異世界召喚されました。親友は第一王子に惚れられて、ぽっちゃりな私は聖女として精霊王とイケメン達に愛される!?〜聖女の座は親友に譲ります〜

あいみ

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第二章

真実

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 気がつくと何もない真っ白な空間にいた。

 悲しげな表情を浮かべたままシェイドはただ、私を見つめるだけ。

 時折、触れようと伸ばされるては触れる寸前で止まる。

 まるで気を遣っているみたい。

 そんな行動を何回も繰り返したあと、優しく抱きしめてくれた。

 ホワンとした温もり。シェイドは何も言わずに抱きしめてくれるだけ。

 どれぐらい時間が経ったのか。離れ難い温もりにすっかり安心していた。

 胸の中のザワつきも消えて段々と冷静さを取り戻す。

「もう大丈夫そうだな」

 一心同体。まさにその通り。

 シェイドは私の心を読んでいるかのように、そっと離れた。

「うん。ありがとう」

 この空間は心地良いけど、寂しいし物足りない。

 キース達がいないからだ。

 私の人生にはもう、キースとラヴィがいる。いつの間にかそれが当たり前になっていた。

 どんなに居心地が良くても、苦しみや辛さのなくても、私はそんな世界で生きていたいとは思わない。

「シェイド。本当にありがとう」
「礼ならもう聞いた」
「だって、前回もこうして傍にいてくれたでしょ?」
「私のことを思い出して……?」

 どうしようもなく嬉しいときに涙が出るのは人も精霊王も同じらしい。

 零れる涙はとても綺麗で輝いている。

 力強い抱擁。

 シェイドはずっと待っていてくれた。もしかしたら一生来ないかもしれない、この瞬間を。

「ありがとう、傍にいてくれて。シェイドがいなかったら私、心が潰れてた」
「愛し子を守るのは私の役目だ」

 誇らしげな表情をするも、まだ涙は目に浮かんでいる。

 切り取られた美しい絵画のよう。

 私が異空間から戻ったのは三日後だった。

「おかえりなさいませ。コトネ様」
「た、ただいま」

 ラヴィはいつもと変わらない態度で私に接してくれる。それが何だか安心した。

 興味本位で聞いてくるのではなく、私が話すのを待ってくれているのかな。

 目に見えない優しさは、つい友愛と比べてしまう。私がポツリと呟いた言葉を聞き逃さなかった友愛は、私の気持ちなんてお構いなしに詳細を求めた。

 たった一人の友達。友愛を信じ切って、慰めて欲しくて。私は話したんだ。

 あのとき友愛はどんな顔をしていたっけ。私に寄り添うありきたりな言葉を並べながらも、口角は上がっていた気がする。

 嘲笑ってよろこんでいたんだ。私を陥れるネタが手に入って。

 都合の良い所だけを切り取って、それとなく噂を流した。私を苦しめたいがために。

 間抜けすぎるよ、過去の私。

「私がいない間、何か変わったとこなかった?大丈夫?」

 カイザー様招集の集まりを勝手に抜けて、残されたキース達が罵詈雑言を浴びせられたかもしれない。

 もしも酷いことを言ってたのだとしたら、私はカイザー様を許さない。そんな状況を作り出した友愛を、絶対に許さない。

「コトネ様。何があったのか真実をお話頂けませんか」

 突然だった。

 私も話さなくてはと思っていたけど、いざ聞かれると心の準備が出来ていない。

 嫌なんだ。真実を話して、やっぱり「人殺し」と軽蔑されるのが。キースにだけは、そんな風に思われることは耐えられない。

「私はコトネ様の口から語られたことしか信じません」

 力強い曇りなき眼差しは、しっかりと私と見据える。

 ネガティブなイメージが吹き飛ぶ。

 キースは私を陥れるわけでも、蔑むわけでもなく、本気で真実だけを知りたいだけ。

 信じて欲しい。聞いてもらいたい。

 私はずっとお母さんの死を原因を受け入れながらも、誰かに話して否定されることを恐れた。

 心のどこかで「そんなことない」と慰めて欲しかったんだ。

 私って実はこんなに面倒な人間だったのか。

 「風邪を……引いたの」

 忘れることも消えることもない、鮮明に色付いた記憶。

 季節は秋で、ちょっと肌寒い日。

 うなされるような高熱を出したわけではないけど、咳が止まらなくて。
 大事をとって学校を休むことになった。

 一人で家にいることは珍しいことでもなく、慣れているはずだったんだけど……。

 人間。弱っていると寂しさに押し潰されそうになる。

 ベランダに出て、仕事へと向かうお母さんに声をかけた。普段は口にしないような

 「早く帰ってきてね」

 と、言いたくて。

 それが余程、珍しかったのかお母さんは驚きながらもすぐに笑顔で

 「帰ってきたらギューって抱きしめてあげる!」

 そう……約束いったした直後。居眠り運転の車に撥ねられた。
 体は宙を舞い、鈍い音と共に落下。頭は潰れて大惨事。その場にいた人は皆、悲鳴を上げて大パニック。
 人を撥ねた衝撃で目を覚ました運転手は開けた窓から外を確認して、すぐに逃走。
 目撃者が車のナンバーを覚えていたことから犯人はすぐに捕まった。

