【完結】孤独な魔術師と愛執の公爵

舞米

文字の大きさ
9 / 35

9

しおりを挟む
王都の混乱が落ち着き、アッシュの名誉が回復されたことで、二人の日々は穏やかなものへと変わっていった。アッシュは館に閉じこもることはなくなり、アルフレッドと共に王都の図書館を訪れたり、庭でゆっくりと花を育てたりするようになった。

彼の魔力は完全に回復し、かつての輝きを取り戻していた。しかし、彼の心に刻まれた深い傷は、完全に消えることはない。それでも、アルフレッドが傍にいることで、アッシュは確実に前を向いていた。

アルフレッドは、アッシュが笑う姿を見るたびに、胸の奥が温かくなるのを感じた。あの寂しげな瞳が、今では穏やかな光を宿している。それは、彼にとって何よりも尊いものだった。しかし、アルフレッドの心には、もう一つの強い願いがあった。

ある晴れた午後、アルフレッドはアッシュを誘った。
「アッシュ、もしよければ、今度、王都の郊外にある湖へ行かないか? ちょうど、白百合が見頃だと聞いたんだ。君が以前、庭で白い花を愛おしそうに見ていたのを覚えていてね」

アッシュは、わずかに目を見開いた。白い百合は、彼が王都での騒動の際に転移魔術で共に持ち帰った花だ。アルフレッドが、そんな些細なことまで覚えていてくれたことに、心が震える。

「……白百合……」
アッシュは、どこか懐かしむような、切ないような表情を浮かべた。しかし、その瞳には、かすかな期待の光が宿っていた。

「ああ。きっと、君も気に入るだろう」
アルフレッドは、アッシュの手をそっと取った。アッシュは、ためらいなくその手を握り返した。二人の間に、静かな温かさが流れた。



数日後、二人は約束通り湖へ向かった。湖畔には、一面に白い百合が咲き誇り、風に揺れるたびに、甘く清らかな香りをあたりに漂わせる。アッシュは、その光景に目を奪われた。彼の顔には、かつて見たことのない、穏やかな感動が浮かんでいた。

「……美しい……」
アッシュが、小さく呟いた。その声は、心からの言葉だった。
アルフレッドは、アッシュの隣に立ち、その横顔を見つめた。今だ。そう直感した。彼の心臓が、激しく高鳴る。

「アッシュ」
アルフレッドは、アッシュの肩にそっと手を置いた。アッシュは、ゆっくりとアルフレッドの方を振り向く。その瞳は、湖面に反射する光のように、キラキラと輝いていた。

「私は……君に、伝えたいことがある」
アルフレッドは、深呼吸をした。そして、まっすぐアッシュの目を見つめ、真剣な眼差しで言葉を紡いだ。

「アッシュ。私は、君を愛している。幼い頃に君の魔術に魅せられ、その輝きを追い求めてきた。君が闇に囚われ、世間から忌み嫌われた時も、私の心は決して君から離れることはなかった。君の悲しみも、苦しみも、すべてを受け止めたい。君の光も、闇も、すべてを愛したい」


アルフレッドの声は、湖畔に静かに響き渡る。アッシュは、その言葉に、息をのんだ。彼の瞳は、大きく見開かれ、驚きと、そして深い感動に揺れていた。

「君が私を拒絶しても、私が傷ついても、私は君の傍を離れることはなかった。それは、ただ君を救いたいという一心だった。だが、いつしか、それは愛へと変わっていた。君の笑顔を見たい。君の温かさを感じたい。君と共に、生きていきたい」
アルフレッドは、アッシュの手を取り、その手の甲に、もう一度、深く唇を落とした。


「私と、共に生きてくれないか? 私のすべてを懸けて、君を愛し、守り抜くことを誓う」

アッシュの瞳から、大粒の涙が溢れ落ちた。それは、悲しみではない。深い愛情と、長年の孤独から解放された安堵の涙だった。彼は、アルフレッドの言葉が、自分の心の最も深い場所に響き渡るのを感じていた。

「……アルフレッド……」
アッシュは、震える声でアルフレッドの名を呼んだ。そして、自らアルフレッドの腕の中に飛び込んだ。アルフレッドは、アッシュを強く抱きしめた。彼の温かさが、アッシュの体を包み込み、すべての不安や悲しみを溶かしていく。


「……私も……貴方を……愛している……」
アッシュの言葉は、か細く、しかし確かにアルフレッドの耳に届いた。アルフレッドは、その言葉に、全身が震えるほどの喜びを感じた。

湖畔に咲き誇る白い百合が、二人を祝福するかのように、静かに揺れていた。長い道のりを経て、ようやく二人の心が一つになった瞬間だった。







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話

あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」 トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。 お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。 攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。 兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。 攻め:水瀬真広 受け:神崎彼方 ⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。 途中でモブおじが出てきます。 義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。 初投稿です。 初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 内容も時々サイレント修正するかもです。 定期的にタグ整理します。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?

cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき) ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。 「そうだ、バイトをしよう!」 一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。 教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった! なんで元カレがここにいるんだよ! 俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。 「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」 「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」 なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ! もう一度期待したら、また傷つく? あの時、俺たちが別れた本当の理由は──? 「そろそろ我慢の限界かも」

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

契約満了につき

makase
BL
仮初めの恋人として契約を結んだ二人の、最後の夜。

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

竜神様の番

田舎
BL
いつかX内で呟いた、 『えーん、えーん…💦 竜人の攻めが長いこと探してた番の人間くんを探して(半強制的)に結婚したのに、ツンデレどころかクーデレが過ぎてたせいで、ある日人間くんが「離縁します」と置き手紙残して失踪…! 後悔とブチギレしてる話がなきゃ掃除と洗濯できない😭😭』 という自分の愚痴から始まったツイノベもどきを、再構成と校正しました。 「番」とは何かも知らされず、 選択肢すら与えられなかった人間リオと、 大切にしている“つもり”だった竜人のナガレ。 ちゃんとハッピーエンドです。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

処理中です...