の中で、アルフレッドの意識は、いつもアッシュの館へと向かっていた。
今頃、アッシュは一人で何をしているだろう。温かい食事は摂れているだろうか。あの繊細な体は、寒さに震えてはいないだろうか。会いたいという欲求が、日を追うごとに強くなる。彼の隣には、アッシュという存在が当たり前になっていたのだ。
アルフレッドは、会話の途中でふと、アッシュが寂しさを覚えているかもしれないと気づいた。あの小さな背中が、一人で凍えるように座っている姿が脳裏に浮かび、胸が締め付けられる。彼は、一刻も早くアッシュの元へ帰りたいと、強く願った。
そんなある夜、社交界は突然の混乱に陥った。
アルフレッドはいつものように舞踏会に出席していた。華やかな音楽、煌びやかな装飾、そして優雅な会話。しかし、その裏で、異様な空気が流れ始めていた。
「……うっ……」
隣にいた貴族が、突然苦しみだしたのだ。
「何だ……一体、何が……」
会場は騒然となった。次々と貴族たちが倒れ始める。その症状は、激しい腹痛、吐き気、そして全身の麻痺。ただの体調不良ではない。これは、毒だ。
アルフレッドは、すぐさま状況を把握した。この毒は、ただの毒ではない。高度な魔術が施されており、通常の解毒薬や魔術では効果がない。そして、この毒が王族や高位貴族たちを無差別に襲っていることから、これは単なる暗殺未遂ではなく、国家を揺るがす陰謀であることが明らかになった。
「一体、誰が……何のために……」
アルフレッドは、怒りと焦燥に駆られた。しかし、彼自身も、毒に侵されていた。
「……まさか……」
アルフレッドは、自分の体に異変を感じた。激しい吐き気と、全身を這うような痺れ。視界が歪み、立っているのがやっとだった。
その時、アルフレッドは、ふとあることに気づいた。
「……アッシュ……?」
アルフレッドは、意識を失う寸前、かすかな魔力を感じた。それは、微弱だが、確かにアッシュの魔力だった。アッシュは、無意識のうちにアルフレッドに防御の魔術をかけていたのだ。そのおかげで、アルフレッドは辛うじて意識を保っていたが、毒は確実に彼の体を蝕んでいた。
その時、アルフレッドの脳裏に、アッシュの姿が鮮明に浮かび上がった。
「アッシュ………」
アルフレッドは、意識が途切れる直前、心の中でそう叫んだ。
アッシュは、いつものように静かな館で、アルフレッドの帰りを待っていた。しかし、その心には、拭い去れない不安が渦巻いていた。王都での社交界シーズンは、アッシュにとって、悪夢のような記憶を呼び起こすものだった。
「……アルフレッド……大丈夫だろうか……」
その時、アッシュは異変に気づいた。
彼の体内に流れる魔力が、微かに乱れているのだ。それは、アルフレッドにかけた防御の魔術の反応だった。アルフレッドの身に、何かが起こっている。しかも、ただ事ではない。
アッシュは、すぐさま立ち上がった。
「……アルフレッド……!」
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