 「何が起きたのか理解出来なかった」

 激しい喪失感。

 私を愛してくれていたお母さんは焼かれて骨となり、もう私の前に現れることはない。

 周りの大人は必死に私のせいじゃないから責任を感じなくていいと慰めてくれる。

 でも……。

 「私が声をかけなかれば。大人しく寝ていれば。お母さんは立ち止まることなく、渡りきっていた」

 青になった信号を渡る途中で、私の声に振り向いて手を振ってくれた。

 私のせいなのだ。私が殺した。
 罪の意識を感じずにはいられない。

 奪ってしまった。お父さんから、この世界で一番大切な愛している人を。

 償わなくては。

 命には命で。

 お母さんと同じように車に撥ねられたら、誰もが納得する死となる。

 「そうやって私は私を殺そうとしたの」

 どうにか話し終えた。

 途中で何度、口を閉ざしたくなったことか。

 経験したあの痛みは、子供ながらに思った。これを超えるものはこの先一生、ないのだと。

 静かに聞いてくれたキースは泣いてくれた。まるで自分のことのように、胸を痛めてくれている。
 安易な言葉をかけるわけでもなく、私の手を強く握ってくれたんだ。

 その手は温かくて不安を取り除いてくれるような、そんな感じがした。

 「どうか……」

 震える声は真っ直ぐと私に向けられている。

 「ご自分を責めないで下さい。コトネ様の母君の命を奪ったのは、クルマという物に乗っていた男であり、コトネ様ではありません」

 何度も聞いた。同じことを繰り返し。

 私が声をかけなければ死ななかった。
 それだけが事実であり真実。

 だからね。本当はホッとしてたんだ。
 人殺しと陰口を叩かれることを。

 形にして責められることで、私の罪を明確にしてくれる。

 法の裁きを受けられない私は、罪を責めれるしかない。

 「コトネ様。母君はきっと、そんなことを思っておりません」

 握った手を、両手で包み込む。

 「ユア殿の醜悪な魅了から守るほどの愛情を注いでくれた母君が、コトネ様のせいで死んだと思うはずがない」

 あの日からお母さんとの思い出は血で染まり、次第に忘れていった。
 最初からないものだとして、私の記憶から消したんだ。

 キースの言葉は私に大切なことを思い出させてくれた。

 私は恨まれてなんかない。お父さんも私に死んで欲しくなかったのだ。

 もうそこにはいない、天国に行ったお母さんの想いを代わりに伝えてくれた。

 目には見えないだけで、空の上から私を見守りずっとずっと愛してくれているのだと。

 「っ、わた……バカだ。ちゃんと伝えてくれていたのに。自己満のために責められたくて」
 「コトネ様はまだ幼い子供でした!間違えるのも無理はありません」
 「間違いを正す時間はいっぱいあったのに無視した。人殺しと言われることに安心してたの」
 「これからも……そう、ですか?」

 涙を拭ったキースは悲しそうに笑顔を浮かべた。

 「ううん。私は……。キッカケを作ったかもしれないけど、でも……」

 罪の意識が消えるわけではないけれど。
 いつまでも立ち止まったままでいるのはやめる。前に進むんだ。

 私を愛してくれている、大好きなお母さんがそれを望んでいるから。

 「コトネ様を人殺しと責める者は私が斬ります。誰であろうとも」

 爽やかに宣言するキースは本気で、後ろのラヴィも特定の人間を思い浮かべては殺意に満ちている。

 シェイドは優しく抱きしめてくれては目元を手で覆う。
 優しく温かい光は一瞬の奇跡を見せてくれた。
 叶うことのなかった、ギューって抱きしめてくれる。

 頭が潰れて助からないことを悟ったお母さんは、残された数秒という短い時間で、ただ想う。

 仕事を終わらせて急ぐように走って帰ったお母さんは、出迎えた私を玄関で抱きしめては「大好き」と言ってくれる。

 そうなるはずだった現実を思い、最後まで私達家族を愛してくれていた。

 誰にも知り得ることのなかった、紛れもなくお母さんの真実。

 生きていこう。この切なくも愛おしい想いを胸に。

 友愛の言葉に惑わされなように強く。

 私を信じてくれる彼らと一緒に。

 「コトネ様。今のお話、あの場にいた方々にも伝えて構いませんか?」
 「…………はい?」
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